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不正融資の全貌解明でも見通せない商工中金の「あり方」

 商工組合中央金庫(商工中金)は10月25日、危機対応融資を巡る不正に関して関係省庁に調査報告書を提出したうえで2度目となる業務改善命令を受け、業務の改善計画を公表した。経済産業省も自身の監督責任を実質的に認めたうえで、「商工中金の在り方検討会」において聖域なく議論を行っていくとしている。一方、低利融資を受けている企業と商工中金との取引関係は依然として強固ともいわれ、不正の全貌が解明されてもなお、同金庫の今後のあるべき姿は見通しづらい。

ほぼ全店における不正の横行が明らかに

 商工中金の鹿児島支店において、危機対応業務で稟議に使用する試算表の改竄等の不正行為が発覚したのは昨年10月24日。それから1年を経て、ようやく不正融資の全体像が明らかになった。
 商工中金が10月25日に公表した調査報告書および業務の改善計画によれば、2008年度から昨年11月30日までに実行された危機対応融資( 21万9,923口座)について、営業店ごとに件数のバラつきがあるものの、100カ店中97カ店で不正が行われていた。不正に関与したのは444名、不正の件数は4,609件、融資実行額は2,646億円にのぼる。このうち危機対応業務の要件に該当しないもの等について、商工中金は日本政策金融公庫に対して利子補給金の返還などを実施する。処分対象者は3,886名の全職員のうち813名に及んだ。安達健祐社長は後任の社長が決定するまで無報酬で現職にとどまる。
 商工中金では今回の不正の原因を「内部統制の未整備と過度な業績プレッシャー」「危機対応融資の「武器」としての利用」などと分析。経営上の重要事項を副社長以下のプロパーだけで実質的に決定していた状況も明かした。昨年12月以降は国の制度資金を業績評価の対象外とするなど、「公的金融と通常業務の峻別」を掲げている。
 今回の調査には、弁護士などの外部専門家に加えて商工中金の職員約620名も携わったが、その過程でも新たな不正が相次いで明らかになった。当初9月末とされていた調査の終了時期が延期されたのも、調査に加わった同金庫の職員のうち11名が事前の申告に反して不正に関与していたことがわかり、再調査が必要になったため。昨年11月に当面の再発防止策として打ち出した「顧客からの受領書類への押印」についても、印鑑の偽造による不正が1件確認された。また、危機対応業務関連以外でも、金庫内の資料の捏造や領収書等の改竄、取引先企業に対して実施する調査票の捏造などの不正が判明したため、これらの一部については調査を続ける。調査終了時期のメドは立っていない。

「検討会」で年内に議論をとりまとめ

 元・経産省事務次官の安達社長は会見で、「ひとえに商工中金の責任」と監督官庁である経産省の責任を否定したが、政府・経産省が危機対応業務を推進してきたことなどが不正の遠因という声は根強い。
 経産省の世耕弘成大臣は25日の会見で、「重く受けとめる」と話し、嶋田隆事務次官と中小企業庁の安藤久佳長官に厳重注意を行った。大臣・次官・中企庁長官は給与を自主返納するため、実質的に監督責任を認めたかたちだ。また、中企庁では事業環境部の金融課から検査部門を独立させるなど、中小企業金融の検査体制を強化していく。金融課ではこれまで中小企業政策の企画・立案から検査・監督まで4名の担当者で担ってきたが、商工中金の実態を把握できていなかったことへの批判が強まっていた。
 経産省は、「商工中金の在り方検討会」(座長:大和総研の川村雄介副理事長)を設置。商工中金による危機対応融資の見直しやビジネスモデルの方向性などについて11月中旬から議論を開始し、年内にはとりまとめる予定だ。後任の社長は「民間で経営経験のある、しかるべき方」(世耕大臣)が想定されている。
 検討会での議論は「聖域なく」(同)行われるとされ、一部の証券会社と当局の間では、同金庫の完全民営化に向けた株式売出しや他の金融機関との経営統合といった検討も水面下で行われているようだ。もっとも、世耕大臣は27日の会見で、「リーマンショック、東日本大震災のときに民間の金融機関の危機対応が十分でなかった」ために商工中金の当初の完全民営化スケジュールが見送られた経緯を振り返り、慎重な姿勢を示している。

肩代わり攻勢をかけても「簡単にはいかない」実態

 商工中金のあり方の見直しにあたって気になるのが、商工中金と取引をしている事業者の受けとめ方だ。全国地方銀行協会の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)は9月の定例会見で、「まさしく民業圧迫」と商工中金を批判したが、一方で事業者のなかには商工中金を擁護する声があるとされ、地域金融機関サイドはいっそう反感を募らせている。
 実際、金融機関によっては、商工中金の取引先に肩代わり攻勢をかけるよう本部から指示が出ているが、同金庫が取引先と強固な関係を築いているため「借換えには簡単に結びつかない」(地域金融機関の支店長)という状況もある。そもそも民間の金融機関でも、地公体の制度融資の対象とするために担当者が試算表を改竄するようなケースは「ある」(同)とされる。
 もちろん、危機対応融資についていえば、法律上の「みなし指定金融機関」と位置付けられている商工中金は民間金融機関とは異なる立場にある。その立場を不正に利用して「民間金融機関が融資提案している業績好調な実質無借金企業に低利融資を提案していた」(商工中金の調査報告書)となれば、弁解の余地はない。商工中金は不正と判定された口座について、同水準の金利でプロパー融資に切り替えるとしており、取引先企業には不利益が及ばないが、取引を不正に奪われたかたちの地域金融機関は容易には納得しがたいだろう。25日の会見で安達社長は、「民業圧迫だった」と認めたものの、民間金融機関に対する謝罪の言葉は聞かれなかった。
 折しも金融庁が同日に公表した「金融レポート」には、金融庁が企業向けに実施したアンケートの結果が盛り込まれている。それによれば、政府系金融機関と取引している企業の6割が、その理由として「民間金融機関も支援してくれたが、政府系金融機関のほうが借入条件がよかったから」と回答。また、地銀協は2012年から毎年、政府系金融機関の実態について会員銀行にアンケートを実施しているが、その結果からも、正常先上位・中位で中堅規模、安定期の企業に対して、政府系金融機関が地方銀行の2分の1~3分の1程度の金利を提示して取引を行っている実態が明らかになっている。
 官民の役割分担が判然としない国内の中小企業向け金融において、政府系金融機関が金利条件で優良企業の支持を集める構図のなか、ある地銀関係者は「危機対応融資だけでなく幅広に公的融資の検討を」と求める。商工中金と取引先事業者は危機対応という「薬」漬けで、あるべき姿が見通しづらいが、議論の行方に関係者の注目が集まっている。


業務の改善計画などを説明する会見は約1時間半に及んだ。
写真は安達健祐社長、10月25日日銀記者クラブ(時事)