IV巻 担保 編
40718  譲渡担保の目的物に差押えを受けたとき

譲渡担保の目的である動産が他から差し押えられたときはどうすればよいか

結論

① 一般債権者から差押えを受けた場合に譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起できるかどうかについては、種々争いがある。もっとも、民執法が優先弁済請求の訴えを廃止するとともに、譲渡担保権者の配当要求も認めていないことに照らし、譲渡担保権者は第三者異議の訴えによって自己の権利の保全を図ることができると解される。

② 国税による差押えの場合には、担保権の取得が法定納期限以前であることを、一定の方法で証明することにより、執行を防ぐことができる。


解説

債務者が引き続き占有している動産の譲渡担保の場合、外形的には担保権の設定が判然としないため、第三者から差押えを受けることが少なくない。この場合には、どんな措置をとったらよいであろうか。以下、一般債権者による差押えと、国税の滞納処分による差押えとに分けて考えてみよう。

◆一般債権者による差押えの場合

譲渡担保権者の所有者的地位を強調する見地からは、その所有権に基づいて第三者異議の訴えを提起することができるとするのが、判例(最判昭56.12.17民集35巻9号1328頁)の見解であるとともに、通説の支持するところである。民執法は、強制執行の目的物が債務者以外の第三者の所有に属するような場合には、その所有権者等は第三者異議の訴えを提起することができることを明定している(民執法38条)。なお、動産執行における配当要求制度においては、配当要求のできる権利者を質権者と先取特権者に限定しているので、譲渡担保権者は配当要求することはできない(同法133条)。また、従前の優先弁済請求の訴えが廃止され、これによることもできない。

したがって、譲渡担保権者として、他の債権者の執行に対して譲渡担保権を確保するためには、第一に第三者異議の訴えを提起し、譲渡担保の目的物に対する執行の取消を求めなければならない。

第三者異議の訴えは、第三者の財産や第三者の権利の目的となっている債務者の財産に対し執行が実施される危険から、不当な執行を排除し第三者を救済する手段として考案された制度である。このような第三者保護の方法としては執行異議の申立も存在する。すなわち、執行手続は外形上の事実に基づいて行われるが、債務者による動産の占有などの外形上の事実に反して執行が行われているときには、執行異議の申立をすることにより第三者は救済される。

しかし、外形上の事実に従って手続がとられているときには、第三者は手続上の瑕疵を主張する執行異議の申立によるのみでは自己の権利を守ることはできないから、譲渡担保動産など第三者の所有物に対しなされている差押えのように、強制執行の手続が手続上は違法でなくても実体上の権利との関係では違法である場合には、実体上の権利に基づいて執行手続の取消を求める必要があり、その取消のためには異議の申立によることなく、訴えによって解決すべきものとされている(同法38条1項)。

訴え提起の時期は、強制執行の目的となっている第三者の権利またはその対象物に対する強制執行の手続を取り消そうとするものであるから、換価手続の終了後や目的物の引渡しの後には権利保護の利益を欠くことになり、また訴えの継続中に換価手続が終了したときも同様で、それ以前とすべきである。

この訴えの提起があっても、すでに開始された執行は続行され当然には停止されないし、執行完了後は訴えの目的は達成されないので、執行完了前に執行停止を第三者異議の訴えとともに受訴裁判所に申し立てるべきである。

以上のように、同法のもとにおいては、譲渡担保権者は第三者異議の訴えをもって執行の排除を求めるほかはないとするのは、立法担当者の見解でもある(田中康久『新民事執行法の解説』295頁)が、最高裁も「譲渡担保権者は、特段の事情がないかぎり、譲渡担保権者たる地位に基づいて目的物件に対し譲渡担保権設定者の一般債権者がした強制執行の排除を求めることができる」と同趣旨の判決を下しており(前掲最判昭56.12.17、最判昭58.2.24金法1037号42頁)、判例上も確定したとみることができる。

なお、集合物を構成する個々の動産が差し押えられたときについても、集合物の価値維持を理由に、第三者異議により執行を排除することができるという見解もあるが、(我妻『新訂担保物権法〔第3版〕』667頁)、個々の動産が売却された場合との均衡や、個々の動産の差押えを集合物の固定化事由としておくことにより譲渡担保権者の優先弁済権を確保することは可能であることを理由にこれを否定する見解もあり(道垣内弘人『担保物権法』338頁)、学説は分かれている。

◆国税の滞納処分による差押えの場合

譲渡担保権と国税との優劣関係は、国税の法定納期限と担保権の取得時との前後により決せられる(国税徴収法24条)。したがって、法定納期限前に設定された譲渡担保であれば、その事実を確定日付その他の一定の方法により証明することによって、差押えの解除を求めることができる。これに反し、法定納期限以後に設定された譲渡担保の場合には、担保権者は第2次納税義務に準ずる物的納税責任を負担することとなり、担保目的物は差押えを免れない。ただし、この場合でも、担保権者は担保目的物の差換えを請求することができるとされている(同法49条・50条)。

なお、集合物担保の場合には、法定納期限以後に組み入れられた動産であっても、集合物としての同一性がある限り、当初の譲渡担保設定のための譲渡の時期をもって、その動産が譲渡財産となった時期とされるため、国税に優先する(同法基本通達24条の30)。ただし、差し換えられた財産が当初の譲渡担保の価額を超える場合は、担保の新規設定として扱われるため国税に劣後する。

なお、法人の動産の譲渡について占有改定による対抗要件に加え動産・債権譲渡特例法により、登記による対抗要件の取得が可能(同法3条)となっているため、確定日付等のほか、当該登記によっても譲渡担保権の設定を証明することが可能となる。