記事一覧へ

FFGと十八銀行の経営統合、無期延期で広がる不安

 ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と十八銀行は7月25日、10月に予定していた経営統合について、期限を定めずに再延期することを表明した。難航している公正取引委員会の企業結合審査が終了し、クリアランスが出た段階であらためてスケジュールを公表する方針を明らかにすることで、腰を据えて交渉に臨む姿勢を打ち出したかたちだ。しかし、検討している問題解消措置で審査が進展する見通しは立たず、行員や顧客に不安が広がりかねない状況になっている。

「この組合せしかない」

  両社は同日の会見で再延期の報告とあわせて、①統合の目的、②公取委による審査の状況、③問題解消措置、④統合がもたらす地元へのメリット──を説明した。FFGの柴戸隆成社長は「厳しさが増す長崎経済を支えていくのはこの組合せしかない」と訴えた。
 審査を突破するための問題解消措置についても、「長崎の取引先、ステークホルダーの方にご理解いただきたい」(柴戸社長)として、公取委への提案内容を明らかにした。一つはこれまでも公表していた「債権譲渡」で、もう一つが「第三者委員会等による金利の監視」。金利の監視とは、新規貸出金利等の開示、顧客向けのアンケート等の実施、第三者委員会による監視・評価により統合後のサービス品質が悪化しないようにするもので、柴戸社長は「長崎の取引先にとって納得できる措置」との認識を示した。「(この二つを)組合せでやる」(同)ことが当面の交渉の方針となる。
 これらの内容については、金融庁も「かなり具体的」(幹部)と評価する。両社としては論点を明らかにすることで、議論を尽くすために期限を設けず、腰を据えて交渉に臨む姿勢を明確に示したかたちだ。

打開策が見出せない問題解消措置

 しかし、今回示された方針のもとで、審査が急速に進展するとは考えにくい。
 まず、金利の監視は、公取委の従来の考え方からすると「問題解消措置」とは認めづらいようだ。問題解消措置は、有力な競争事業者を創出する「構造的な措置」(事業譲渡等)であることが原則。そのほかに「参入を促進する措置」や「行動に関する措置」等も想定されているが、いずれも結果的に「競争の構造に影響を及ぼすことが想定されている」(公取委関係者)。具体的には、競合事業者にノウハウや設備を提供することなどが有効な措置として考えられる。
 例外もある。東京証券取引所グループと大阪証券取引所の統合においては、業界の特性から構造的な措置が効果を発揮しないことをふまえて、上場関連手数料の設定・廃止や金額の変更などを第三者委員会に報告し、承認を得ることを義務付けた。しかし、金額の固定した手数料と、競争により変動する金利は同一視しにくい。FFGと十八銀行は、金利の監視の具体的な枠組みは今後の検討事項としているが、公取委が首を縦に振る内容を提案するのは容易ではなさそうだ。
 債権譲渡についてみると、「顧客の意向が本質」(十八銀行の森拓二郎頭取)というのが両社の考えだ。5月に十八銀行と親和銀行との並行取引のある大口顧客の意向を調査し、譲渡可能な債権額を試算したが、審査をクリアできるだけの金額に達しなかった。柴戸社長は債権譲渡を了承した顧客について、①シェア調整を企図、②他行との新規取引を検討していた、③統合に協力──という3パターンを例示。今後③が増えることに対する期待も示したが、無理に金額を上積みすることはしないと明言した。
 一部では、「統合行が顧客に対して“いったん債権を譲渡してから買い戻す”と説明している」という噂もささやかれていた。実際には、債権譲渡が行われたあと、償還後の新規取引や肩代わりなどでシェアが変動することは「競争の結果であれば問題ない」(公取委関係者)が、公取委の調査や譲渡先との関係を考えれば買戻しは不可能だ。
 公取委は早い段階から「いろいろ考えたが(問題解消措置は)債権譲渡しかない」(別の関係者)との立場。だが、債権譲渡については「(新しい取引銀行に対する説明や関係構築などの点で)債権者に負担を強いるもので無理筋」(日本銀行金融機構局の長野聡審議役)との指摘が多く、債権の引受先を探すにも「譲渡対象や金額など具体的な中身をみないと判断できない」(九州の地銀関係者)ことから、かなりの時間を要することになる。
 むしろ、足もとのシェア調整などの動きが「問題解消措置の債権譲渡という大きな枠のなかに入ってくるのかもしれない」(森頭取)。九州フィナンシャルグループの上村基宏社長も7月28日の会見で、債権譲渡ではなく肩代わりなどのかたちで長崎でのシェアを伸ばし、統合を「側面援護」していく考えを示した。

懸念される営業現場の疲弊

 競争法の関係者はしばしば「国際的な基準」に言及し、「企業結合ガイドラインの改正」や「適用除外のような仕組み」といったアイディアに抵抗感をみせる。地域を支える地銀再編のあり方として、県境をまたいだ統合事例が存在することも背景にある。
 しかし、将来的にはオンラインレンディング等の代替サービスの発展や需要の減少により「需要者側が強くなる」(柴戸社長)という見方も否定できない。地銀の経営統合は地域社会のあり方と密接不可分な問題だ。日銀の長野氏は「人口減少社会における競争政策のあり方についてより深い目線から検討すべき」と強調する。
 FFGと十八銀行の経営統合に話を戻すと、外野からは「公取委に対するすべての報告を完了し、いまだ開始していない第二次審査を開始させてはどうか」という声すらあがる。公取委に対して90日以内に排除措置命令を出すかどうかの判断を迫り、結果しだいでは行政訴訟も辞さないという「強行突破論」だ。柴戸社長は「考えていない」と意に介さないが、こうした声があがるのも突破口がみえないがためのことだろう。
 無期延期に伴う行員の負担も気にかかる。柴戸社長は交渉の長期化について「非常に労力がかかるということではない」と説明し、親和銀行の吉澤俊介頭取は「きわめて多くの行員から賛同の声があがっている」と統合発表時に実施したアンケートの結果を紹介した。しかし、十八銀行からすれば、規模で勝るFFG・親和銀行との今後の関係が将来を大きく左右する。自分の担当する取引先が債権譲渡の対象になるかもしれない状況や、長期間にわたって経営統合について交渉する相手と競合している営業現場の実態は、にわかには想像しがたい。
 両社の顧客にとってはどうか。柴戸社長は「長引くことで顧客に何ら不利益がないようにやっている」と話し、親和銀行が実施した顧客向けのアンケートで明確な反対が3%だったことも紹介している。地元経済界からは近時の両社の説明姿勢を評価する声もあがる。しかし、「あわてなくてもいい」(ある長崎の企業関係者)という空気はいつまでも続かない。今後の交渉はどのような時間軸で進むのか。統合実現に向けた打開策が注目される。


7月25日にFFG本社で開かれた共同記者会見
(写真右から十八銀行・森頭取、FFG・柴戸社長、親和銀行・吉澤頭取)。