占有改定もしくは動産譲渡登記による機械・器具の担保取得の場合、第三者に即時取得されるか
金融機関が占有改定もしくは動産譲渡登記により機械・器具を譲渡担保にとっていたとしても、担保権設定者(所有者)が第三者に譲渡する、あるいは担保権を設定することは可能である。その第三者が、平穏かつ公然に引渡し(占有改定による引渡しを除く)を受け、かつ、善意無過失のときは、即時取得(善意取得)することになり、その反射として金融機関は譲渡担保権を失うことになる。
金融機関が、債務者所有の機械・器具を担保にとる場合、質権を設定させて、債務者に代理占有させることはできない(民法345条)ため、譲渡担保の方法で担保にとって、代理占有させることが実務上行われている。
しかし、譲渡担保にとったといっても、機械・器具のような動産については、第三者対抗要件である引渡し(同法178条)は占有改定(同法183条)の方法でなされる。そのため、金融機関が譲渡担保として取得したことは外形上明らかとならない。
そこで、機械・器具にシールを貼るなどの明認方法を施すことにより、これを外形的に明示することが考えられる。もっとも、現実にはこうした明認方法をとっている例は少ないものと思われる。そうすると、第三者は、その機械・器具が「担保の目的物」であるか否かは判別できないこととなる。このことは、シールを貼るなどの明認方法を施したとしても、それが毀滅されてしまったような場合でも同様である。このような状態で、債務者が機械・機器を第三者に売却したり、担保に差し入れたりして、現実に占有も移転したらどうであろうか。
民法192条は、平穏かつ公然に動産の占有を始めた者が、善意・無過失のときは、即時に、その動産の上に行使する権利を取得する旨定めている。善意取得や即時取得と呼ばれているものである。そして、同法188条は、占有者が占有物の上に行使する権利は、これを適法に有するものと推定しているので、占有者から占有を取得した第三者は、占有者が権利者であると信じたことにつき無過失であることが推定される(最判昭41.6.9民集20巻5号1011頁)。したがって、実務上は、第三者が債務者から機械・器具を取引に基づいて現実に取得すれば、金融機関側がその第三者に過失があったことを立証できない限り、その第三者は即時取得することになり、その反射効として、金融機関は譲渡担保権を失うことになるのである。
公示性の乏しい占有改定による対抗要件では他の利害関係人に対する権利関係が不明確であることにかんがみ、動産・債権譲渡特例法により、法人の動産の譲渡については登記による対抗要件の取得(同法3条)が可能となっている。ただし、当該登記の効力は従来の占有改定に優先するものではないため、対抗要件の取得方法としては占有改定と並存していることに留意する必要がある。
また、担保権者としては、動産譲渡登記を担保権に関する紛争における有力な主張材料としていくことが想定されるが、動産の取得者が当該登記の確認をしないことが直ちに即時取得(民法192条)の要件の一つである無過失を否定するかどうかは、譲受人の属性のほか、今後一定の動産が譲渡された場合には登記がされるのが通常であるという取引慣行が形成され、登記の調査義務が認められることになるかどうか等の事情によるものと考えられ、この点は今後の判例等の判断に委ねられるため、動産の譲渡担保につき登記した場合でも、対象物件への明認方法も必要に応じて行っておくべきものと解される。