集合物を担保にとるにはどうすればよいか。また、その効力はどうか
いわゆる集合物を担保にするときは、対象資産である集合物を特定して譲渡担保契約書を締結し、第三者対抗要件を具備することが必要となる。集合動産の譲渡担保の有効性について、目的物の特定性の原則はいかに充足されるか、離脱・流入する動産と譲渡担保の拘束力・対抗要件をどのように理論構成すべきかなど問題はあるが、学説では、集合物概念を肯定する考え方が支配的であり、判例もこれを明確に肯定している。
しかし、集合物の譲渡担保については、目的物の範囲の特定方法について問題が残されており、実務においては慎重に対応する必要がある。
集合物とは、個々のものがその独自の個性を維持しつつ、継続的な経済的関連のもとに結合され、取引観念上、単一のものとして取り扱われるような多数の物の集合をいう。特に、倉庫内の商品全部とか、工場における加工材料から完成品まで一括した物件全部というように、個々の動産の集合体を、その構成部分を離れて、全体として1個の動産として担保権の目的とすることを認めようとする見地から、それらの多数の物の集まりを集合物と呼んでいる。
学説は、かつては民法の物の観念ないし物権法の特定の原則に従って集合物の譲渡担保の有効性を否定する傾向にあったが、今日では集合物の譲渡担保を肯定する考え方が支配的である。下級審判例でもこれを肯定するものが多いが、最高裁も「構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、1個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である」と判示し、集合物概念を肯定するとともに、集合動産も譲渡担保の目的となりうることを明らかにした(最判昭54.2.15民集33巻1号51頁)。しかし、同判例は、総論として肯定しつつも、当該事案については集合物譲渡担保の成立を否定したものであったため、その先例としての価値に多少の疑問も残されていたが、最判昭62.11.10(民集41巻8号1559頁)は、集合物譲渡担保の成立を認め、判例上も集合物譲渡担保の理論が確立されるに至った。
同判決は次のように述べている。
「ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を特定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、1個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和53年(オ)第925号同54年2月15日第一小法廷判決・民集33巻1号51頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損われない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである」。
国税徴収法(基本通達24条関係30)の取扱いもこれを認めている。
集合物が担保の目的となるためには、目的物の範囲が特定されなければならない。上記のとおり、判例は、種類、所在場所および量的範囲を特定するなどの方法により、目的物の範囲が特定されると判示する。では、具体的には、どのようにすれば目的物の範囲が特定されたといえるであろうか。まず担保の目的物が特定の倉庫、工場、店舗など客観的に明瞭な一定の場所におかれており、しかも、それがその場所におかれた動産の全部を占める場合には、その所在場所を指定するほか、集合動産の内容をなす構成要素の種類、数量等を概括的に指定すれば、目的物の範囲は特定されると解される。判例は「特定倉庫内の在庫商品全部」や「特定の店舗内のすべての什器備品及び商品類」、債務者の「第一ないし第四倉庫内及び同敷地、ヤード内」にある「普通棒鋼、異型棒鋼等一切の在庫商品」(前掲最判昭62.11.10)と定めた場合には特定性を認める。
これに対し、ある集合動産の一部を対象(目的)とする場合、たとえば特定倉庫内にある商品の一部だけを目的とする場合にあっては、その種類や場所的区分等(ある倉庫の東側の棚にある商品全部等)をできるだけ客観的に識別できるよう表示しなければならない。単に特定倉庫内の数量的一部(たとえば、在庫商品の2分の1、プロパンガスボンベ容器700本、鋼屑8000トン)で示しても、目的物の特定性に欠ける。
なお、破産管財人との間で特定性について争点となった下級審判決がある(名古屋地判平15.4.9金法1687号47頁)。
集合物担保の場合は、債務者が目的物を現に占有し続ける必要がある場合が多いため、質権ではなく譲渡担保権が設定されるのが通例である。債権者は、占有改定による引渡しの方法により対抗要件を具備し、債務者による代理占有が行われる。この対抗要件の具備の効力に関しては、前掲最判昭62.11.10が、集合物に対する譲渡担保権の対抗要件を具備した場合には、構成部分たる個々の動産についても対抗要件を具備したものとしてその譲渡担保権を主張することができる旨判示している。
また、占有改定による対抗要件に加え、動産・債権譲渡特例法に基づき、法人の動産の譲渡については登記による対抗要件の取得(同法3条)が可能であり、集合物の譲渡についてもこの登記が可能である。ただし、当該登記の効力は従来の占有改定に優先するものではないため、対抗要件の取得方法としては占有改定と並存することとなる。なお、動産譲渡登記においては、第三者が占有する場合であっても登記可能となっている(同法3条2項参照)。
動産譲渡登記を行った場合において、登記後の動産の取得者が当該登記の設定の確認をしないことが直ちに即時取得(民法192条)の要件の一つである取得者の無過失を否定するかどうかは今後の判例等の個別具体的な判断に委ねられることになるが(【40711】参照)、高額の動産取引や集合動産譲渡担保の設定にあたっては、少なくとも設定者の動産譲渡に関する登記概要記録事項証明書を確認(動産・債権譲渡特例法11条1項)し、さらに登記が存在する場合には、担保権設定者から登記事項証明書(同条2項)を求める等の対応を行うことが考えられる。
集合物は1個の物として譲渡担保権の支配に服するが、集合物に搬入または離脱する物件に対する効力については、集合物概念に対する見解により、肯定・否定両説に分かれる。第一説(集合物論=一物説)は、個々の構成物件を集合物として認識し、集合物としての同一性に変化のない限り、物件の搬入、離脱があっても、その集合物の上に当初の担保権が成立しているとする説であり、前記の判決や国税徴収法における取扱いがこの立場である。これに対し第二説(分析論=多物説)は、集合物といえども個々の構成物件の集合であるから、担保権は個々の物件の上に存し、その変動はそのつど担保権の設定、消滅を生ずるとする。第二説が伝統的立場に立つのに比し、第一説は集合物担保の本質に即応した見解であり、通説の立場である。
なお、集合物譲渡担保においては、設定者は個々の構成物件を少なくとも通常の営業の範囲では自己の名において処分(売却)することができる旨を契約において定めるのが一般的である。
集合物を譲渡担保の目的とする場合であっても、原則として個別動産を譲渡担保の目的とする場合と同様に解すればよい。なお、詳細は【40718】を参照されたい。