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前代未聞! いまだ全体像を把握しきれない商工中金の不正融資

 取引先の財務書類を改竄し、不正融資を組織的に行っていた商工組合中央金庫に5月9日、ついに業務改善命令が下された。4月25日に調査結果をとりまとめた第三者委員会によれば、現時点で把握できているだけで35支店99人が不正に関与しているという。しかも、コンプライアンス担当部署が不正を把握していたにもかかわらず、揉み消していた所業まで明らかになった。完了している調査は全体の十数%にすぎず、不正融資の件数・金額はさらに拡大する見通しだ。

氷山の一角

 経済産業省、財務省、金融庁の3省庁は5月9日、商工組合中央金庫法59条に基づき、商工中金に業務改善命令を発出した。商工中金は、6月9日までに業務改善計画を策定・提出したのち、当該計画の進捗状況を、問題が解決したと認定されるまでの間、月に1度報告する。世耕弘成経済産業相は同日の定例会見で「過去何年にもわたって、現場で延々と続けられてきた問題だと思っている。役員の減給処分だけですむ話ではない」と商工中金を厳しく批判した。  
今回、商工中金に厳しい行政処分が下されたことの発端は、昨年10月に鹿児島支店で最初に発覚した「危機対応融資」を巡る不正にさかのぼる(11月22日公表)。問題発覚を受けて昨年12月に設置された第三者委員会は4月25日、約5カ月間にわたって実施した調査結果を報告書として公表した。  
 この調査により、全国100カ店のうち少なくとも35支店で職員99人が不正に関与しており、取引先760口座の財務書類(試算表)が改竄され、不正な貸付額は計198億円にのぼることがわかった。19人が239口座で不正を行った鹿児島支店は、「むしろ不正行為を働いていない人のほうが疎外感を味わうような職場だった」(第三者委の委員)という。  
また、不正が組織内で揉み消された不祥事も明らかになった。14年12月から15年1月にかけて実施された内部監査において、池袋支店で計110件の資料の改竄が発覚したが、本部のコンプライアンス担当部署が池袋支店の職員にヒアリングを行う際に「誘導質問ペーパー」を作成・使用して、最終的には「池袋支店には不祥事はない」とする報告をまとめていた。  
 そのうえ、現時点で把握できている不正融資は「氷山の一角」にすぎない可能性が高い。第三者委が実施した調査は、危機対応融資を実行した口座の十数%相当(約2万件)にすぎないためだ。商工中金では現在、これまでに危機対応融資を実行した口座において不正がなかったかどうかの「全件調査」を開始している。だが、作業が膨大なため、「(全件調査が)いつ終わるかわからない」(商工中金広報部)状況だ。今後さらに不正事案がみつかり、追加的な処分が発動される可能性が十分考えられる前代未聞の不祥事は、いまだ全体像をつかみきれない段階にある。政府系金融機関が業務改善命令を受けるのは初めてだ。

東芝の「チャレンジ」よりもきつい「必達ノルマ」

  危機対応融資は国の税金を活用した制度融資で、リーマンショックや大震災などの外部要因で一時的に苦境に陥っている中小企業を救うことを目的としている。同融資の指定金融機関(商工中金と日本政策投資銀行の2社)が日本政策金融公庫からの信用供与を受け、中小企業に対して利子補給を行うスキームが一例だ。商工中金における同融資の実績は今年3月末現在で約22万件、貸出実績は12兆4,306億円。同融資は東日本大震災発生後の12年には、商工中金の貸出残高の43%を占めるまでに増加した。
 商工中金は、国が毎年度予算措置を講じて危機対応融資の「事業規模」(予算枠)を決める際に、一定の事業規模を確保するために国に積極的な予算要求を行っていたほか、商工中金が予算を消化するために企業の資金需要を超える「ノルマ」を各支店に機械的に割り振っていた。そもそも危機対応融資の事業規模は、危機事象が深刻化した場合でも対応可能となるよう余裕をもった予算が措置されることから、支店が過大なノルマを課せられる状態が続いていた。
 そうしたノルマを達成するため、各支店は企業から提出された財務書類の純利益や日付を書き換えて中小企業の売上げや利益が落ちているようにみせかけて危機対応融資を実行したほか、顧客から受け取った「雇用維持証明書」の従業員数を水増しして企業に利子補給をするといった不正を行うようになった。
 第三者委の調べによれば、こうした不正が急増したのは「円高等対策」の予算措置が講じられた13~14年にかけてだ。この予算措置の直後に為替が円安に振れ、企業業績が好転。危機対応業務の要件に該当する取引先が急減し、ノルマの「必達」に汲々とする事態を招いていた営業現場の多くの職員が“不正”に手を染めた。報告書に記載されている職員の証言によれば、「商工中金の『必達』は、東芝の『チャレンジ』よりもきつい言葉(略)。プレッシャーは大きかった」という。結果として「危機に陥った中小企業を救う」という本来の目的からかけ離れた制度運用が長年にわたって続いてきた。

過度な中小企業保護策が遠因との指摘も

 前代未聞の不祥事は各方面に波紋を投げかけている。
 まず、不満を募らせるのが、過去に政府系金融機関の業務を「民業圧迫」と批判してきた地域金融機関だ。ある地銀頭取は「商工中金に融資機会を奪われた案件、肩代わりされた案件について、不正がなかったかどうか、これから詳細な検証・説明を求めたい」と憤りを隠さない。近年、良好な関係を築きつつあった地域金融機関と政府系金融機関の協調関係にも、今回の不正が水を差しかねない。
 また、所管官庁のなかでも商工中金の業務の監督責任を負う経産省が、同社の営業現場における不正をまったく関知できていなかったことに首をかしげる向きもある。経産省も責任を痛感している様子で、「今後はこうした事態が起きないようななんらかの仕組みづくりが必要だと認識している」(幹部)と話す。  政策金融に詳しいある有識者は、「商工中金はもちろん悪いが、問題の根源には国をあげて推進している過度な中小企業保護政策がある」と指摘する。今回の不祥事の反省から、再発防止策としてまず重要になるのは、商工中金の現場・本部、経産省等の各関係者が「危機対応融資は予算枠であり、営業ノルマではない」という認識を共有することだ。ただし、そうした認識が共有されても、商工族などの族議員や商工会の有力者が経産省や商工中金に対して「中小企業支援のための制度を活用・実行すべきだ」といったポーズを取り続ける限り、「予算は消化すべき」といった考えはなかなか変わらないかもしれない。今回の事件は、日本の中小企業金融を巡る政策そのものを総点検する機会ともとらえられる。

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記者団を前に深々と頭を下げる商工中金の安達健祐社長
(5月9日・経済産業省で=時事)