全銀協の行動憲章とはどのような内容・性格のものか
銀行は、金融サービス業の中核として、高い公共性を有し、広く経済・社会に貢献していくという重大な責任を負っている。あらゆる分野で改革が進展している今日、銀行が、果たすべき役割はますます大きくなっていることから、高い倫理感に基づく自己規律によって、あらゆる人の人権を尊重しつつ、社会からの期待に真摯に応え、その社会的責任を果たすべく、不断の努力を払うことを宣言するため、一般社団法人全国銀行協会(以下「全銀協」という)が制定したのが行動憲章(平成9年9月制定、平成17年11月改定、平成25年2月改定)である。
全銀協では、平成9年9月、総会屋への利益供与事件等を背景にして、金融機関の公共的使命や社会的責任の重要性、コンプライアンスの強化など、金融機関の役職員すべてが認識すべき基本理念を示す「倫理憲章」を制定した。
その後、経済のグローバル化や情報化の進展、環境問題への取組みやバリアフリー化の促進など、社会を取り巻く環境は激変し、CSR(企業の社会的責任)に配慮した取組みがこれまで以上に叫ばれるようになった。また、銀行を取り巻く環境をみても、保険窓販や証券仲介業の解禁等による業務範囲の拡大、偽造キャッシュカードや振り込め詐欺など預金口座をめぐる犯罪の社会問題化など、倫理憲章の制定当時から大きく変化している。
こうした状況をふまえ、平成17年11月にCSRへの取組みを中心に、より幅広い内容を盛り込むことを目的として「倫理憲章」を改定し、表題も「行動憲章」に改めた。その後、平成25年2月には社会経済環境の変化に伴う銀行界の取組みを盛り込むなどの内容の改定を行っている。
行動憲章は、次の八つから構成されている。
① 銀行の公共的使命 銀行のもつ公共的使命の重みを常に認識し、健全な業務運営を通じて揺るぎない信頼の確立を図る。
② 質の高いサービスの提供 経済活動を支えるインフラとしての機能はもとより、創意と工夫とを生かし、お客さまのニーズに応えるとともに、セキュリティレベルの向上や災害時の業務継続確保などお客さまの利益の適切な保護にも十分配意した質の高い金融サービスの提供を通じて、内外の経済・社会の発展に貢献する。
③ 法令やルールの厳格な遵守 あらゆる法令やルールを厳格に遵守し、社会的規範にもとることのない、誠実かつ公正な企業活動を遂行する。
④ 社会とのコミュニケーション 経営等の情報の積極的かつ公正な開示をはじめとして、広く社会とのコミュニケーションを図る。
⑤ 従業員の人権の尊重等 従業員の人権、個性を尊重するとともに、安全で働きやすい環境を確保する。
⑥ 環境問題への取組み 資源の効率的な利用や廃棄物の削減を実践するとともに、環境保全に寄与する金融サービスを提供するなど、環境問題に積極的に取り組む。
⑦ 社会貢献活動への取組み 銀行が社会の中においてこそ存続・発展し得る存在であることを自覚し、社会と共に歩む「良き企業市民」として、積極的に社会貢献活動に取り組む。
⑧ 反社会的勢力との対決 市民社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力とは断固として対決し、関係遮断を徹底する。
このように、行動憲章には、社会からの信頼確立のために不可欠となる銀行の存立基盤にかかわるものにとどまらず、金融システムの改革など金融をめぐる大きな環境変化に対応する新しい銀行経営のあり方、ディスクロージャーの拡充など社会とのコミュニケーションの重要性、さらには良好な労働環境の確保や従業員の人権尊重、環境問題や社会貢献活動への積極的な取組みなど、CSRの視点を取り入れた幅広い内容となっている。
銀行は、金融サービス業の中核として高い公共性を有し、広く経済・社会に貢献していくという重大な責任を負っており、CSRを意識した経営や各種法令やルールを厳格に遵守するコンプライアンス体制の確立が強く求められている。
とりわけ、近年は、地球温暖化に伴う環境への配慮や少子高齢化社会の到来に伴うバリアフリー化への要請、振り込め詐欺に代表される預金口座をめぐる社会問題化など、銀行経営を取り巻く環境は大きく変貌を遂げており、時々刻々と変化する社会情勢に適時的確に応えていく必要がある。また、保険窓販や証券仲介業の解禁、ファイアーウォール規制の見直しなど相次いで規制緩和が図られる一方、業務拡大から生じうる弊害等に対しては、金融機関の自主的な規律づけによる内部管理体制の整備が義務づけられるなど、これまで以上に責任のある経営が求められているところである。加えて、金融行政に関してもベターレギュレーションの柱の一つとして「ルールベースの監督とプリンシプルベースの監督の最適な組合せ」が掲げられている。「プリンシプルベースの監督」はいくつかの主要な原則を示し、それに沿った金融機関の自主的な取組みを促すという監督手法であるが、銀行はこれまで以上に法令改正や制度変更等について的確かつ迅速に対応できる自立的な枠組みを整備・強化することが不可欠となっている。
行動憲章およびその精神が、銀行業務に携わるすべての役職員にとっての行動指針として深く理解され、日々の業務運営のなかで常に意識されることがこれまで以上に求められているといえよう。