動産譲渡担保(集合動産譲渡担保)はどのようにして実行するか
譲渡担保権の設定者から担保目的物の引渡しを受け、これを換価するか、自己の所有に確定帰属させ、被担保債権の弁済に充当したうえで、担保余剰があれば清算金を設定者に返還する。設定者の協力を得られない場合には仮処分を検討する。後順位担保権者の私的実行はできないとする判例がある。
譲渡担保は非典型担保であり、実行手続も民執法上の定めがない。そのため譲渡担保の実行は、いわゆる私的実行の方法によることとなる。一般的には、以下の手順で行う。
(1) 実行通知 譲渡担保権者は、担保権を実行するときは、設定者に対して担保権を実行する旨の通知を行う。通知は内容証明郵便で行われることもあれば、急を要するときは書面手渡しや口頭で行われることもある。担保目的物が集合動産であるときは、実行通知により集合物の構成要素が固定化し、集合動産譲渡担保が複数の個別動産譲渡担保に転化すると解されている。
(2) 担保目的物の処分または確定帰属 譲渡担保権者は、設定者から担保目的物の引渡しを受けて、これを自ら換価するか(処分清算)、担保目的物を自己の物に確定的に帰属させる(帰属清算)ことによって、被担保債権の弁済に充当する。
(3) 清算金の支払 担保目的物の適正処分価額や適正評価額が被担保債権額を上回る場合には、譲渡担保権者は、差額を清算金として設定者に返還する。
私的実行に際して設定者の協力が得られない場合には、仮処分を申し立て、目的物の保全を図ったうえで、設定者に対する引渡請求訴訟を通じて引渡しを受けることになる。
仮処分としては①占有移転禁止仮処分、②処分禁止仮処分、③引渡断行仮処分が考えられる。①は、設定者の占有をいったん解いて執行官に保管させるものであり、さらに㋑債務者に使用を認めるもの、㋺債権者に使用を認めるもの、㋩債権者にも債務者にも使用を認めないもの(執行官が倉庫業者等に保管させるもの)の3種類がある。②は設定者による動産の処分を禁止するもので、①と併用されることが多い。③は、譲渡担保権者への引渡しを仮に認めるものであり、引渡し後は譲渡担保権者において処分することも可能となる(㋺は目的物の使用のみが認められ、処分は認められない)。いずれの仮処分を用いるかは、保全の必要性とのかねあいで判断する。仮処分による設定者への不利益が大きくなるほど、発令の要件もきびしくなるし、担保の額も高くなる。なお、裁判所において審尋が行われることもある。
実務上は、仮処分を行うことで担保権実行に協力しない設定者を裁判所のもとで交渉のテーブルにつかせ、和解的な解決を目指すことがある。
仮処分命令が発令されるまでの間は、担保目的物の不当な搬出・隠匿に留意する必要がある。実行通知と同時に、保管場所に警備員を配置したり、トラックを横づけするなどの対応を検討すべき場合もある。
もっとも、目的物を自力で搬出する行為は、設定者の承諾のもとに行わなければ刑事上、民事上の責任を問われかねない。この点、判例もまったく自力救済の余地を認めていないわけではないが(たとえば、債務者が不渡手形を出して倒産し、代表者も行方不明となっている等の事実関係のある事例において、債務者の承諾を得ないでなされた搬出行為についての不法行為責任が否定された事例がある(最判昭53.6.23金法870号58頁))、銀行としてはレピュテーショナルリスクをも考慮する必要があり、搬出にあたっては原則として設定者の承諾や協力を得るべきであろう。
後順位の動産譲渡担保権を設定することができるか、またできるとしても後順位担保権者の担保権実行はできるかは争われている。判例は、集合動産譲渡担保が重複して設定された事例において、「このように重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても、劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合、配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり、先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず、その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできない」と判示している(最判平18.7.20民集60巻6号2499頁)。
動産譲渡担保について、動産競売手続(民執法190条)が活用できるか。①譲渡担保権が同条の「担保権」に当たるかという点、および②同条2項の競売開始許可決定には「担保権の存在を証する文書」の提出が必要であるが動産譲渡登記の登記事項証明書がこれに当たるかという点が問題となるが、現段階では執行実務上必ずしも明らかでない。