動産担保を処分する場合の基本的な考え方とは何か
動産担保の債務者(借手)の信用悪化時には、その債務者や担保のおかれた状況を十分に把握したうえで、その状況に適した対応を段階的に行うことが、債権を保全するため、あるいは、最大回収を図るためのポイントとなる。したがって、債務者(借手)の業務継続を前提として、早期に債務者(借手)の任意処分という形で担保処分することが望ましい。
動産担保の一口に担保物件の換価処分といっても、実務上は、債務者(借手)の営業状態や債権者(貸手)と債務者(借手)の関係等を考慮しながら進めていくことが必要である。したがって、モニタリングをふまえながら、債務者(借手)の業績に変調が認められるような場合に、どのようなステップをふんでいくのかを検討する。
動産担保を処分する場合、債務者(借手)・担保の状態や債権者(貸手)との取引状況や関係などに応じて、処分のタイミングや方法が異なることに注意する。
(1) 過剰在庫の処分による建直しの場合 ABLの本旨はゴーイングコンサーンの仕組みであり、担保物件の処分においては、モニタリングによる債務者(借手)や担保の状態の把握度合いが重要な判断要素となる。したがって、債務者(借手)とのリレーションが維持できており、かつ、モニタリングによる検証をふまえて過剰在庫が早期発見できる場合には、債務者(借手)を主体として通常の商流のルートで処分が可能かどうかを第一に検討すべきである。適切なモニタリングによる効果として在庫の変化の早期発見により、価格の大幅な値引きなしに処分できるかがポイントとなる。通常の商流ルートでの処分が困難な場合には、ビジネスマッチングの活用も検討する。
(2) 業務縮小、事業の撤退の場合 原則として、債務者(借手)とのリレーションが維持されている限り、通常の商流のルートにおいて売切り処分をして債務の弁済にあてていくことが、回収の最大化を図るために重要である。ただし、商流のなかで処分できない場合には、前項同様にビジネスマッチングを活用したり、処分業者に委託して「閉店セール」等を実施することが有効である。前項ならびに本項のケースは、債務者(借手)が主体となって換価処分を行う、あるいは行わせることがポイントであり、担保権の実行ではなく、任意処分による回収をもって処分を終了させることで、コスト面からも最大回収が図れることとなる。
(3) 債務者(借手)との協力関係が失われた場合 債務者(借手)との協力関係が失われた場合には、任意処分が不可能となるため、担保権を実行することとなる。この場合は、通常期限の利益の喪失条項に抵触するケースであり、債務者(借手)に対して期限の利益の喪失ならびに譲渡担保の実行を通知する。動産譲渡担保権の実行は、私的実行によるものとしても、被担保債権の弁済時期が到来しただけでは、目的物たる動産所有権の確定的移転は当然には生じないとされており、目的動産所有権の確定的移転のためには、譲渡担保権者(債権者=貸手)から設定者(債務者=借手)に対する実行通知(確定的な所有権を取得する旨の意思表示)が必要とされている。
また、集合動産においては、倉庫等、ある特定の場所に存在する動産の範囲を担保目的物としており、たえず目的物の中身が入れ替わる流動的な状態にあるため、通知により担保の目的物たる動産を「固定化」することにより、実行対象を確定する必要がある。なお、「固定化」が生じた場合、それ以降に特定の場所に搬入された動産については、譲渡担保権の効力が及ばないこととなるので留意する。
なお、自力執行の場合には、搬出行為が違法とされた判例があるので留意する(【40700】参照)。実務的には、目的動産の搬出を可能とするために、譲渡担保契約の段階で設定者(借手)との合意に基づき、譲渡担保権者(貸手)があらかじめ目的の保管場所に支配を及ぼすことができるようにしておく方法(出保管)も可能であるが、最低限、立入権等を契約上で確保しておく必要がある。
