集合動産譲渡担保における「固定化」について、譲渡担保権設定契約においてはどのような定めをする必要があるか
譲渡担保権設定契約における「固定化事由」の定め方については、「当然固定化事由」として定める方法と「請求固定化事由」として定める方法が考えられる。いちがいにいずれの方法が優れているということはできず、債務者の状況、担保対象資産の性質、処分可能性などを検討し、個別案件ごとに判断する必要がある。
集合動産譲渡担保の場合、通常、譲渡担保権設定者には「集合物」を構成する個々の動産については、「通常の営業の範囲内」での処分(売却)する権限が認められている。
そのため、譲渡担保権者が譲渡担保権を実行しようとする場合には、譲渡担保権設定者に認められている処分権限が消滅していなければならない。譲渡担保権設定者に認められていた「通常の営業の範囲内」での処分(売却)権限が消滅することにより、それまで流動性が認められていた譲渡担保権の対象資産は、その時点において「集合体」を構成する個々の動産に「固定化」されると考えるのが一般的である(ただし、「固定化」という概念は不要であるとする考え方もある)。
「固定化」が生じると、「集合物」に対する譲渡担保権は、「固定化」時点において「集合物」を構成する個々の動産に対する複数の譲渡担保権に転化し、それまで譲渡担保権設定者に認められていた「集合物」の構成要素となっている個々の対象資産に対する処分権限等は失われると解されている。「固定化」が生じた後は、個々の動産が「集合物」から離脱しても譲渡担保権の効力は失われないが、他方、対象資産を場所的範囲によって特定していた場合に、当該場所に新たに搬入された動産には譲渡担保権の効力は及ばないとされる。
集合動産譲渡担保における「固定化」は、原則として譲渡担保権者が「私的実行」に着手する意思を明確にした場合に生じると解される。譲渡担保権設定契約において弁済期到来、法的整理手続申立等の一定の事由を「当然固定化事由」と定めている場合には、当該事由の発生により譲渡担保権を実行するための準備段階として「固定化」を生じさせるというのが当事者の意思であることから、当該事由の発生により「固定化」が生じると解されるであろう。
また、弁済期到来、法的整理手続申立等の一定の事由を「請求固定化事由」と定めている場合には、当該事由が発生したのみでは当然に「固定化」は生じず、譲渡担保権者による請求(「固定化」を生じさせる意思表示)がなされたときに「固定化」が生じると解される。
譲渡担保権設定契約における「固定化事由」の定め方については、「当然固定化事由」として定める方法と「請求固定化事由」として定める方法が考えられる。
弁済期到来、法的整理手続申立などの事由を「当然固定化事由」として定めておき、当該事由の発生により当然に「固定化」を生じさせるよりも、それらの事由を「請求固定化事由」として定めておき、譲渡担保権者が任意の時期に対象資産の確定、強制的な市場換価、換価代金からの優先弁済等の権利を行使しうるという選択肢を残しておいたほうがより柔軟な対応が可能とはなるが、いちがいにいずれの方法が優れているということはできず、債務者の状況、担保対象資産の性質、処分可能性などを検討し、個別案件ごとにどのような契約設計が望ましいか判断することが必要と思われる。