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金融庁「異例の長崎説明会」の意図

金融庁は3月8日、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と十八銀行の経営統合で揺れる長崎県で、地元関係者の理解を得ることを目的とした説明会を開いた。金融庁が地銀の経営統合の意義・目的を公式に説明するのは初めて。説明会の開催は、「市場が寡占化して貸出金利が高止まりする」といった地元の不安を解消することが目的だが、FFGと十八銀行の統合実現に向けた“援護射撃”、さらには統合効果が乏しい地銀再編に警鐘を鳴らす金融庁の意図がありそうだ。

「競争環境は維持できる」

 金融庁は3月8日、長崎市内で近年の地域金融機関向けの行政方針と、地銀の経営統合の意義・目的について基本的な考え方を説明する会合を開催した。長年にわたって地域金融を担当してきた監督局の西田直樹審議官が、地元の経済界や記者向けに2時間程度説明した。  周知のとおり、FFGと十八銀行(長崎市)は昨年2月に経営統合を発表し、今年4月の統合を経て、FFG傘下の親和銀行(佐世保市)と十八銀行が2018年4月に合併する運びになっていた。ところが、独占禁止法に基づく公正取引委員会の企業結合審査がよもやの長期化。統合スケジュールは当初の予定から延期され、今後の見通しが立たない状況となっている。
 公取委の審査が長期化している背景にあるのが、十八銀行と親和銀行の合併によって長崎県内の貸出金シェアが約7割にのぼる「市場の寡占化」だ。離島などではシェア100%の「市場独占」になる地域もある。地元経済界には「市場が寡占化して貸出金利が上がるのではないか」といった不安があるため、金融庁幹部が“火中の地域”に出向き、地銀再編の意義や目的などを説明して、地元の不安を解消することが今回の会合の目的だ。
 説明会には、地元の企業関係者115人が参加。長崎財務事務所が商工会議所の会員に参加を呼びかけたほか、ホームページでも参加者を募った。  西田審議官は説明のなかで、「人口減少によって地元の貸出の市場規模が縮小していく地銀では、将来的に事業規模の縮小を余儀なくされる」と指摘。25年までに6割超の地銀が顧客向けサービス業務(本業の利益)で赤字になるとした「金融レポート」(16年9月公表)の試算などをもとに、「地銀が安定的な収益を確保することが困難になれば、地域における金融仲介機能の確保が危ぶまれる」との考えを示した。そのうえで、「経営統合は地銀の経営の健全性を維持し、金融の仲介機能を安定的に発揮していくための選択肢の一つ」であると説明。さらに、金融庁が地銀の経営統合を積極的に推進しているという見方は「誤解」だとし、FFGと十八銀行の経営統合を金融庁が強く働きかけたとの見方についても「誤解である」と述べた。
 FFGと十八銀行の経営統合に関する公取委審査で焦点となっている「地域における競争環境の維持」についても言及した。西田審議官は「地域の金融市場は都道府県単位では形成されず、市場は県境を越えて広がっていく」「貸出によって利益が生まれる分野には他県の地銀の参入が容易である」とし、同一県内の地銀同士が合併したあとも「競争環境は維持できる」との見解を示した。今後も福岡財務支局や長崎財務事務所が主体になり、地元企業向けの説明を行っていくという。要望があれば他の地域でも開催していく方針だ。

審査難航の遠因に地元の反対?

 「FFGと十八銀行の経営統合をあらゆる手段を尽くして実現させたい金融庁の強い意気込みが感じられる」。ある関係者は、今回の説明会の意図をこう解説する。
 FFGと十八銀行の経営統合が実現するには、公取委の審査が前に進まないことには始まらない。市場の寡占化を巡っては、「長崎市や佐世保市など都市部の経済団体関係者の理解は進みつつある」(金融庁幹部)が、「シェアが100%になるような離島・地域の関係者の不安は根強い」(同)。公取委の審査が難航している遠因には、「統合に反対する地元経済界や自治体の姿勢が影響している」(関係者)との見方もあり、経営統合の実現に向けては地元の不安を払拭する必要がある。
 実際、今回の説明会でも参加者から不安の声があがった。十八銀行と親和銀行が合併すると貸出シェアが100%になる対馬から参加した男性は、「対馬には信金・信組がない。2行が合併したら(合併行の)いいなりなってしまうのでは」と質した。ほかにも、「シェアが高い金融機関が誕生すると、経営効率化によってシェアがさらに高まるのではないか」といった質問が出た。
 こうした不安があることを受けて、金融庁は十八銀行と親和銀行に、地元経済界・自治体に対する説明の強化を要請している。西田審議官も説明会のなかで「統合を検討する銀行自らが、対金融庁ではなく地域の顧客に対して経営統合の目的や地元経済界にとっての効果を具体的にわかりやすく説明し、理解と信任を得ていくことが重要だ」と話したほか、ある金融庁幹部も「『切り捨てられるのではないか』との不安感がぬぐえない離島の関係者などに対して、経営統合の目的や効果を当事者へのメリットが伝わるように説明してほしい」と話す。
 また金融庁は、寡占化による貸出金利の上昇シナリオは、「検査・監督を通じたモニタリングによって解消可能」(幹部)という考え方をもっている。「統合によって地銀が経営の効率化を図り、ヒト・モノ・カネの余力をつければ、そのぶんだけ金利を上げないで済むという考えもできる」(同)。経営統合によって浮いた経営資源を企業向けのコンサルティング業務などに振り向ける取組みを、検査・監督を通じて促すことができるとの見解だ。

統合効果が乏しい地銀再編に警鐘

 加えて、今回の説明会には、西田審議官が語った「地銀再編は目的ではなく手段の一つであり、規模が小さい地銀でも工夫しだいで持続可能なビジネスモデルをつくって生き残ることが可能」とのメッセージを地銀全体に浸透させたい思惑もありそうだ。
 17年初以降、地銀の経営統合が立て続けに発表されたことで、地銀界では再編への機運がふたたび高まっている。しかし、地銀再編の事例のなかには、経営統合から一定の時間が経過しているにもかかわらず、統合効果が出ていない事例が少なくない。「現行の経営統合を解消し、他のグループとの連携・合併ができないか模索している」(持株会社を設立した地銀の幹部)との声もある。金融庁も「統合効果のない持株会社の設立には意味がない。連携や合併、ニッチなビジネスモデルの構築など、ベストなビジネス展開を考えてほしい」(幹部)との見解を示す。
 金融庁が公の場で地銀の経営統合の意義・目的について体系だった説明をするのは今回が初めてのこと。今後、徐々に「地銀再編」の共通理解が形成されていくかもしれない。

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金融庁が3月8日に長崎市内で開いた説明会。