新聞の盲点

一般社団法人金融財政事情研究会創立と同時に創刊された、金融の専門週刊誌『週刊 金融財政事情』に掲載のある記事になります。

2018.07.10.

コポガバコードの「番人」に名乗りを上げるアクティビスト

TBSは6月28日の総会で、英資産運用会社から政策保有株を現物配当する提案を受けたが、結果は不成立に

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※『新聞の盲点』は、『週刊 金融財政事情』に掲載されている記事です。『週刊 金融財政事情』の詳細はこちらから

物言う株主「アクティビスト」の活動が注目されている。ROEが低くて政策保有株や現預金を多く保有する企業に投資して、政策保有株の売却や増配を求める株主提案で揺さぶりをかける。ただし、アクティビストをかつてのように「短期的な利益追求の株主」と見る風潮は弱まっている。企業価値の向上を目指す「二つのコード」のもと、政策保有株の売却といった提案は機関投資家からも賛同を得やすくなっており、コポガバコードの「番人」のような存在にもなりつつある。


アクティビストが日本再上陸

 日本でアクティビストの存在感がふたたび増している。今年6月の総会で株主提案の議案を付議している企業は前年比2社増の42社となり、過去最多を更新した。公表資料から機関投資家(ファンド株主)による株主提案を受けた企業は前年の6社から7社に増加し、株主提案を行ったファンド数は3社から6社に増えた。一説には、国内外主要アクティビスト16社の日本株保有残高は今年3月末で1兆6,000億円となり、前年比2割増えたともいわれる。
 近年、グローバルにアクティビストが勢いづいている背景の一つが、運用成績の良さだ。ヘッジファンドの戦略別運用成績を比較すると、2014年初頭から18年5月までのグローバルヘッジファンド全体の成績は3.4%増で、ベンチマークであるMSCI・ACWI指数の32.0%増を大幅に下回る。ところが、アクティビズム戦略だけが33.5%増と唯一アウトパフォームしている。日本シェアホルダーサービスの堀井康雄チーフコンサルタントは「リターンの良さを背景にアクティビストに資金が流れ、彼らは中小株から大型株にも手を出せるようになってきている」と話す。割高な欧米株から割安なアジア株に食指が動くなかで、ふたたび日本市場に目を向け始めているのだ。
 かつてアクティビストが連日のように新聞紙面を飾っていたのは11年前。なかでも象徴的だったのが、買収防衛策をめぐるスティール・パートナーズVSブルドックソースの攻防だ。敵対的買収を仕掛けたスティールに対し、ブルドックは日本初の買収防衛策を発動。スティールは裁判所にブルドックの行為は不当だとして買収防衛策の差し止めを求めたが、裁判所はこれを適法と判断し、さらにスティールは「短期的利益追求の濫用的買収者」との烙印を押される返り討ちに遭った。
 元祖日系アクティビストであるスパークス・グループの阿部修平社長は、この判決について「上場企業間で株を持ち合い、異質な株主が現われたら排除する姿勢に同情的な考えが司法、行政にもあった。善良な資本主義について思いを巡らせる土壌が当時の日本にはなかった」と振り返る。

コポガバコードに沿った要求

 現在でも、短期間に自己資金で浮動株を大量に買い集め、一定の保有割合に達したら自己株取得などの株主還元を執拗に迫る「嫌われ者のアクティビスト」は存在する。しかし、近年メディアに露出して注目を集めるアクティビストは、日本株の長期投資家であることをアピールしている。
 彼らの日本再上陸を強力に後押ししたのが、コーポレートガバナンスコード(CGC)とスチュワードシップコード(SSC)の制定だ。二つのコードによって日本企業のガバナンスが強く問題視されるようになり、政策保有株の売却や買収防衛策の廃止といったアクティビスト提案に対する受け止め方も大きく変化した。
 例えば、SSCにより機関投資家は総会議案の賛否理由について個別開示が求められるようになった。そのため、アクティビストの株主提案が企業価値の向上につながるのであれば、機関投資家も賛同せざるをえない状況になりつつある。香港系アクティビストのオアシス・マネジメント・カンパニーは今年3月、6%を保有するGMOインターネットの買収防衛策廃止の株主提案を行い、45%の賛成票を集めて可決寸前まで持ち込んだ。
 今年6月に改定されたCGCでは、上場企業に政策保有株の縮減を明確化し、資本効率を高める企業経営を要請している。アクティビストが狙う銘柄は、CGCが問題視している低ROEの企業で、かつ現預金や政策保有株を多く抱え、高い自己資本比率という特徴がある。割安で株式を取得でき、資本効率の改善提案や経営介入による株価上昇余地、増配や自己株取得の余地があるためだ。そんな企業に対し、アクティビストは政策保有株縮減や独立社外取締役選任など、CGCに沿った要求をするしたたかな戦略で企業に迫っている。

今後さらに勢いを増すか

 もっとも、今年の株主総会で政策保有株の処分や増配要求といったアクティビスト提案が多く提出されたが、成立に至るものはなかった。株主還元の提案に対する企業側の主張は、「将来の設備投資案件がある」「もしものときの資金繰りのため」というものだが、企業側の主張に軍配を上げる投資家がいまなお多いことを物語る。大和総研の鈴木裕主任研究員は「株主提案はアクティビストの最後の手段であって、それ自体が失敗を半分認めるようなもの。それでもあえて負け試合をやるのはネームバリューを高める意図がある」と話す。
 ただし、負け試合を経ても、アクティビストの勢いは衰えるどころか、今後さらに増すかもしれない。その理由として、米国と異なり総会で増配要求提案できる法的環境や、総会招集通知の株主提案記載・賛否集計が企業側負担というコストの安さが指摘されるが、それだけではない。上場企業は改定CGCを踏まえたコーポレートガバナンス報告書の提出を遅くとも今年12月末期限で求められている。同報告書によって、これまで以上に政策保有株や資本効率化に関する企業のスタンスが明らかになり、アクティビストがターゲットとする企業があぶり出されることも想定される。
 また、日銀やGPIFのインデックス運用によって議決権を増す本邦資産運用会社が、CGCに沿った要求をするアクティビストに賛同するケースが増加することも想定される。GPIFと日銀はそれぞれ約32兆円、24兆円と巨額のインデックス投資を継続しており、資産運用会社がその議決権行使を行っている。資産運用会社はSSCに基づく個別開示のほか、GPIFのスチュワードシップ活動の一環として議決権行使の説明が求められており、資産運用会社の判断によってアクティビスト提案が可決に傾くことも十分考えられる。
 そのリターンの魅力から、米国のように今後、日本でも銀行や年金が投資戦略の一つとしてアクティビストのファンドを採用すれば、彼らの存在感がさらに高まる。持ち合い解消を迫られた上場企業にとって、最大の防衛策はROEを高めること。かつて「濫用的買収者」の烙印を押されたアクティビストは、いつしか企業経営者に緊張感をもたらすCGCの「番人」のような存在にもなりつつある。