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「赤字目前」で転換期を迎える邦銀リテールビジネス

 銀行の国内リテールビジネスが大きな転換期を迎えている。収益を牽引してきた銀行カードローンが頭打ちとなり、住宅ローンや投信・保険販売も収益性が悪化したことで、「リテール部門の赤字化が数年内に迫っている」(銀行アナリスト)との見方もある。こうしたなか大手行では、フィンテックを活用して事務コストの削減に乗り出しているほか、地方や不採算店舗を削減する動きも出始めている。マイナス金利政策が長期化しそうななか、抜本的な経費構造改革が進んでいる。

収益悪化で事務コスト削減を加速

  三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の平野信行社長は9月19日に都内で講演し、国内の事務作業のデジタル化に取り組み、「9500人相当の労働量の削減を実現したい」と宣言した。デジタル化によるたんなる人減らしではなく、浮いた営業人員をより付加価値の高い仕事に振り向ける戦略だ。9500人は三菱東京UFJ銀行(BTMU)の国内行員の約30%に相当する規模。MUFGは今年5月に発表した「再創造イニシアティブ」のなかで、デジタル化や生産性向上策をより強力に推進し、筋肉質な経営体質を作り上げていく方針をすでに打ち出しており、その具体的施策を来年4月スタートの中期経営計画に盛り込んでいく。
 こうした動きは他行も同じ。住宅ローンや投資信託の申込みに伴う事務作業を、従来の手作業からフィンテックを活用した自動処理に置き換えることなどによって、事務コストを削減する動きが活発化している。
 なぜ、足もとでこうした取組みが進められているのか――。2016年2月に導入されたマイナス金利政策の影響などから、国内リテールビジネスが不振に陥っているためだ。たとえば、MUFGのリテール部門は連結業務粗利益の約3割を占めるコアビジネスだが、国内を中心に収益性が悪化しており、「BTMU単体のリテール部門は、業務純益ベースだと今後4~5年で赤字化しかねない」(関係者)といった分析がある。
 他行の中期経営計画をみても、リテール部門で右肩上がりの増益シナリオを描いている銀行はほとんど見受けられない。三井住友トラスト・ホールディングスの中計(17~19年度)における「個人トータルソリューション事業」をみても、19年度の連結実質業務粗利益目標が2060億円(16年度実績比2%増)と、ほぼ横ばいの計画となっている。法人事業(同12・4%増)や不動産事業(同7・3%増)、受託事業(同5・5%増)といった部門と比較しても控えめな収益計画であることがうかがえる。

5年間で2割の店舗を削減する銀行も

 今後、大手行が国内リテール部門で安定的に利益を稼いでいくためには、「業務効率化によるコスト削減と収益源の多様化が避けて通れない」(銀行担当アナリスト)状況にある。ただし、抜本的な経費構造改革や収益源の多様化を実現するには「5~10年間かかる」(大手行幹部)とされ、当面はデジタル化などの投資コストが先行する厳しい事業環境となりそうだ。
 こうしたなか、各行が足元で急速に進めている取組みが、不採算店舗の削減・統廃合だ。全国銀行協会の調べによると、都銀5行(メガ3行、りそな、埼玉りそな)の国内店舗数(出張所除く)は計2043店舗(17年3月末)で、この5年間ほぼ横ばいとなっている。しかし足もとでは、地方や不採算店舗を中心に「今後5年間で2割程度を削減する計画を策定している」(幹部)といった銀行もある。銀行の持株会社経営がより高度化するなか、「店舗数の削減に加え、グループ内の銀行・証券を同一物件内に入居させる」(同)といった動きも活発化しそうだ。
 住宅ローンや銀行カードローンなどの個人向け貸出でも、目下の課題はコスト削減。たとえば住宅ローンでは、マイナス金利政策の導入以降に市場金利が著しく低下したことで低利での借換えが急増し、収益性の悪化が進んでいる。申込みから契約までの事務手続の自動化を徹底してコスト削減を図るほか、「採算のとれる都市部に絞って住宅ローンビジネスを展開し、地方からは事実上撤退する行内方針を検討している」(別の大手行幹部)といった段階に突入している。これまで好調だった地主向けのアパートローンや個人が営む資産管理会社向けの貸出でも、利回りの低下が顕著のようだ。
 こうしたコスト削減の一環として各行が並行して進めているのが、ダイレクトチャネルのサービス拡充だ。マス顧客が来店せずに店頭諸届けなどを完結できる仕組みの整備が急ピッチで進んでいる。フィンテックを活用した預金関連業務の経費削減も始まっている。なかでも、個人顧客に通帳を発行しない「通帳レス化」の導入や、通帳・カードの再発行手数料の引上げ、デビットカードの普及促進などがますます活発化するとみられる。
 一方、リテールビジネスの収益源多様化の観点で注目されているのが、富裕層向けの事業承継・資産承継・資産運用といったビジネスだ。「銀行・信託・証券など、グループ各社が連携してサービスを提供していく機運がより強まっている」(大手行幹部)という。野村証券や外資系証券と比べて大手行の取組みは遅れていたが、「地主」「中小企業オーナー」などと顧客セグメントを細分化したうえでプライベートバンキングを展開する動きが目立っている。

金融庁の姿勢も後押し?

  こうしたリテールビジネスの転換には、金融庁の姿勢も影響しているようだ。
 金融庁の森信親長官は7月、地銀・第二地銀との意見交換の場で、「アパートローンやカードローンの獲得、投資信託や保険の販売に注力している金融機関も多い。これらについて『金融庁から顧客本位の対応を強調され困っている』との声を耳にするが、顧客の利益を省みないビジネスは長続きしない」と改めて警鐘を鳴らした。
 金融庁は各行に対するオフサイトモニタリングにおいても、経営計画や収益性分析について相当程度踏み込んだ議論・対話を実施している。ある大手行幹部は、「会社全体の理念としての経営計画が定量的な収益性分析ときちんと紐付いているか、それらが現場の業績評価体系に結びついているかなどが念入りに問われ、資料提出も頻繁に求められる」(大手行幹部)と困惑する。
 リテールビジネスは急激な市場環境の変化やテクノロジーの進化に“翻弄”されるため、どうしても先行きが読みにくい。各行とも試行錯誤しているようだが、当面はリテールビジネスの収益性悪化が銀行経営者の悩みの種になりそうだ。


9月19日に都内で開かれた「フィンテックサミット」で講演する
三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長。