IV巻 担保 編
40703  借手企業の個別動産を担保取得する方法

借手企業の個別動産を担保取得する方法にはどのような方法があるか。また、どのような点に留意すべきか

結論

個別動産の担保取得に際しては、担保となる目的物を特定し、動産譲渡担保設定契約を締結したうえで、占有改定の方法により目的物の引渡しを行うか、あるいは動産譲渡登記を行うことによって、第三者対抗要件を具備する必要がある。

なお、動産譲渡登記を利用せずに占有改定による引渡しを行う場合は、担保権の設定時期を明確にするため、担保設定契約書に確定日付を得ておく。


解説

動産を担保にとる方法として質権と譲渡担保とがあるが、質権では設定者が担保目的物の占有・利用を継続しながら事業活動を行うことが困難となるため、通常は譲渡担保が用いられることが多い。

動産譲渡担保とは、債権を担保する目的で目的物である動産を債権者に譲渡し、被担保債権の弁済がなされれば債権者は当該目的物を返還するが、被担保債権について債務不履行などが発生した場合、債権者は当該目的物から優先弁済を受けることができる担保である。動産譲渡担保は、動産の所有権を移転するという形式をとるため、第三者対抗要件は引渡しとなる。

ただし、引渡しにおいて債権者が担保目的物を現実に占有してしまうと、質権による場合と同様、設定者が当該目的物を継続利用できなくなるため、実際には占有改定による引渡しが多用される。一方、占有改定は外形的な公示機能に乏しく、同一の動産について複数の債権者が譲渡担保を設定するおそれがあることから、対抗要件として民法上の引渡しと同等の効力を持つ動産譲渡登記制度が創設された。

上述のとおり、動産譲渡担保は契約締結後も設定者が担保目的物を継続利用でき、また債権者に所有権が帰属するため権利確認も容易であることから、機械設備等の個別動産を担保とする場合に多用される。

個別動産譲渡担保は、当該個別動産を特定したうえで、譲渡担保権者と設定者との間で動産譲渡担保設定契約を締結することにより成立する。目的物が個別動産であることにより、その特定方法、対抗要件具備方法には以下のような特徴がある。

(1) 目的物の特定 たとえば機械設備等の場合は、工場抵当法3条の目録に準じて、その機械設備の種類、構造、名称、規格、製造者、製造年月日、数量、機械番号等を所在場所ごとに記載する。工場内に設置された機械設備のいっさいを譲渡担保の目的とする場合も、単に「工場内の機械設備一切」とするだけでは個別動産を目的とする譲渡担保における特定の仕方として不明瞭であり、工場抵当法3条の目録に準じて詳細に記載する必要がある。

また、所在場所については、工場や倉庫の住所と名称により特定するのが通常である。なお、動産の所在場所が敷地や建物の一部分である場合は、住所や名称に加えて、敷地内の西区画とか工場の2階部分とかとする等、より具体的な記載を行うこともある。

(2) 第三者対抗要件の具備 動産譲渡担保は、動産の所有権を移転する形式の担保であり、引渡しが第三者対抗要件となる。個別動産譲渡担保の場合は、設定者が担保目的物の占有・利用を継続できるよう、通常は占有改定の方法による引渡しとなる。また、動産譲渡登記制度の創設により、法人が動産を譲渡する場合は、動産譲渡登記によっても第三者対抗要件を具備することができるようになった。

しかし、引渡しが占有改定の方法によってなされる場合は公示が不十分であるため、第三者が目的物を設定者の所有物と誤信して、差押えや即時取得を行うおそれがある。このため、債権者としては目的物に対し、当該物件が譲渡担保権者の所有物権である旨を記したシールやネームプレートを貼付したり、直接打刻したり、公示札を立てたりするなどして、明認方法を施すことが重要となる。

また、動産譲渡登記を利用せずに占有改定による引渡しを行う場合は、担保権の設定時期を明確にするため、譲渡担保設定契約書に確定日付を得ることが重要である。