IV巻 担保 編
40696  動産譲渡担保の法律構成

動産譲渡担保とはどのような法律構成に基づいているのか

結論

動産の譲渡担保は、債権(貸付金)担保の目的で、担保目的物である動産の所有権を設定者(債務者、あるいは第三者担保提供者)から債権者に移転し、債務の履行がなされた時点でその所有権を戻す形式の担保である。


解説

動産の譲渡担保は、法的には動産の所有権を移転するという形式となるため、第三者対抗要件は「引渡し」となる。しかし実際には、債権者(貸手・金融機関)が動産を現実に占有してしまうと、担保設定者(借手・企業等)はこの動産を利用することができなくなる(商品として販売したり、機械・設備を使用できなくなる)ので、現実の引渡しをせずに第三者対抗要件を具備するため、「占有改定」の方法による引渡しを行うこと(注1)が必要となる。

(注1) 占有改定:たとえば、機械の所有者AがこれをBに譲渡するとともに、引き続きBから賃借するといった場合、機械を現実にA→B→Aと授受することは面倒である。そこでこのような場合に、現実の引渡しをいっさい省略し、単に意思表示(以後AはBのために占有すべき旨の意思表示)だけで引渡しがあったものとする略式の引渡し方法が認められている。これが占有改定であり、民法はこれを「代理人が自己の占有物を爾後本人の為に占有すべき意思を表示したときは本人はこれによって占有権を取得する」と定める(民法183条)。ここで「代理人」とは上記のAを、「本人」とはBを指す。占有改定も動産物権変動の対抗要件(同法178条)となるが、この方法で即時取得(同法192条)(注2)が成立するかについては見解が対立する(判例は否定している)。
(注2) 即時取得:上記の場合、機械を処分する権限のないAと、Aに処分権限のないことを過失なく知らず(善意・無過失)に第三者Cが有効な取引行為を行い(平穏・公然)、占有を取得したときは、Cは、あたかもAに処分権限があった場合と同じ権利を取得するものとする制度(同法192条)。


しかし、占有改定という方法の場合、第三者の立場からみると、実際には所有権を失った占有者を所有者であると勘違いして取引(たとえば購入)を行うおそれがある。このため動産譲渡担保は、他の債権者との間で権利をめぐる争いを生じさせるリスクを伴うものである。

こうした問題に対応して、平成17年10月に施行された動産・債権譲渡特例法により動産譲渡登記制度が創設された。これにより、たとえば借入企業のもとに在庫が引き続き占有されていても、登記によって所有権移転が公示される(すなわち、譲渡担保権の設定などなんらかの権利が発生していることがわかる)こととなり、紛争のリスクが減少するという効果が期待される。