動産・債権譲渡担保の設定者について、事業譲渡・合併・会社分割が行われた場合、いかなる影響があるか
動産・債権譲渡担保の効力が及ぶ範囲につき、影響を受けるおそれがある。
譲渡担保の設定者について、合併・事業譲渡・会社分割が行われた場合、譲渡担保の効力の及ぶ範囲に影響を生ずるおそれがある。これを、将来債権譲渡担保を例にとって検討すれば、次のとおりとなる。
A社が、Bに対する将来債権につきCに対して譲渡担保を設定し、Cが債権譲渡登記を具備していたが、A社がD社に吸収合併された場合、目的債権は合併により当然にDに移転する。この場合の目的債権の移転は、合併による法人格の承継に伴う包括承継である。
問題となるのは、たとえば、A社が、Bに対する債権につきCに対して譲渡担保を設定し、Cが債権譲渡登記を具備していたが、A社が、Bに対する同種の債権を有するD社に吸収合併された場合において、①Cの譲渡担保権は、合併前からDが有していたBに対する債権にも及ぶことになるのか、②D社がBに対する債権につきEに対して譲渡担保を設定し債権譲渡登記を具備していた場合において、AとDの合併後に発生する将来債権について、CE間の優劣はいかなる基準で決せられるのか、などである。
この点につき、学説上の定説は存しない。①については否定的に解するのが妥当であろうが、②については、㋑CとEの対抗要件の先後によって決するとの見解、㋺CおよびEのそれぞれが合併後に発生する将来債権について按分された持分につき譲渡担保を有するものと解する見解(按分の基準についても問題となるが、合併比率、被担保債権の比率、二つの譲渡担保が並存した時点以降の目的債権の平均残高の比率などが考えられている)などが指摘されている。
A社が、Bに対する将来債権につきCに対して譲渡担保を設定し、Cが債権譲渡登記を具備していたが、A社が、将来債権の発生原因となる事業をDに譲渡した場合、事業譲渡後にDのもとで発生する将来債権に対して、Cの譲渡担保権が及ぶかが問題となる。
この点についても、学説上の定説は存しない。この点については、①事業譲渡に伴うものであれ、Cの譲渡担保権の目的債権がDに譲渡されているのであり、二重譲渡類似の関係に立つのであるから、先に第三者対抗要件を具備したCの譲渡担保権が優先し、これが及ぶとする肯定説と、②事業譲受人のもとで新たに発生する将来債権は、目的債権とは別個の債権であるとみて、Cの譲渡担保権は及ばないとする否定説が成立しうる。
A社が、Bに対する将来債権につきCに対して譲渡担保を設定し、Cが債権譲渡登記を具備していたが、A社が将来債権をDに会社分割により移転した場合、会社分割後にDのもとで発生する将来債権に対して、Cの譲渡担保権が及ぶかが問題となる。
この点についても定説は存しないが、一つの視点は、会社分割を、合併・事業譲渡のいずれに近づけて考えるかであると思われる。
合併における目的債権の移転は、法人格の承継に基づく包括承継(一般承継)であるのに対して、事業譲渡における目的債権の移転は、事業譲渡契約に基づく特定承継である。
会社分割における目的債権の移転は、一般には、「譲渡」に当たらず、一般承継であると解されており、この点を重視すれば、Cの譲渡担保権が及ぶとの見解が導かれうるが、他方で、一般承継とはいえ法人格の承継を伴うものではなく、実質的には事業譲渡に近い点もあることを重視すれば、Dのもとで新たに発生する将来債権にはCの譲渡担保権は及ばないとの見解もありえよう。
以上のとおり、この問題については、判例・学説上、明確な定説がないところであり、今後の学説・判例の展開に待つところが大きい。