IV巻 担保 編
40725  譲渡担保権設定者の民事再生手続開始

譲渡担保権設定者について民事再生手続が開始された場合、譲渡担保権はどのように処遇されるか

結論

譲渡担保権設定者について民事再生手続が開始された場合は、譲渡担保権は別除権として処遇され、譲渡担保権者は私的実行を行うことにより優先的に債権回収を図ることができる。また、再生債務者との協議により、目的物の評価額、それについての弁済時期・方法、目的物の評価額を超える部分の担保権の放棄、あるいは別除権の不行使などを内容とする「別除権協定」を締結することも多い。


解説
◆民事再生手続における譲渡担保権の処遇

民事再生手続においては、再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、共益債権または一般優先債権に該当しないものは「再生債権」とされ(民再法84条1項)、再生計画に従った弁済を受けるにとどまる(再生手続による満足)。他方で、「再生手続開始の時において再生債務者の財産につき存する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。第3項において同じ。)を有する者」はその目的財産について「別除権」を有するものとされ(民再法53条1項)、「別除権は、再生手続によらないで、行使することができる」(同法53条2項)とされている。

再生手続において譲渡担保権がいかなる処遇を受けるかは明文の規定はないものの、担保権(「別除権」)として処遇されるとするのが通説である(再生手続開始決定前に「私的実行」が終了している場合にはすでに担保権としての処遇ではなく、帰属清算の場合には所有権として処遇され、譲渡担保権者(正確には所有者)には取戻権(同法52条)が認められる)。

◆譲渡担保権者の権利行使

譲渡担保権設定者について民事再生手続が開始されたとしても、保全処分や担保権実行中止命令、担保権消滅請求などによって制限される場合があるが、譲渡担保権者は再生手続外で自由に担保権を実行して債権回収を図ることが認められる。

したがって、譲渡担保権者は、別除権の行使によって優先的な債権回収を図るとともに、別除権行使によっても回収できない額(別除権予定不足額)を見積もったうえで債権届出を行い、債権調査等の手続を経て、別除権不足額について再生計画に基づく弁済を受けることとなる。なお、再生手続においては、再生計画において「別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分が確定していない再生債権を有する者があるときは」「その債権の部分が確定した場合における再生債権者としての権利の行使に関する適確な措置を定めなければならない」とされており(民再法160条1項)、別除権不足額が配当の除斥期間内に確定しなければ配当に参加できない破産手続とは異なる。

譲渡担保権の実行は「私的実行」の方法によりなされるから、譲渡担保権者が別除権を行使しようとするときは、再生債務者を相手として「実行通知」を行い、清算金が生ずる場合には再生債務者に対して支払うこととなる。

◆実務的処理

譲渡担保権の目的とされた財産が事業の再生に不可欠のものである場合には、別除権行使がなされると事業の再生は困難となり、他方、別除権者としても別除権不足額が確定しないと再生計画による弁済を受けることができないこととなる。

そのため、実務的には、再生債務者と別除権者との間で、目的物の評価額、それについての弁済時期・方法、目的物の評価額を超える部分の担保権の放棄、あるいは別除権の不行使などを内容とする「別除権協定」の締結によって処理されることが多い。なお、再生債務者は、別除権者の同意を得られない場合であっても、別除権の目的財産を担保権の負担付きで任意売却することができる(民再法53条3項参照)。

◆残された課題

譲渡担保権の対象資産が集合動産あるいは集合債権である場合には、見解が分かれている理論的、実務的課題が残されているので、注意を要する。

すなわち、民事再生手続開始の申立がなされた後、あるいは手続開始決定がなされた後に集合体に組み込まれる個別資産に譲渡担保権の効力が及ぶのかという問題(「固定化」の概念を肯定するか否か、これを肯定するとしても民事再生手続開始の申立(あるいは開始決定)を「当然固定化事由」と解するか否か)、担保権実行中止命令は譲渡担保権に対しても発令しうるのか(類推適用の可否)という問題などである。これらの課題については、いまだ見解の一致をみておらず、今後の学説、判例の動向に留意する必要がある。

なお、担保権実行中止命令については、集合債権譲渡担保の場合について、「債権譲渡の対抗要件に関する法律(改正前)第2条2項所定の通知をする等の権利行使をしてはならない」という内容の中止命令が発せられた事例がある(最決平19.9.27金商1277号19頁)。