集合動産譲渡担保の設定者が目的動産を処分したとき、処分の相手方は所有権を取得するか
集合動産譲渡担保では譲渡担保設定者が通常の営業の範囲内で目的動産を処分する権限を付与されており、この範囲での処分の相手方は確定的に所有権を取得し設定者に対して引渡請求権を有する。通常の営業の範囲を超える処分は、集合物から離脱したと認められる場合でない限り、処分の相手方は所有権を取得することはできない。
集合動産譲渡担保契約では、設定者が通常の営業の範囲内で目的動産を処分できることが規定されているのが一般的である。ただし、集合動産譲渡担保の目的物は、集合物としての同一性を維持しつつ、構成部分は変動されることが予定されていることから、譲渡担保契約に定めがなくとも集合物の性質から設定者の処分権が認められると解されている。近時の判例は、「通常の営業の範囲内で、譲渡担保権の目的を構成する動産を処分する権限を付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる」ことを明確にした(最判平18.7.20民集60巻6号2499頁)。以上については、当該動産が保管場所から搬出されているか否かを問わないものと解されている。
一方、設定者が通常の営業の範囲を超えて動産を処分した場合の当該処分の効力については、動産が保管場所から搬出された場合譲渡担保の追及力は失われるとする見解、処分の相手方が即時取得しない限り譲渡担保の追及力は及ぶとする見解等があり、争いがあった。この点、上記判例は「譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得できない」ことを示唆している。したがって、占有改定により処分したような場合は、集合物から離脱していないことから、相手方は設定者に引渡請求することはできないことになる(集合物から離脱していない場合、担保権の負担付きですら所有権が移転しないと解される)。ただし、目的物が集合物から離脱した場合、処分の相手方は当然に所有権を取得しうるか(即時取得ができるにすぎないか)、先行する譲渡担保権を弱体化するような詐害的搬出まで認められるか等について不明であり、今後の判例の動向を注視する必要がある。
以上からすれば、実務上では「通常の営業の範囲内」とはいかなる意味を有するかが重要となり、あらかじめ譲渡担保契約にて明らかにしておくことが望ましいと思われる。「通常の営業の範囲内」が契約上明らかではない場合は解釈問題となるが、譲渡担保権の優先弁済権を侵害する目的でなされる処分、無償の譲渡等については「通常の営業の範囲内」に当たらないとされており、基本的には担保権者の把握する担保価値が損なわれたか否かにより判断されると解される。