IV巻 担保 編
40706  担保商品が他に売却されたとき

担保商品が他に売却されたときはどうすればよいか

結論

商品が買主のもとに移り、いわゆる即時取得が成立している場合には、商品を取り戻すことはできないが、債務者に対しては損害賠償の請求をすることができる。万一、商品がまだ債務者のもとにあるときには、引渡請求をすることができる。また、代金未済の場合、ケースによっては、代金債権につき物上代位権に基づく差押えをすべきである。


解説

商品担保の場合、販売その他の理由により、債務者の手元にとめておかれている例が多く、担保形式として、占有改定により譲渡担保権が設定されていることが多い。したがって、担保商品は外見上依然債務者の占有のもとにあり、かつ外見からわかる状態になっていないため、背信的な債務者によりさらに第三者に転売されるケースも少なくない。

◆即時取得の成立

即時取得の成立する場合とは「善意、無過失で、平穏かつ公然に占有した場合」を指すが、最判昭32.12.27(民集11巻14号2485頁)によれば、占有の取得は現実の引渡しによることを要し、占有改定の場合は含まないとされているので、もし買主が商品の占有(債務者)を真正な権利者と信ずることに悪意または過失がなく、現実に商品の引渡しを受けていれば、即時取得が成立することとなり、債権者はもはや商品の取戻しを請求することはできない。

また、債務者が意識的に商品を第三者に売却した場合は、不法行為による損害賠償請求権が発生する。

なお、譲渡担保権者が担保権の実行を法的に容易にできるのにそれを怠った場合、損害拡大を防止する義務に違反するとして、不法行為による損害賠償額の減額を認めた判例がある(東京地判平6.3.28判時1503号95頁)。譲渡担保権者は、譲渡担保権の実行時期について留意する必要があるとともに、目的物の状況につき注意を怠り、漫然と債務者の転売行為を見過ごしていた場合等には、債務不履行による損害賠償額にも影響があるおそれがあるので、十分注意しなければならない。

また、法人の動産の譲渡については、占有改定による対抗要件に加え動産・債権譲渡特例法により、登記による対抗要件の取得(同法3条)が可能となっているが、動産の取得者が当該登記の確認をしないことが直ちに即時取得(民法192条)の要件の一つである取得者の無過失を否定することになるかどうかは、今後の判例等の個別具体的な判断に委ねられる。

なお、倉庫内の在庫商品に譲渡担保を設定するような集合動産譲渡担保の場合、通常の営業の範囲で行われる処分は設定者に処分権限が付与されていることが多いため、即時取得の成否を論ずるまでもなく、後から在庫商品を取得する者は在庫商品の所有権を承継取得することになる。

◆引渡し未了の場合の措置

売買の際、目的物の引渡しが未了の場合もありうる。もし万一、買主が引渡しの未了または占有改定の方法をとったため、まだ商品が債務者のもとにとどまっているときは、即時取得は成立していないから、直ちに商品の引渡しを求めなければならない。もし債務者が引渡しに応じないときは、本訴により引渡請求をなすとともに、占有移転禁止の仮処分等をしておく必要がある。

◆防止方法

なお、即時取得は悪意または有過失の取得者には成立しないから、対象物件にシールを貼り付けるなど、商品に担保権の存在を公示した明認方法を施すことにより、即時取得を防ぐことが期待できる。公示の可能な担保商品には試みるべきであろう。

また、上記「即時取得の成立」のとおり、法人の動産の譲渡については登記による対抗要件の取得が可能となっており、紛争時の主張手段としては有力なものといえるが、当該登記の確認の有無が即時取得を否定する要件となるかどうかは判例等の判断に委ねられる(【40711】参照)ため、明認方法とあわせて行うことが妥当と解される。

◆代金未済の場合の措置

譲渡担保権に基づく物上代位については、近時の最高裁判例により、一般的に認められるにいたっている(最決平22.12.2民集64巻8号1990頁)(物上代位の詳細については【40707】を参照)。したがって、目的物の代金支払が未了の場合には、物上代位権に基づき、売買代金債権に対して差押えを行うことを検討すべきである。