職員からのコンプライアンスに関する相談窓口(ヘルプライン)等の設置にあたって留意すべき点は何か
コンプライアンス統轄部署は、金融機関内の他の部署(人事部等)や外部の機関(弁護士等)などと協同・協力し、現場サイドからの通報、相談、質問のいっさいを引き受け気軽に相談できる窓口とするよう、わかりやすい制度を構築する必要がある。社内通報制度については、秘密性を保持し、通報者が不利益を被らないよう配慮することが不可欠である。
コンプライアンスとひとくくりにされていることであっても、法令等の遵守はさまざまな局面で問題となりうるものである。しかし、あらかじめ策定されたマニュアル等だけでは実際の局面で法令等遵守が果たされているのか判断がつかないことは多く、そのまま放置したことにより問題が拡大したというケースも少なくない。特にコンプライアンス意識が高まるにつれ、法的観点からの相談に関する受け皿のニーズが増大する関係にあるため、職員が現場において法令等の解釈・対応等に迷った場合に、自由で気軽に相談・質問できる窓口を設けておくことは、コンプライアンス確保上大きな意義を有する。
相談の受け皿としては、法令等遵守に携わっているコンプライアンス統括部署や、弁護士などの協力を得ることが望ましいといえる。また、気軽に相談できるという意味では、法令違反・ハラスメント等の窓口を一本化することにより、いかなる相談でも受け付ける体制も考えられよう。
社内通報制度とは、職員が、社内での法令等違反の事実を直接経営陣に対して報告する制度である。法令等違反の早期是正および抑止の点、さらに金融機関内における自浄作用という観点からも有用といえる。
この制度の運用にあたっては、通報者が不利益を被ることのないよう次の2点に留意すべきである。
① 金融機関が通報事実について調査する以上は、原則関係者以外に知られないよう、通報事実の秘密は保持されなければならない。
② 社内通報制度を導入した金融機関は、不正の目的をもってなされたもの以外は当該通報によって、通報者がいかなる不利益も受けないことを保障しなければならない。
平成16年に制定された公益通報者保護法により、国民の生命、身体、財産などの保護にかかわる法令違反が生じ、または、まさに生じようとしている場合で一定の要件を満たす場合にその事実を労働者が労務提供先や行政機関等に通報したとき、その通報を行ったことを理由として事業者が行った解雇は無効となり、降格等の不利益取扱いは禁止される。また、通報者が派遣労働者であった場合には、派遣先が派遣元に対して、保護される通報をしたことを理由として当該派遣労働者の交代や不利益な扱いを求めることが禁止されている。金融機関も当然「事業者」に含まれるから、同法に違反するような解雇・不利益取扱い等は民事上無効となる。
したがって、社内通報制度を採用する場合においては、通報者本人が不利益を被らない制度づくりが重要であり、通報者保護のための秘密保持と不利益な取扱い禁止の明示が必要となる。