I巻 コンプライアンス・取引の相手方・預金・金融商品 編
10008  コンプライアンス態勢構築と経営陣の役割

法令等遵守態勢を構築するにあたって留意すべき点は何か。また、その際の経営陣の役割は何か

結論

金融機関にとって法令等遵守態勢の構築は、業務の健全性および適切性を確保するための最重要課題の一つであり、経営陣は、法令等遵守態勢の構築のため、法令等遵守に係る基本方針を決定し、組織体制の整備を行う等、金融機関の業務の全般にわたる法令等遵守態勢の構築を自ら率先して行う役割と責任を負う。

ここでは、原則として会社法上の監査役(会)設置会社である銀行を念頭において記述するが、信用金庫等の協働組織金融機関については、「取締役」とあるのは「理事」に、「取締役会」とあるのは「理事会」に、「取締役会等」とあるのは「理事会等」に、「代表取締役」とあるのは「代表理事」に読みかえる。


解説
◆法令等遵守方針の策定

金融機関の取締役は、法令等遵守の徹底が当該金融機関の信頼の維持、業務の健全性および適切性の確保のために必要不可欠であることを十分に認識し、法令等遵守を重視しなければならない。特に、法令等遵守を担当する取締役は、金融機関全体の業務に適用される法令等の内容を理解するだけではなく、当該金融機関の法令等遵守の状況を的確に認識し、適正な法令等遵守態勢の構築に向けた方針および具体的な方策を検討することが求められる。

当該取締役で構成される取締役会においては、法令等遵守に係る基本方針を定め、組織全体に周知させることが必要であり、その方針の策定、周知によって、当該金融機関における法令等遵守の考え方が具現化される。

また、当該基本方針については、定期的にまたは必要に応じて随時、法令等遵守の状況に関する報告・調査結果等をふまえて、方針策定のプロセスの有効性を検証し、適時に見直すことが必要である。

◆組織体制の整備

経営陣は、取締役会や常務会等の組織体の意思決定を通じて、営業推進部署等からの独立性を確保したコンプライアンス統括部署(法令等遵守に関する事項を一元的に管理する部署)を設置し、所掌事項を明確にして権限を付与し、適切な役割・機能を発揮させる態勢を整備する必要がある。

具体的には、金融機関全体の法令等遵守の徹底を図るために、コンプライアンス統括部署に必要な知識と経験とを有する管理者を配置し、必要な権限を与えるとともに、適切な規模の人員を配置し、当該人員に対し業務の遂行に必要な権限を与えることである。それにより、当該部門にさまざまな部署に散在するコンプライアンス関連情報を一元的に収集、管理、分析、検討させ、その結果に基づき適時に適切な措置・方策を講じさせ、定期的にまたは必要に応じて随時、取締役会等に対し法令等遵守の状況を報告させ、特に、経営に重大な影響を与える、または顧客の利益が著しく阻害される事案については、取締役会等に対し速やかに報告させる態勢を整備することが肝要である。

また、経営陣は、各業務部門および営業店等の法令等遵守態勢の実効性を確保するために、業務部署・営業店等ごとにコンプライアンス担当者を配置し、コンプライアンス関連情報の収集、モニタリング(遵守状況点検)、コンプライアンス統括部門への連絡等により、当該部門と連携させることが必要である。

◆内部規程等の整備

経営陣は、法令等遵守方針に合致することを確認したうえで承認した、法令等遵守に関する取決めを明確に定めた内部規程(法令等遵守規程)や役職員が遵守すべき法令等の解説、違法行為を発見した場合の対処方法等を具体的に示した手引書(コンプライアンス・マニュアル)を承認したうえで組織全体に周知させ、法令等遵守態勢の構築を図る必要がある。

さらに、法令等遵守を実現させるための具体的な実践計画(コンプライアンス・プログラム)を最長でも年度ごとに策定させ、承認したうえで組織全体に周知させ、代表取締役および取締役会は、その進捗状況や達成状況を定期的にかつ正確に把握・評価し、コンプライアンス・プログラムの実施状況を業績評価や人事考課等に衡平に反映する態勢を整備する必要がある。