I巻 コンプライアンス・取引の相手方・預金・金融商品 編
10004  コンプライアンス・プログラム

コンプライアンス・プログラムとは何か。作成にあたって留意すべき点は何か

結論

コンプライアンス・プログラムとは、広義では、法令等遵守を確保するために会社が構築する仕組み全体を指す。主な内容は「遵守のための組織・社内規則の作成」「教育・啓蒙プログラム」「問題発生時の対応マニュアル作成」などであり、全体として機能する必要がある。

狭義では、「コンプライアンスを実現させるための具体的な実践計画」を指す(金融検査マニュアル法令等遵守態勢の確認検査用チェックリスト参照)。この場合、実践計画としての具体性が必要であり、個々の施策の実行期限を明確にし、進捗状況の管理を行うとともに、必要に応じて計画の見直しを実施することが重要である。


解説
◆コンプライアンス・プログラム作成の趣旨

コンプライアンスは銀行等の会社の法令等遵守を意味するものであるが、銀行等の組織体としての行為によるか否かを問わず、法令等遵守がなされるか否かは最終的に役職員が法令等を遵守するか否かにかかってくる。

そこで役職員個々人が守るべき行動規範を策定して、これを明らかにすることによって、役職員が何に注意し、何を守れば法令違反とならなくてすむかをはっきりさせることが金融機関としてまず行うべきことである。

ただし、単に行動規範を定めたからといって、金融機関が役職員にそれに従わせる手段を構築しなければ行動規範は実践されないので、内部統制を実施する必要がある。

また、行動規範を定めたとしても、具体的な日常業務においてコンプライアンス上問題があるのか否か、どのように対処すべきか従業員が判断できない場合に対処する手段も必要となる。

さらに、いかなる行動規範も必ず守られる保障はないから、行動規範に反した行為がなされた場合をあらかじめ想定しておき、対処方法を規定し、損害の拡大を防止する必要がある。

これら、コンプライアンス確保のための方策を統合的に作成することが、コンプライアンス・プログラムを作成する趣旨である。

◆コンプライアンス・プログラムの内容

広義のコンプライアンス・プログラムは、以下の内容から成り立つとされている。

(1) 組織・体制 金融機関全体のコンプライアンスに関する情報を一元的に収集するための組織を設置、当該組織にコンプライアンスを実践するための必要な権限を付与して管理する体制が必要である。

(2) 行動規範 指針や規程・通達などさまざまな形式のものがあるが、そのなかでもコンプライアンス確保のために、具体的でわかりやすい基準を示すものとして、コンプライアンス・マニュアルを作成することが多い。

(3) 内部統制システム 金融機関内部において役職員に行動規範を守らせ、あらかじめ法令等違反を防止するよう、法令違反を困難にさせる物理的・心理的強制を働かせる体制を整備する必要がある。たとえば、部署ごとにコンプライアンス担当者を配置し、当該担当者が管理・監督するという体制などである。

(4) 相談・報告システム 法令等違反行為が金融機関内部の一部の担当者・部門のみでとどまり、法令等遵守のため必要な措置がとられないまま事態が深刻化・重大化することのないよう、金融機関の末端の、不都合な情報を吸い上げる制度を整備し、法令等を遵守しまたは法令等違反を拡大させない対策をとる機会を確保する必要がある。前述のコンプライアンス担当者から定期的もしくは随時にコンプライアンスに関する情報を一元的に管理する組織に報告させるという方法が有効である。また、経営陣に対するヘルプライン等の内部通報制度の整備も必要である。

(5) コンプライアンス教育 コンプライアンスの確保は、最終的に役職員の規範意識によるところが大きく、特にコンプライアンス担当者および経営陣のコンプライアンス意識の醸成が必要不可欠である。かかる意識の涵養のため、コンプライアンス教育を継続的に実施することが重要である。

(6) 緊急時における行動プログラムの策定 突如法令等違反行為が発生しまたは発覚した場合に、事態をより悪化させないよう金融機関としてとるべき方策をあらかじめプログラム化する必要がある。

◆コンプライアンスを実現させるための具体的な実践計画

コンプライアンスを確保するための仕組みのなかで、特に「具体的な実践計画」を指して「(狭義の)コンプライアンス・プログラム」ということがある(金融検査マニュアルはこのような語義で使用している)。この場合のプログラムは、少なくとも年次で経営陣が自ら参画・承認して作成された具体的な行動計画である必要があり、その内容は定期的に見直されるとともに、これに基づき改善への取組みの実践が行われていく必要がある。