IV巻 担保 編
40736  動産譲渡担保と動産占有代理人による商事留置権主張

動産譲渡担保の目的物が、倉庫業者に寄託されている場合など、占有代理人の占有下にある場合、譲渡担保権者の引渡請求に対し、占有代理人は、留置権を主張することができるか

結論

要件を満たす限り留置権を主張することができる。


解説
◆民事留置権

他人の物の占有者は、その物と債権との間に牽連性があり、債権の弁済期が到来している場合であって、不法行為により占有を始めたものではない場合には、占有代理人(倉庫業者)は民事留置権(民法295条)を行使することができ、動産譲渡担保権者に対してもこれを主張することができる。もっとも、債務者(寄託者・譲渡担保設定者)が破産した場合には、民事留置権は失効する(破産法66条3項)。

◆商事留置権

商事留置権は、商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるとき、債権者が、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した「債務者の所有する物」を留置することができる権利であり(商法521条)、その物と債権との間の牽連性は要求されない。

「債務者の所有する物」の解釈については、「留置権が成立するためには債権者が目的物の占有を取得した当時その目的物が債務者の所有であることをもって足り、その後に債務者がその所有権を失ったとしても、これによっては一たん成立した留置権は何らの影響を受けない」ものとする裁判例がある(東京地判昭53.12.21下民集29巻9-12号376頁)。

動産譲渡担保の法的性質につき所有権的構成を徹底する立場に立ち、かつ、この裁判例の考え方によるならば、動産譲渡担保の設定により所有権が移転する前に倉庫業者が目的物の占有を取得した場合には、目的物は「債務者の所有する物」に当たり、倉庫業者に商事留置権が成立することになると思われる。他方、動産譲渡担保が設定されて目的物が「債務者の所有する物」ではなくなり、かつ、動産譲渡担保の対抗要件が具備された後に倉庫業者が目的物の占有を取得した場合には、倉庫業者は、動産譲渡担保権を対抗されることになるものと思われる。

なお、債務者(寄託者・譲渡担保設定者)が破産した場合には、商事留置権は特別の先取特権として扱われる(破産法66条1項)。

◆特約による留置権の排除、第三者弁済

民事留置権は特約により排除することができると解されており、商事留置権も、明文で特約による排除が認められている(商法521条ただし書)。したがって、動産譲渡担保権者としては、動産譲渡担保設定契約の締結の際に、占有代理人との間で留置権を行使しない旨の特約を行うことにより、留置権の主張を回避することができる。もっとも、かかる排除特約を占有代理人との間で締結することは一般的には困難である。そこで、実務上は、動産譲渡担保権の実行に際して、目的物の引渡しを受けるために、留置権者の被担保債権を譲渡担保権者が第三者弁済することも行われる。