業法とは何か。金融機関に適用される業法にはどのようなものがあるか。また、業法と民事法とはどう違うのか
業法の代表的なものには銀行法、金商法・保険業法等がある。業法が業界に属する事業者が守るべき法律であるのに対し、民事法は私人間の契約関係などを規律する法律である。業者が業法に違反すると、監督官庁が業者に対して種々の行政処分を課することなどができるが、業法に違反しても、業法に基づき顧客に損害賠償責任を負うことは原則としてない。
業法が業界に属する事業者が守るべき法律であるのに対し、民事法は私人間の契約関係などを規律する法律である。金融機関が金融商品を取り扱うに際して遵守が求められる業法の代表的なものは銀行法、金商法、保険業法等である。
金融機関やその職員が業法に違反すると、監督官庁が業者に対して種々の行政処分を課することができる。たとえば、業者に対してその業務の停止を命じ、最終的には業者としての登録や免許まで取り消す権限もある。さらには、法令に違反した業者や職員に対して、刑事罰が科されることもある。
一方、業法は民事に関する法律ではないため、原則として、業法違反が直接民事上の損害賠償責任に結びつくわけではない。
銀行がその業務を行うには銀行法に違反しないようにしなければならず、原則として、銀行法の定める各種行為規制を守る必要がある。銀行の行うことのできる業務には、①預金、貸付、為替取引の固有業務(銀行法10条1項)、②債務の保証、有価証券等の保護預り、両替などの付随業務(同条2項)、③投資助言業務、(一部の)有価証券関連業務などの他業業務(同法11条)があるほか、保険業法により、保険募集人等の登録を受けて保険募集を行うことができる(保険業法275条2項)。
銀行の行う業務に対しては銀行法が適用になるが、銀行の行う有価証券関連業務などの登録金融機関業務に関しては、金商法の行為規制が直接適用になるし、銀行が保険募集人等の登録を受けて保険募集を行う際には、保険業法の行為規制が直接適用になる。
では、銀行法と金商法や保険業法の関係はどうなっているのか。まず、銀行法であるが、たとえば、同法13条の3の定める「銀行の業務に係る禁止行為」は「銀行は、その業務に関し、次に掲げる行為をしてはならない」としていることから、銀行がその業務として登録金融機関業務等を行う際にも同条が適用されることになる。さらに、登録金融機関業務は金商法に基づき行うものであることから、同法の行為規制も直接適用になる。銀行が保険募集人等の登録を受けて保険募集を行う際も、同様に保険業法の行為規制が直接適用になる。
次に、金商法の一部の規定が準用される特定預金等契約(銀行法13条の4)や特定保険契約(保険業法300条の2)はどうか。結論としては、特定預金等契約や特定保険契約には金商法が適用されるのではなく、あくまでも銀行法や保険業法によって金商法の一部の規定が準用されるだけであることから、銀行法や保険業法が適用されるにすぎない。一例をあげると、特定預金等契約に関しては金商法の広告等規制(金商法37条)が準用される(銀行法13条の4)が、特定預金等契約に関する広告等の定義や同規制の詳細は、銀行法令の規定をみなければならない。すなわち、広告等の定義は、金商業等府令72条ではなく、銀行法施行規則14条の11の17に規定されているし、広告等の表示方法も金商業等府令73条ではなく、銀行法施行規則14条の11の18に規定がある。
業法が業界に属する事業者が守るべき法律であるのに対し、民事法は私人間の契約関係などを規律する法律である。業者が業法に違反すると、監督官庁が業者に対して種々の行政処分を課することなどができるが、業法に違反しても業法に基づき顧客に損害賠償責任を負うことは原則としてない。一方、金商法とその名称が似ているが、金販法は民事法であることから、金販法に違反すると業者は顧客に対して損害賠償責任を負うことになる。ただし、金販法は業法ではないため、同法に基づき行政処分や刑事罰を科されることはない。また、業法違反があったからといって、直ちに業法違反の行為が民事上も無効になるわけでもない。
一般論は上記のとおりであるが、各業法にはそれぞれ販売や勧誘における禁止事項が規定されており、業者に業法上の行為規制に違反する行為があれば、それは民事上も違法な行為が行われたと認定され、違反行為を行った業者や個人に対して民事上の責任が追及されやすくなる可能性がある。