集合動産譲渡担保が重複して設定された場合、後順位設定者は目的動産についていかなる権利を有するか
集合動産譲渡担保を重複して設定することは可能であるが、先順位の譲渡担保権者が優先権を行使する機会を保障する趣旨から、後順位の譲渡担保権者による私的実行は認められない。
従来、譲渡担保権を重複して設定できるかについては、譲渡担保権の法的構成に関連して争いがあった。すなわち、譲渡担保の設定により目的物の所有権が設定者から担保権者に移転するという構成(所有権的構成)を徹底すれば、目的物の所有権はすでに先行する譲渡担保権者に移転していることになり重複して設定することはできない(即時取得の可否の問題となる)。設定者に所有権が残り債権者は担保権を取得するという構成(担保権的構成)を徹底すれば、目的物の所有権は設定者に残っており重複して設定することも可能であると解されていた。判例は、基本的には所有権的構成を維持しつつも、担保権としての実質と矛盾しない限りにおいて譲渡担保権者に所有者としての権利主張を認めるものとして、事案ごとに担保権としての実質との調和を図る傾向にあるとされていた(最判平7.11.10民集49巻9号2953頁)。
この点、近時の判例は、譲渡担保権の法的構成について特に触れず、「重複して譲渡担保を設定すること自体は許される」として集合動産譲渡担保を重複して設定することができることを明らかにした(最判平18.7.20民集60巻6号2499頁)。なお、集合動産譲渡担保の第三者対抗要件は占有改定で足りるとされており(最判昭62.11.10民集41巻8号1559頁)、重複設定がなされた場合の先後関係は占有改定または動産譲渡登記の時期の先後により判断されると思われる。
重複設定が許されるとして、後順位設定者が目的動産についていかなる権限を有するかが問題となる。この点判例は、「劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合、配当手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合とは異なり、先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず、その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない」として後順位譲渡担保権者による私的実行の権限を否定している(前掲最判平18.7.20)。当該判例は、重複設定が認められる実質的な意味について、私的実行の権限以外については明らかにしていないが、先順位譲渡担保権者から設定者に支払われる清算金に対する優先弁済権、当該清算金引渡請求権への物上代位、先行する譲渡担保権が私的実行に至ることなく消滅した場合の順位昇進の期待権が考えられる。しかし、上記判例が譲渡担保に配当手続が整備されていないことを強調していることからすれば、清算金に対する優先弁済権が否定される可能性もあると思われる(なお、動産譲渡担保による物上代位については、【40707】を参照されたい)。
以上のとおり、集合動産譲渡担保につき重複設定が認められることは明らかになったが、後順位譲渡担保権者の権限は不明な部分が多く、今後の判例の動向を注視する必要がある。かかる現状においては、集合動産につき順位で劣後する譲渡担保を設定せざるをえない場合、①譲渡担保権を準共有として設定したうえで配当に関する順位、準共有物の管理・処分等について他の担保権者と協定を締結する、②後順位で譲渡担保権を設定し、あわせて先順位譲渡担保権者の実行により発生する清算金の引渡請求権に担保権を設定する等の現行実務とあまり変わらない対応を検討する必要があるように思われる。
なお、前掲最判平18.7.20では、「占有改定による引渡しを受けたにとどまる者に即時取得を認めることはできないから、被上告人(編注:後順位設定者)が即時取得により完全な譲渡担保を取得したということもできない」としており、後順位設定者が目的動産につき現実の引渡しを受けた場合は、(他に担保権の負担のない)完全な譲渡担保権を取得する余地があるかのように判示している。したがって、先行する譲渡担保権者からみれば、自らの譲渡担保権を喪失しないよう、譲渡担保契約の譲渡担保の重複設定を禁止する条項を設けるとともに、即時取得を防止する方法(目的動産のモニタリング、明認方法、動産譲渡登記の具備等)も検討する必要があるように思われる。