IV巻 担保 編
40724  譲渡担保権設定者の更生手続開始

譲渡担保権設定者について更生手続が開始された場合、譲渡担保権はどのように処遇されるか

結論

更生手続においては、担保権は手続外での個別的権利行使(実行)が禁止され、原則として更生担保権として届け出たうえで、更生計画に従った弁済がなされる。ただし、更生計画認可決定までの間に、担保権の目的となっている更生会社の財産を処分しようとするときは、裁判所の許可を受けて、管財人と更生担保権者との間で、「担保変換に関する合意」を締結して処理されることがしばしば行われる。


解説
◆会社更生手続における譲渡担保権の処遇

会社更生手続においては、破産手続や民事再生手続と異なり、担保権も手続内に取り込まれる。すなわち、更生手続開始当時、更生会社の財産につき存する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権および商法または会社法の規定による留置権)の被担保債権であって、更生手続開始前の原因に基づいて生じたもののうち、当該担保権の目的である財産の価額が更生手続開始の時における時価であるとした場合における当該担保権によって担保された範囲のものは「更生担保権」とされ(会更法2条10項)、手続外での個別的権利行使ができず、更生債権と同様に原則として更生計画によらなければ弁済を受けることができない。更生手続においては、担保権そのものを「更生担保権」としているのではなく、被担保債権のうち、「更生会社の財産の価額(時価)によって担保されている範囲の債権(被担保債権)」が「更生担保権」とされていることに留意しなければならない。なお、被担保債権のうち、更生会社の財産の価額によって担保されていない部分については更生債権として扱われる。

更生手続において譲渡担保権(正確には譲渡担保権によって担保される被担保債権)がいかなる処遇を受けるかは明文の規定はないものの、更生担保権として処遇されるとするのが判例(最判昭41.4.28民集20巻4号900頁)、通説である(更生手続開始決定前に「私的実行」が終了している場合にはすでに「更生担保権」としての処遇ではなく、帰属清算の場合には所有権として処遇され、譲渡担保権者(正確には所有者)には取戻権(同法64条)が認められる)。

◆譲渡担保権者の手続参加

譲渡担保権者は更生担保権者として、債権届出期間内に、①更生担保権の内容および原因、②担保権の目的である財産およびその価額、③更生担保権についての議決権の額等を記載した債権届出(更生担保権届出)を行い、債権調査等の手続を経て、更生担保権(もしくは更生債権)として更生計画に基づく弁済を受けることとなる。更生担保権の届出においては、更生担保権者は自ら担保目的財産の価額(更生手続開始決定時における「時価」)を評価する必要がある。仮に、管財人が認識している財産価額が、更生担保権者の届出価額よりも高かったとしても、管財人としては届出価額以上の価額を認めることはできないので、更生担保権者としては担保目的財産の価額をどの程度に評価して届け出るかは注意が必要である。なお、更生担保権者が、債権届出期間内の届出を怠ったときは(会更法138条2項参照)、更生手続に参加することができず、また、担保権は更生計画の認可決定により消滅する(同法204条1項)ので、注意を要する。

◆実務的処理

更生手続においては、担保権は手続外での個別的権利行使(実行)が禁止されるが、他方において、更生計画が認可されるまでは更生会社の財産を目的とする担保権は消滅しない(会更法204条1項)ので、担保権の目的となっている財産についての更生会社(管財人)の処分権限は制限される。そのため、更生計画認可決定までの間に、担保権の目的となっている更生会社の財産を処分しようとするときは、裁判所の許可を受けて、管財人と更生担保権者との間で、「担保変換に関する合意」を締結して処理されることがしばしば行われる(同法72条2項9号)。

「担保変換に関する合意」は、更生管財人から更生担保権者に対して、担保権の目的となっている財産の評価額(更生手続開始決定時の「時価」)に相当する他の資産が担保権の目的として提供され(一般的には預金に対する質権設定という形態が多いと思われる)、更生担保権者は当初の担保権の目的となっている財産に対する担保権を解除することを内容とする。これは、更生管財人と更生担保権者との間で締結される一種の和解であるから、両者の間に担保権の目的となっている財産の評価額について見解の相違があり、双方がこれについて合意できない場合には、更生手続における財産評定、債権調査、目的物の価額決定などの手続を経て、更生担保権の確定を待つほかない。なお、担保変換がなされた場合であっても、更生担保権者は新たに担保権の目的とされた財産に対して直ちに権利行使をしたり、弁済を受けることはできず、更生計画認可決定後に同計画に従った弁済を受けることとなる。

◆残された課題

譲渡担保権の対象資産が集合動産あるいは集合債権である場合には、見解が分かれている理論的、実務的課題が残されているので、注意を要する。

すなわち、会社更生手続開始の申立がなされた後、あるいは手続開始決定がなされた後に集合体に組み込まれる個別資産に譲渡担保権の効力が及ぶのかという問題(「固定化」の概念を肯定するか否か、これを肯定するとしても会社更生手続開始の申立(あるいは開始決定)を「当然固定化事由」と解するか否か)、更生担保権の評価基準はどのように考えるべきかといった問題などである。これらの課題については、いまだ見解の一致をみておらず、今後の学説、判例の動向に留意する必要がある。