IV巻 担保 編
40734  動産譲渡担保と所有権留保・リース・工場財団抵当との競合

動産譲渡担保の目的物が、所有権留保物件、リース物件、工場財団抵当の目的物件であった場合、いかなる法律関係に立つか

結論

所有権留保物件・リース物件たる動産に譲渡担保が設定されても、動産譲渡担保は効力を有しない。工場財団抵当については、動産譲渡担保につき対抗要件を具備していても、権利の申出をしないと、動産譲渡担保が消滅する危険があるので、十分な注意が必要である。


解説
◆所有権留保

所有権留保は、売買に際して、代金債権の担保のため、目的物の引渡し後も代金の完済までは当該目的物の所有権を売主のもとに留保するものである。

したがって、所有権留保物件に譲渡担保権を設定したとしても、それは他人物に譲渡担保を設定したことになる。よって、一般的には、かかる譲渡担保の設定は物権的に有効とならないため、所有権留保が動産譲渡担保権に優先するものと解されている。動産売主にとっては、買主が納入商品について動産譲渡担保の設定をすると(あるいはすでに設定された集合動産譲渡担保における特定の場所の、特定の種類の動産に該当するに至ると)、動産売買先取特権を行使することができなくなることから(民法333条)、債権保全上、動産譲渡担保に対抗する手段として、所有権留保特約をすることが有用である。逆に動産譲渡担保権者にとってはリスクとなるから、譲渡担保権の設定を受ける前に所有権留保の不存在を精査・確認するとともに、これが存在しない旨の表明保証を受けておくことが不可欠である。

もっとも、所有権留保において買主が売買代金を完済した場合には、目的物の所有権は買主に移転する。よって、この時点で権限の追完の効果が生じ、譲渡担保権が物権的に有効となると解する余地もある。また、譲渡担保権者が目的物について現実の引渡しなどにより占有を取得し(占有改定によっては即時取得は成立しない)、その際に善意・無過失等の即時取得の要件を満たしていれば、当該目的物を即時取得することも可能である。

◆リース

リースにおいて、リース物件の所有権は、つねにリース会社に帰属しており、特段の合意がなされない限り、ユーザーに所有権が移転することはない。

したがって、リース物件の現実の占有がユーザーのもとにあり、これに譲渡担保を設定したとしても、リース物件の所有権はリース会社にあるのであるから、他人物に譲渡担保を設定したことになる。よって、かかる譲渡担保の設定は物権的に有効とならないため、リースが動産譲渡担保権に優先するものと解されている。

◆工場財団抵当

譲渡担保権の目的とされた動産(機械設備)について、重ねて工場財団抵当が設定されている場合、譲渡担保権者と工場財団抵当権者との関係が問題となる。

工場財団抵当は、工場に存する土地およびその工作物、機械・器具等を個別に担保化する煩を避け、有機的一体として機能する工場内の財産を一括して担保化するための制度であり、工場抵当法により規律されている。

工場財団抵当を設定しようとする者は、まず、工場財団を組成し(工場抵当法11条)、これを財団目録に記載したうえ、工場財団登記簿に財団所有権の保存登記をする(同法9条)。この保存登記により工場財団が成立し、以後、財団抵当の設定が可能となる。ただし、保存登記の後、6カ月内に抵当権設定登記をしないと、保存登記は効力を失う(同法10条)。

工場財団においては、「他人ノ権利ノ目的タルモノ」は工場財団に属させることができないが(同法13条1項)、動産については、他人の権利の目的となっているか否かの判断は困難である。そこで、工場財団登記簿への所有権保存登記の申請があった場合、登記官は、工場財団に属すべき動産につき権利を有する者は一定の期間(1カ月以上3カ月以下)内に権利の申出をするよう官報により公告し(同法24条1項)、その期間内に権利の申出があれば所有権保存登記の申請人に通知するが(同法26条)、期間内に権利の申出がない場合、その他人の権利は存在しないものとみなされる(同法25条)。

この権利の申出制度は、「登記又ハ登録アル動産」については適用されない(同26条ノ2)。そこで、動産譲渡登記がされた動産が、「登記又ハ登録アル動産」に当たるかが問題となるが、動産譲渡登記は、過去の動産譲渡の事実を公示するものにすぎず、現在の所有権の帰属を明らかにするものではないから、動産譲渡登記がされた動産は「登記又ハ登録アル動産」には該当しないものと解されている。

よって、債務者から、その工場内にある機械設備に譲渡担保の設定を受け、引渡しまたは動産譲渡登記を備えた者であっても、その後、同債務者が工場財団抵当を設定し、工場の敷地・建物・機械設備につき、財団組成物件として工場財団登記簿に所有権保存登記および抵当権設定登記をした場合において、動産譲渡担保権者が、目的物(機械設備)について、権利の申出に関する官報公告に気づかず、権利の申出をしなかった場合には、譲渡担保権は存在しないものとみなされ(同法25条)、機械設備の譲渡担保権を、工場財団抵当権者に対して主張することができなくなる。ただし、譲渡担保権者が、譲渡担保権の実行にあたり、目的物たる機械設備の現実の引渡しを受けたときは、その時点で機械設備が工場財団抵当の目的となっていることにつき善意無過失である限り、抵当権の負担のない所有権を即時取得する余地がある(民法192条)。

これに対し、工場財団抵当権の設定登記の後に、その目的物たる機械設備を譲り受けた場合、動産譲受人(動産譲渡担保権者)は、抵当権の負担のある動産を取得するにすぎない。機械設備の譲受人が抵当権の負担のない動産の所有権を取得するためには、即時取得(民法192条)の要件を満たすか、譲渡担保設定者が抵当権者の同意を得て当該動産を財団から分離し(工場抵当法15条1項)、財団目録の記載を変更(同法39条1項)したうえで、動産譲渡担保権を設定することが必要である。