IV巻 担保 編
40723  譲渡担保権設定者の破産

譲渡担保権設定者が破産手続開始の決定を受けた場合、譲渡担保権はどのように処遇されるか

結論

譲渡担保権設定者が破産した場合は、譲渡担保権は別除権として処遇され、実務的には、破産管財人と別除権者が協議のうえ、対象資産の処分(任意売却)と別除権の受戻しを同時処理として行うことが多い。


解説
◆破産手続における譲渡担保権の処遇

破産手続においては、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないものは「破産債権」とされ(破産法2条5項)、配当手続によって満足を受けるにとどまる(破産手続による満足)。他方で、「破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者」はその目的財産について「別除権」を有するものとされ(同法2条9項・10項)、「別除権は、破産手続によらないで、行使することができる」(同法65条1項)とされている。

破産法上、譲渡担保権がいかなる処遇を受けるかは明文の規定はないものの、「別除権」として処遇されるとするのが通説である(破産手続開始決定前に「私的実行」が終了している場合にはすでに担保権としての処遇ではなく、帰属清算の場合には所有権として処遇され、譲渡担保権者(正確には所有者)には取戻権(同法62条)が認められる)。

なお、近時の判例において、破産管財人が負う義務に関し、「債権が質権の目的とされた場合において、質権設定者は、質権者に対し、当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い、……当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは、同義務に違反するものとして許されない……。また、質権設定者が破産した場合において、質権は別除権として取り扱われ(旧破産法92条)、破産手続によってその効力に影響を受けないものとされており(同法95条)、他に質権設定者と質権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないと解すべき法律上の根拠もないから、破産管財人は、質権設定者が質権者に対して負う上記義務を承継する」旨の判示がなされていることは注目に値する(最判平18.12.21民集60巻10号3964頁参照)。

◆譲渡担保権者の権利行使

譲渡担保権設定者について破産手続が開始されたとしても、担保権消滅請求などによって制限される場合があるが、譲渡担保権者は、原則として破産手続外で自由に譲渡担保権を実行して債権回収を図ることが認められる。

したがって、譲渡担保権者は、担保権に基づいて優先的な回収を図るとともに、別除権行使によっても回収できない額(別除権予定不足額)を見積もったうえで債権届出を行い、債権調査等の手続を経て、別除権不足額についての配当を受けることとなる。なお、別除権者が別除権不足額について破産手続における配当を受けようとするときは、債権届出期間内に債権届出をする必要があり、これを怠った場合には失権する(破産法111条)ので注意を要する。

担保権に基づく優先的な回収方法としては、「私的実行」の方法によって強制的に回収する方法のほか、破産管財人と協議のうえ「任意売却」によって回収する方法がある。なお、裁判所は、「担保権者が法律に定められた方法によらないで担保権の目的である財産の処分をする権利を有するときは」、「担保権者がその処分をすべき期間を定めることができる」とされ(同法185条1項)、担保権者がその期間内に処分をしないときは、法律に定められた方法によらないで処分する権利を失うこととなり(同条2項)、破産管財人は、自ら破産法184条2項に基づく目的物の換価が可能となる。

◆実務的処理

実務的な処理としては、破産管財人は「別除権の目的である財産の受戻し」をすることができる(破産法78条2項14号)から、破産管財人と別除権者が協議のうえ、対象資産の処分(任意売却)と別除権の受戻しを同時処理として行うことが多い。この場合には破産管財人は売却代金から管理処分費用および破産財団組入れ額を控除した残額を別除権者に支払うこととなる。なお、破産管財人は、別除権者の同意を得られない場合であっても、別除権の目的財産を担保権の負担付きで任意売却することができる(同法65条2項参照)。