IV巻 担保 編
40719  譲渡担保の目的物の滅失リスクと損害保険契約

譲渡担保の目的物盗難、火災等により滅失するリスクにはどのように対応すればよいか

結論

動産を目的とする譲渡担保権の設定を受けるときは、当該動産の滅失等により生ずる損害をてん補する内容の損害保険契約締結の有無や契約内容を十分に検討、吟味し、損害保険契約に基づき給付される保険金等によって被担保債権の回収が可能となるような措置を譲渡担保権設定契約等に定めるなどしておくことが望ましい。

仮にそのような措置を定めていなかった場合には、譲渡担保権設定者が有する保険金請求権に対して物上代位権を行使し、保険金が支払われる前にこれを差し押さえることを検討すべきである。


解説
◆譲渡担保の目的物の滅失リスクと損害保険契約

動産を譲渡担保の目的とする場合には、盗難や火災などの不測の事態によって目的物件が滅失、毀損してしまい、目的物件の処分(もしくは譲渡担保権者への帰属)によって、被担保債権を優先的に回収することができなくなるというリスクがある。

譲渡担保権者としては、このような譲渡担保の目的物の滅失リスクに備えて、損害保険契約を活用して、目的物件の滅失、毀損によって保険会社から給付される保険金による被担保債権の回収を図る方策を講じておくとよい。

損害保険契約とは、保険者が、一定の事由(損害保険契約によりてん補することとされる損害を生じることのある偶然の事故として当該損害保険契約で定めるもの)が生じたことを条件として財産上の給付(保険金等)を行うことを約し、保険契約者がこれに対して当該一定の事由の発生の可能性に応じた保険料を支払うことを約する契約、である(保険法2条1号・6号)。動産の滅失等によって生じる損害をてん補することを内容とする損害保険契約としては、動産総合保険、盗難保険や火災保険などがある。

◆既存の損害保険契約を利用する場合

譲渡担保権者が、譲渡担保権設定時にすでに担保目的物の滅失により生じる損害をてん補する内容の損害保険契約を締結している場合には、①既存の損害保険契約に基づく保険契約者としての地位を承継する(譲り受ける)方法と、②既存の損害保険契約に基づき発生する権利(保険金給付請求権等)を目的とする質権(債権質)設定を受ける方法がある。

上記①の方法による場合には、契約当事者の変更であるから保険者の同意が必要であり、また、譲渡担保権者は保険契約者としての地位を承継した以後、保険者に対する保険料の支払義務を負担することになる。

上記②の方法による場合には、質権設定契約は譲渡担保権設定者と譲渡担保権者の二者間で締結することができるが、当該質権を第三債務者である保険者およびその他の第三者に対抗するためには、保険者に対して確定日付ある通知をするかまたは保険者から確定日付ある承諾を得ておく必要がある(民法364条・467条)。なお、質権設定に際して保険証書の交付を受けることは質権の効力発生要件ではない(同法363条参照)。

◆新規に損害保険契約を締結する場合

譲渡担保権設定者が、譲渡担保権設定時に担保目的物の滅失により生じる損害をてん補する内容の損害保険契約を締結していない場合には、①譲渡担保権者が自ら保険契約者兼被保険者として損害保険契約を締結する方法と、②譲渡担保権設定者を保険契約者とする損害保険契約を新たに締結してもらい、当該損害保険契約に基づき発生する権利(保険金給付請求権等)を目的とする質権(債権質)設定を受ける方法がある。

上記①の方法による場合については、譲渡担保権者が保険契約者となりうるかという問題があったが、「譲渡担保の趣旨及び効力にかんがみると、譲渡担保権者及び譲渡担保権設定者は、共に、譲渡担保の目的不動産につき保険事故が発生することによる経済上の損害を受けるべき関係にあり、したがって、右不動産についていずれも被保険利益を有すると解する」とした最高裁判例(最判平5.2.26民集47巻2号1653頁)により決着した。

なお、譲渡担保権者が自ら保険契約者兼被保険者として損害保険契約を締結し、当該保険契約に定める保険事故が発生したことにより受領した保険金のうち、被担保債権を超える部分について、譲渡担保権者は譲渡担保権設定者に対して清算義務を負うのかという点について否定した下級審裁判例(東京地判平10.9.24金法1529号57頁)があるが、同裁判例の評価については見解が分かれている。

上記②の方法による場合は新規に損害保険契約を締結してもらうという点を除いて、既存契約を利用する場合と同様である。

◆譲渡担保権に基づく物上代位の可否

譲渡担保権者が上記のような方法であらかじめ損害保険契約に基づく保険給付金等により被担保債権の回収を図るための方策を講じていない場合などには、譲渡担保権者としては、動産譲渡担保権に基づく物上代位として保険金給付請求権等を差し押えることを検討することになろう。

動産譲渡担保権に基づく物上代位が認められるかという点については、近時、集合動産譲渡担保権の効力は、その実行の先後を問わず、その目的物の滅失にかかる保険金請求権にも及ぶと判示した最高裁判例がある(最決平22.12.2民集64巻8号1990頁)。詳しくは【40707】を参照されたい。

◆実務上の留意点

動産を目的とする譲渡担保権の設定を受けるときは、当該動産の滅失等により生じる損害をてん補する内容の損害保険契約が締結されているか否か、締結されている場合には保険証券、保険約款などにより内容(保険事故、免責事由、給付金額等)を十分に検討、吟味する。そのうえで、万一の場合に備え、損害保険契約に基づき給付される保険金等によって被担保債権の回収が可能となるような措置を譲渡担保権設定契約等に定めるなどしておくことが望ましい。

仮にあらかじめそのような措置を定めていなかった場合には、譲渡担保権設定者が有する保険金請求権に対して、物上代位権に基づき、保険金が支払われる前にこれを差し押さえることを検討すべきである。