新聞の盲点

一般社団法人金融財政事情研究会創立と同時に創刊された、金融の専門週刊誌『週刊 金融財政事情』に掲載のある記事になります。

2018.06.25.

店舗の減損処理が突きつける銀行ビジネスの変革

MUFGは店舗の収益性低下に伴う減損処理を前倒しで実施

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※『新聞の盲点』は、『週刊 金融財政事情』に掲載されている記事です。『週刊 金融財政事情』の詳細はこちらから

前年度決算で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が店舗の減損処理に伴う多額の損失を計上したことが波紋を広げている。今後、他行でも店舗の収益性低下に伴う減損処理が課題になる可能性は高い。もっとも、デジタル化の進展によって銀行のビジネスがよりモバイルの領域へと突き進んでいけば、店舗の資産価値のとらえ方も変わらざるをえない。店舗の減損処理を巡る議論は、店舗を保有して収益を上げてきた“旧来産業”からの転換を突きつけているようだ。

会計処理で減損を避けてきたケースも

 MUFGは2018年3月期の決算で、店舗統廃合や収益性低下に伴う減損処理を行い、子銀行において430億円の損失を計上した。内訳は、今後の店舗統廃合を見据えた処理が4分の1、国内の営業店舗の収益性低下という構造的な問題に伴うものが4分の3。「いずれ進めていかなければならない構造改革を極力前倒しでやっている」(平野信行社長。5月15日の決算会見)という。今後、他の銀行にとっても、店舗の統廃合に伴う処理だけでなく、店舗の収益性低下に伴う損失計上が避けられない課題になると予想される。
 企業が持つ固定資産は、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合には、その回収可能性を反映させるため、貸借対照表上の帳簿価額を減額することが求められる。具体的には、固定資産をグルーピングし、その中で減損の兆候を把握した資産(グループ)について、その資産が生み出す将来キャッシュフローの計算(収益還元法)に基づき減損損失の有無を判定し、その金額を測定することになる。
 固定資産のグルーピングは、キャッシュフローを生む最小単位とされるため、店舗単位で判断することが求められるわけではない。また、店舗の営業活動から生じている損益やキャッシュフローの計算方法は銀行ごとに異なっており、財務会計ベースではなく管理会計ベースで、ある程度自由に行うことが認められている。例えば、管理会計上、周辺の赤字店舗と黒字店舗をうまくグループ化して、減損を避けてきたケースもあるようだ。
 確かに銀行の店舗は、必ずしも店舗ごとに採算を確保する観点ではなく、地域を面的に押さえるために展開するものだとも言える。しかし、グルーピングの範囲が広いことは監査法人に歓迎されず、「近年、監査における目線が厳しくなっている」(銀行監査の経験者)という。
 他にも、例えば預金超過で直接的な収益への貢献が少ない店舗でも、貸出超過の店舗に内部レートで預金を振り替えたり、預金を原資とした有価証券運用の収益を配賦したりするのは自然なこと。預貸業務についても、「預金を集めた店舗ではなく貸出を行った店舗が預金保険料を負担するという考え方もありうる」(地銀幹部)といい、多くの論点があるようだ。

実際の収益性を反映しない処理

 他方、現状の減損処理の考え方に疑問を呈する向きもある。例えば、18年3月期決算で31億2000万円の最終赤字を計上した福島銀行では、営業店舗12カ店について収益性低下に伴う減損損失5億円を計上した。同行の場合、投資信託の含み損のロスカットなどにより銀行として赤字決算になったことで、店舗ごとの収益性も赤字と判定され、厳しい収益計画も踏まえて減損処理が必要になったと考えられる。もともと同行では有価証券運用による収益を営業店舗の生むキャッシュフローとして反映していたため当然の処理であり、一度に損失を出し切ることにも抵抗はなかったと考えられるが、結果として一過性の要因により二重の損失計上を求められたようにもみえる。
 これは、例えば不良債権処理による赤字決算でも同様のケースが考えられる。貸出に伴う信用コストは貸出を行う店舗に帰属するものだとしても、銀行が不良債権を処理すると店舗の収益性が低下するというのは、合理的な判断とは言いがたい。いずれも判断はケースバイケースだが、「赤字計上が店舗(固定資産)の収益性の低下を表わすものとは言えないのではないか」(前出の銀行監査の経験者)という声が上がる。
 また、特に地銀では、ある程度の店舗統廃合を進めても、過疎地域などの不採算店舗をすべて閉鎖することは難しく、最終的に減損が避けられないケースが考えられる。しかし、減損対象になった店舗では、例えば改装やバリアフリー化のための投資をしても、そのまま費用計上することが求められる可能性が出てくるため、会計ルールが投資の障害になりかねない。スーパーマーケットなど、他の業種でも同様の問題が起こっているようだ。

店舗減損の先にあるビジネスモデルの転換

 とはいえ、店舗の減損処理は銀行経営にとって悪いことばかりではない。まず、減損処理により、税務上のメリットを維持しながら償却負担を軽減できるというメリットが挙げられる。
 また、各銀行が店舗機能の見直しを検討しているとおり、デジタル化の進展によって今後、銀行における店舗の位置付けは変化していくことが想定される。店舗は駅前などの一等地で収益を上げるためのものではなく、モバイル化する銀行ビジネスのごく一部を担う役割へと変貌するかもしれない。そうなれば、固定資産として持っている店舗の価値は低下するだろう。こうした変化を見据えて、早めに減損処理を行って店舗の価値を切り下げることは、「有効な判断になりうる」(同)。監査法人との関係では、単に減損を避けるためにルールを変更することは会計の継続性の観点から認められにくいが、ビジネスモデルの転換を踏まえて保守的に減損の兆候を把握する方向に変更するのであれば、合意を得られる可能性が高い。
 減損処理に関するこういった考え方は、銀行の店舗戦略に付随するものだと言える。したがって、店舗戦略を検討する際には、早い段階から減損処理も見据えた監査法人との意思疎通が不可欠だ。監査の独立性があるため、監査法人と銀行との間では本音の情報交換を図りにくいが、経営戦略の一環としての「店舗戦略」と、会計面を含めた銀行の「財務戦略」の両方を踏まえた議論が重要になる。
 店舗の統廃合でも減損処理の議論は不可欠だが、大規模な減損処理は期間損益も考慮しながら実施する必要があり、タイミングが難しい。しかし、「固定資産を保有して収益を上げていくのは“旧来産業”の収益構造になりつつある」(同)。銀行は旧来産業の最たるものとも見なされてきたが、そのビジネスモデルや店舗戦略は大きな転換点にある。そして、会計制度はビジネスモデルの進化を後追いし、キャッチアップしていくもの。店舗の減損処理を巡る議論は、銀行のビジネスモデルや店舗の位置付けについて従来の考え方にとらわれない発想の転換を突きつけている。