IV巻 担保 編
40700  動産譲渡担保契約書

動産譲渡担保契約における必須条項とは何か

結論

動産譲渡担保契約書として、コベナンツ契約を含めすべてを盛り込んだ契約書を作成することもあるが、ケース・バイ・ケースでもあり、個別案件ベースで作成すると、リーガル・チェックも含めて手間とコストがかかる。

特に中小企業向けには、汎用的に利用できる最低限の必要事項を記載した契約書を基本契約書として用意しておくことを勧めたい。


解説

動産譲渡担保契約書として最低限必要な事項とは、まず、譲渡担保契約としての形式である。銀行の場合であれば、融資取引においては、銀行取引約定書を徴求しているので、これを活用して融資取引の基本事項をカバーすることが可能である。さらに、貸出形態に応じて、証書貸付であれば金銭消費貸借契約書、手形貸付であれば手形、当座貸越であれば当座貸越契約書等の既存の契約書類を活用して、ABLの取引において不足する条項を動産譲渡担保設定契約書として設定することで対応可能である。

まず、動産譲渡担保設定契約の形式とは、占有改定契約の書式を活用することができる。内容としては、銀行取引約定書の存在を前提とし、その各条項を承認のうえ、担保対象物件を特定し、債務の担保として譲渡し占有改定の方法にて引き渡す旨および動産譲渡登記をする旨(対抗要件)を記載する。そのうえで、権利の状態を含め表明保証や借手の義務として、担保物件を善良なる管理者の注意をもってこれを管理するという善管注意義務や現実の引渡しへの協力義務、在庫明細等担保物件に係る定期的な報告義務、また、対象担保に係る立入調査権の確保や担保物の使用貸借権の設定等を最低限の項目として、担保対象の一定残高維持や財務制限条項については、適宜借手や担保の状況に応じて制限条項を加える形式とすることで活用しやすくなる。

ただし、動産の場合は、対象担保の立入調査権や実査への協力条項がないと、関係がこじれた際に貸主の自力執行を違法行為とした判例(「自力執行による搬出行為については、窃盗罪を構成し社会通念上の受忍限度を超えた違法行為である」最判平元.7.7.刑集43巻7号603頁)が存在するので注意が必要である。また、中小零細企業に対する義務違反抵触時に期限の利益喪失事由となるようなきびしい財務制限条項等は、貸手の「優越的地位の濫用」に留意し、一方的に借手の権利を制限するものとならないよう配慮する必要がある。