IV巻 担保 編
40720  債務者による譲渡担保目的物の取戻期限

譲渡担保において、債務者が債務の弁済をして担保目的物を取り戻しうる時期はいつまでか

結論

帰属清算型の場合は、債権者が清算金の支払もしくは提供をし、または清算金がない旨の通知をするまで、処分清算型の場合は、その処分がなされるまでは、債務者は債務を弁済して担保目的物を取り戻すことができる。

ただし、帰属清算型において、清算未了のうちに担保目的物が第三者に処分されたときは、取戻しができない可能性が大きい。

また、譲渡担保権設定者が自ら受戻権(取戻権)を放棄し、譲渡担保権の実行を完了させ、清算金の支払を請求することはできない。


解説

被担保債権について弁済期が経過すると、譲渡担保権者は譲渡担保を実行しうることになる。譲渡担保の実行は、目的物の引渡しと清算によって完了する。弁済期を経過したにしても、もともと担保を目的としていた債権者としては、元利金の弁済を受ければ、担保目的物の受戻しに異論はないはずである。とすれば、債務者はいつまでに元利金を弁済すれば担保目的物を受戻しできるのだろうか。

◆受戻しできる期限

譲渡担保権者が優先弁済を受ける方法として、①帰属清算型─担保権者が担保目的物を適正に評価された価額で確定的に自己に帰属させ、その評価額のなかから自己の債権の優先弁済を受け、残額を清算金として債務者に返還する方法と、②処分清算型─担保権者がまず担保目的物を換価処分し、その売却代金から自己の債権の優先弁済を受け、残額を清算金として債務者に返還する方法の二つがあり、判例(最判昭46.3.25民集25巻2号208頁)も両型の存在を認めている。

債務者が受戻しできる期限について、判例は、被担保債務の弁済期の経過後であっても、①帰属清算型にあっては、目的不動産(担保目的物が不動産の事案であった)の適正評価額が債務の額を上回る場合は、債権者が清算金の支払もしくは提供をするまでの間、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合は、その旨の通知をするまでの間、②処分清算型にあっては、その処分がなされるまでの間と判示している(最判昭62.2.12民集41巻1号67頁)。

◆担保目的物が第三者に処分された場合

帰属清算型では、清算未了のうちに担保目的物が第三者に処分されたときに受戻しができるかどうか問題となる。上記判例(前掲最判昭62.2.12)は、第三者の善意・悪意、登記の有無について触れることなく、債権者が目的不動産を売却等したときは、債務者は受戻権を失う、すなわち、受戻しができなくなるとしている。

その後、判例は、被担保債権が弁済により消滅した後に譲渡担保権者が目的不動産を第三者に譲渡し、所有権移転登記を経由したケースでは、民法177条の対抗関係となり第三者が背信的悪意者の場合は、債務者は受戻しができるとした(最判昭62.11.12金法1181号37頁)が、被担保債権の弁済期経過後に譲渡担保権者が目的不動産の清算金を支払わないまま第三者に所有権を譲渡し、移転登記を経由したケースでは、受戻権自体が消滅しており第三者がたとえ背信的悪意者であっても、債務者は受戻しをすることができなくなる(最判平6.2.22民集48巻2号414頁)と判示するに至っている。

ただし、譲渡担保権設定者は、譲受人に対して清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張しうる(最判平9.4.11裁判所時報1193号175頁、最判平11.2.26金法1547号43頁)。

また、譲渡担保権の実行に伴う清算金支払請求権と目的物の引渡・明渡請求権は同時履行の関係に立つと判示されている(最判平15.3.27金法1702号72頁)。

◆受戻権の放棄と清算金支払請求の可否

このように譲渡担保権の設定者は、一定の時期までに被担保債権を弁済して所有権を取り戻すことができる権利を有するが、これを一般に受戻権(ないしは取戻権)と呼んでいる(最判昭57.1.22民集36巻1号92頁)。

また、譲渡担保権者が被担保債権の弁済期経過後も担保権を実行しない場合に、譲渡担保権設定者が自ら担保目的物の受戻権を放棄することにより譲渡担保権の実行を完了させ、清算金の支払を請求できるかについては、最高裁は、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権と受戻権は別個の権利であることを明らかにし、そのうえで、譲渡担保権設定者が受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を取得することはできないと判示した(最判平8.11.22民集50巻10号2702頁)。しかし、実務上は、譲渡担保権設定者の立場も配慮し、譲渡担保権の実行を故意に引き延ばしたりしないように留意すべきである。