物上保証人である譲渡担保権設定者には消滅時効の援用権はあるか
第三者提供による譲渡担保の設定者は、消滅時効により直接利益を受ける者として、消滅時効を援用することができる。また、主債務者のなした時効の利益の放棄は、譲渡担保権設定者に影響を及ぼさない。
民法145条によれば、時効は「当事者」でなければ援用できないとされており、従来の大審院判例では、「当事者」とは時効により直接に利益を受けるべき者およびその承継人をいい、時効によって間接に利益を受けるにすぎない者は含まれないとされていた。そして、保証人や連帯保証人は、主債務の時効消滅により保証債務も消滅すべきものであるから、時効援用につき直接の利益を受ける者にあたるとされる(大判大4.7.13民録21輯1387頁)が、物上保証人については保証人と異なり、被担保債権の時効消滅の結果、担保権が消滅し、担保目的物についての所有権喪失の負担を免れるのであって、その利益は間接的であり援用権者に該当しないとしていた(大判明43.1.25民録16輯22頁)。しかしながら、実質的には同じような立場にある保証人と物上保証人とを、このように区別することは説得力に乏しく、学説も時効援用の法的性質の理論的考察から概ねこれに批判的であり、古くから物上保証人の時効援用を認めるものが多かった。
最高裁はこれらの批判を受け入れ、「いわゆる物上保証人も被担保債権の消滅によって直接利益を受ける者というを妨げないから、民法145条にいう当事者にあたるものと解するを相当」とし、従来の見解を改めた(最判昭42.10.27民集21巻8号2110頁、最判昭43.9.26民集22巻9号2002頁)。
譲渡担保について、当初、判例はその所有権移転という法律構成を重んじていた(大判大13.12.24民集3巻12号555頁)が、譲渡担保の担保的機能を重視するようになった(最判昭41.4.28民集20巻4号900頁、代物弁済につき最判昭42.11.16民集21巻9号2430頁)。前掲最判昭42.10.27もまたこの考え方を認め、譲渡担保権設定者を物上保証人と同視し、消滅時効を援用することができるとしている。
債務者の時効の利益の放棄の効果は相対的であって、他の者にはなんら影響を及ぼさないことは通説の説くところであり、判例もこれに同調している(大判大5.12.25民録22輯2494頁)。したがって、主債務者が時効の利益を放棄しても、譲渡担保権設定者の時効援用は妨げられない。したがって、万一譲渡担保権設定者に対する時効中断を怠るときは、担保権の喪失という事態も招来しかねないので、実務上注意が必要である。