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金融庁「検査局」廃止へ、新たな検査手法の展望と課題

 金融庁は8月31日、2018年度の機構・定員・予算要求を発表し、年明け以降報じられてきた組織再編の全貌を公表した。検査局を廃止し、その機能の大部分を監督局に統合するほか、現在の3局体制を「企画市場局」「総合政策局」「監督局」に整理・再編することが柱。金融検査マニュアルの廃止についても基本的な考え方が近く発表される。一連の金融行政改革は総仕上げの段階にきたが、金融検査などの実態面が理想とする姿にどこまで追いつけるのかが今後の焦点となる。

組織再編をついに発表

 金融庁は現在の「総務企画局」「検査局」「監督局」の体制を、来年の7月1日付けで「企画市場局」「総合政策局」「監督局」に再編する方針を正式発表した。
 新設する企画市場局には、総務企画局の企画部門に在籍している約190名を配置。総務企画局の官房部門の人員約230名は同じく新設する総合政策局に配置され、同局には検査局のマクロ・専門分野別チーム約270名が合流し、全体で500名強の大所帯となる。検査局の業態別チーム約190名のうち120名は監督局に移行し、監督局は総勢420名程度の体制となる予定。金融機関への立入検査は、監督局の業態別チームと総合政策局の専門分野別チームが共同で実施し、現在の検査局はオン(検査)・オフ(監督)一体化の総仕上げとして廃止される。
 今回の組織再編について、複数の金融庁幹部が「組織再編を先取りするかたちですでに検査・監督の手法が見直されている。金融庁が現在実施しているモニタリングに擦り合わせる後追いの作業が実施されるととらえるべき」と口をそろえる。目新しさがないためか、金融機関側からも組織再編について特段、否定的な声は聞こえてこない。
 金融庁は今回の組織再編をふまえ、財務省に34人の増員(定員合理化減11人とあわせると23人の純増)を要求した。企画市場局にフィンテック室を設置することや総合政策局に主任統括検査官ポスト(4人)を新設することなどによるもので、2018年度の金融庁予算の概算要求総額は257億円(17年度比5・3%増)となった。

背景には政権中枢との信頼関係

 そもそも検査局と監督局の分離は、1990年代の大蔵省接待汚職事件をきっかけとする「オン・オフを別々の対等な組織で担うべき」という議論に端を発する。だが、検査・監督が組織的に分離していることで、「それぞれの局から金融機関に同じ資料の提出や説明を何度も求められる」(大手行幹部)など、金融機関の負担が増す場面がみられた。また、不良債権処理にメドがついた後も、資産査定を中心とする従来型の検査が続いたため、「金融機関の成長に資する検査になっていない」といった批判の声も聞かれるようになっていた。
 90年代の大蔵省不祥事によって切り離された検査局と監督局の一体化は、金融庁発足来の悲願ともいえるが、かねてより「検査・監督の局としての一体化は金融庁設置法の改正が必要なためハードルが高い」(金融庁幹部)との見方があった。だが、金融庁設置法には局を三つ以下とするのであれば法改正が必要ないと解釈できる条文もあり(24条2項)、政令改正での一体化にこぎつけた。
 前述のように、今回の組織再編は先行しているモニタリングの実態に組織形態を擦り合わせる側面が強い。とはいえ、既存中央省庁で局レベルの大きな再編が起こるのは、橋本龍太郎内閣が取り組んだ行政改革以来、約20年ぶりの出来事。検査局と監督局の一体化の実現には、“金融育成庁”への脱皮を喧伝する麻生太郎副総理・金融担当相や菅義偉官房長官といった「政権中枢と森信親長官の信頼関係の深さ」(関係者)が後押ししたと考えるのが妥当だろう。

検査マニュアルの廃止を 不安視する向きも

 なかでも注目されているのが、将来的に廃止される予定の金融検査マニュアルの今後の扱い方だ。「金融検査マニュアルを廃止し、監督指針の記述を具体化する方向で検討が進んでいるが、まだ事務上の課題をクリアできていない」(金融庁幹部)といい、完成形の提示にはもうしばらく時間がかかりそうだ。
 検査官の「手引書」として検査の着眼点が事細かく書かれてある金融検査マニュアルが実際に廃止された場合、財務局を含めた金融庁の検査官に「臨機応変な検査が行えるのかという不安が残る」(金融庁OB)という。これまでも、金融検査マニュアルに記述のない事項についての検査では、「検査官がうまく対応できない場面が目立った」(同)。マニュアルがなくなった場合、「検査官がどのように検査してよいのか迷う場面が増えるのではないか」(同)と指摘される。さらに、金融検査マニュアルは金融機関にとってもリスク管理などを行う際の「参考書」と位置付けられているため、「中小地域金融機関などでは金融検査マニュアルが廃止された場合の影響が大きい」(別のOB)とみられる。 「個別の資産査定は原則として実施しない」という近年の検査手法を不安視する向きもある。金融庁のある有力OBは、「資産査定は検査官の職人芸。その資産査定を通じて金融機関の自己査定のクオリティも維持されてきた。個別の資産査定をしなくなればノウハウが伝承されなくなり、金融庁の資産査定や金融機関の自己査定の力量が失われるリスクがある」と危機感を強める。一方、金融庁には、「資産査定を中心とする従来の検査手法が銀行の消極的な貸出姿勢につながり、事業に対する目利き力を低下させた」(幹部)との反省が根強い。そのため、「事業の将来性等を検査でチェックすることが本筋。今後も検査官のレベルアップに取り組むことで形式的なチェックに終始するような検査のあり方には戻さない」(同)との立場を貫く方針だ。
 中長期的には、本庁の組織再編にともない地方の出先機関である財務局の責務・役割をどう見直すのかも課題となる。財務局は金融庁と財務省が共同で所管する機関だが、「財務局の理財部内に金融と主計機能が混在している。筋論としては組織を分離させるべき」との指摘がある。だが、金融庁からすれば「地域金融のモニタリングは本庁だけでは手が回らない」(幹部)のが現状で、引き続き財務局に金融機能を強化するかたちで担ってほしいとの気持がある。検査・監督のさらなる一体化により地域金融のモニタリングを高度化させていくうえで、財務局の位置付けや機能強化も今後のテーマにあがりそうだ。


金融行政改革はいよいよ総仕上げの段階に
(写真は金融庁森信親長官)