集合動産譲渡担保において、譲渡担保権を実行する際に設定者が対象資産の任意の引渡しに応じない場合はどのような対応をする必要があるか
集合動産譲渡担保の場合には、譲渡担保権設定者あるいは第三者によって対象資産が隠匿、処分される危険性が大きい。このため、譲渡担保権設定者が任意の引渡しに応じないなど非協力的な場合には、速やかに民保法に基づく保全処分によって、対象資産が散逸することを防止しつつ、本訴、強制執行などの法的手続に基づいて引渡しを実現する必要がある。
債務者が約定に従って債務の返済を完了すれば、譲渡担保権は当然に消滅するが、債務者による返済が滞った場合には、譲渡担保権を実行して、対象資産から債権の回収を図ることが必要となる。
譲渡担保権については、民執法に基づく強制執行(強制換価)手続は予定されておらず、①実行通知、②対象資産の引渡し(占有の確保)、③対象資産の処分・換価、というプロセスを経る「私的実行」によって、優先弁済権の実現が図られる。
譲渡担保権者は、譲渡担保権設定者に対する「実行通知」によって、対象資産に対する利用(処分)、管理権限が消滅したことを通知するとともに、対象資産を引き渡すよう求める。譲渡担保権設定者が譲渡担保権者の求めに応じて、任意に対象資産を引き渡せばなんら問題ないが、譲渡担保権設定者が任意の引渡しに応じない場合には、譲渡担保権者としては法的手続によって引渡しを実現しなければならない。
なお、私人が法的手続によらず自己の権利を実現することは禁じられており(自力救済の禁止)、これに反した行動をとった場合には、刑事責任、民事責任(不法行為)を問われることとなるので注意を要する。もっとも、事態が急迫した場面において、法的手続による救済を待つ時間的余裕がなく、かつ、事後的な被害の回復が困難な場合には、例外的に違法性が阻却されることとした判例がある(最判昭53.6.23判時897号59頁)。
法的手続による対象資産の引渡しの実現は、①民保法に基づく保全処分(占有移転禁止仮処分、処分禁止仮処分、引渡断行仮処分など)、②本訴(引渡請求訴訟)、③強制執行(引渡請求訴訟の判決に基づく動産執行)という一般的な民事手続によって行われる。なお、こうした一般的な民事手続のほかに、端的に動産譲渡担保権に基づいて「民事執行手続きによる動産競売」の利用の可否が議論されているが、否定的な見解が多数である。
集合動産譲渡担保の場合には、譲渡担保権設定者あるいは第三者によって対象資産が隠匿、処分される危険性が高いため、譲渡担保権設定者が任意の引渡しに応じない場合には、速やかに民保法に基づく保全処分を講じるか否かを判断する必要がある。この場合における代表的な保全処分の類型は以下のとおりである。なお、対象資産が時間の経過によって著しくその価値が減少するおそれがあるときは、保全処分の段階で、執行官による緊急換価がなされ(民保法52条1項・49条3項)、以後の本訴および強制執行によって譲渡担保権者は対象資産と同一性が保持される「売得金」によって満足を受けることとなる。
(1) 占有移転禁止仮処分 債務者(対象資産の直接占有者)に対して占有移転禁止、執行官への引渡しを命じるとともに、執行官に対して対象資産の保管が命じられる(「執行官保管」としたうえで、債務者に対象資産の使用を許す場合や債権者に対象資産の使用を許す場合もある)。
(2) 処分禁止仮処分 債務者に対して対象資産の譲渡、担保権設定などのいっさいの処分を禁止するものであり、占有移転禁止仮処分と併用されることも多い。
(3) 引渡断行仮処分 債務者の対象資産に対する占有を解かせたうえで、債権者に直接、対象資産を引き渡すことを命じるものであり、暫定的に本案訴訟での勝訴判決を執行したのと同様の状態になる。ただし、後日、本案訴訟において債権者が敗訴した場合には不当利得、損害賠償を負担することになる。