(4) 担保物件を処分できずに放棄する場合 動産担保物件の処分に際しては、物によってまったく処分できないケースや処分後の残骸として、無価値物や廃棄物が残存する可能性がある。無価値物については、有価値物を処分する際に一緒に引き取ってもらうよう要請(バルクセール)を行うことが可能である。入札あるいは相対取引であっても、無価値物の引取りを条件とする取引も一般的に行われているが、価格面への影響は否定できず、処分不能のリスクとコストとの比較検証が必要である。また、廃棄処分をしようとするならば、実費を負担することにより処分業者に委託して処理することが可能である。ただし、費用対効果の問題で、回収にかかる必要経費が回収金額を上回り、費用倒れとなってしまうことも想定される。このような場合に備えて、譲渡担保の行使権限に関する規定を譲渡担保契約書に手当しておくことが可能である。すなわち、「担保物の全部又は一部について、当社の判断により担保として権利行使しない旨の意思表示ができるものとし、この場合には、その意思表示の対象となった権利は当然に債務者に帰属するものとする」旨を規定する(参考:信用保証協会 流動資産譲渡担保契約証書17条2項)。
(5) 第三者による代理占有の場合 目的動産が倉庫業者等の第三者により代理占有されている場合(指図による占有移転の場合)においても、担保目的物の保全が重要である。倉庫業者等は設定者(借手)との寄託契約により、倉庫の賃料を設定者から支払われている関係もあり、設定者からの要求に応じることが普通である。また、倉庫業者等は設定者に対し賃料債権を有する債権者(商事留置権者)でもあるので、自己の債権を回収のために担保動産を処分してしまう可能性もある。したがって、譲渡担保権者(貸手)としては、倉庫業者等に対して譲渡担保の実行通知と引渡請求を行う必要がある。さらに、状況に応じて仮処分の申立を行い、占有の確保を最優先に行っていく必要もある。なお、設定者(借手)が倉庫の賃料を滞納している場合には、倉庫業者等も商事留置権を盾に担保動産の引渡しに応じないケースも想定される。この場合には、未納の賃料総額と担保動産の価値を比較したうえ、担保動産の価値が未納の賃料を上回ると判断できれば、立替払いをして担保動産の引渡しを受け、占有を確保することも考えられ、立て替えた賃料は、担保動産の処分に要する費用として、処分代金から充当することも検討できる。
このようなケースを想定し、当初から譲渡担保権者(貸手=債権者)、設定者(借手=債務者)、倉庫業者等と三者契約(特約)を締結することにより、譲渡担保権者の権限を明確にし、担保動産の保全を図ることが可能である。
第一段階は、過剰在庫の処分による建直しや単なるリストラの段階である。この場合、借手にとっても余分な在庫を処分するニーズがあり、合意を形成しやすい。過剰在庫の処分は、経済的には企業の通常の営業活動に含まれるという理解であるが、譲渡担保に関して、契約書上の借手に委ねられている通常の営業活動の範囲を超えていることが考えられるため、コベナンツの条件に留意する必要がある。
シンジケートローンの場合、処分実施は単独融資の場合よりも複雑である。処分のタイミングは、一般的にはシンジケーションを組む段階で決めておく。多数決、全会一致、貸付残高基準にした議決権などの方法がある。シンジケーションにおける処分に関しては、まだ標準的な慣行が定まっているわけではないので、プラクティスが確立するまでは注意が必要である。現段階では、メインバンクに集中して行ったほうがやりやすい。
以上のように、第一段階では事業継続(ゴーイングコンサーン)が大前提であり、処分の規模がポイントとなる。
第二段階は、必ずしも事業の継続性を前提にできない場合である。さらに、①債務者(借手)の協力が得られる場合(処分によって債務が完済される場合)と、②債務者(借手)の協力が得られない場合(借手との交渉ができない状態=処分しても残債が残る場合が典型的)の2通りに区分できる。まず、債務者(借手)の協力が得られる場合には、処分業者にいくらで処分できるかオファーをかける。債務者(借手)に対しては、期限の利益の喪失をもって物件の引渡しを要請する。その際、処分するために担保物件を査定(業者に委託)し、また、物件の数量が変わらないよう即座に貸手が占有し、処分業者の倉庫あるいは貸倉庫に運び入れることが考えられる(そのまま売却し、買取先に引き取らせることも可能である)。念のため、債務者(借手)から引渡しの同意書を徴求することもある。なお、処分業者あるいは買取先と売買契約を締結する。この場合の留意点は、物件の特性や処分コストを勘案し、時間を区切ることで処分価格が変わることがあるので留意する。なお、残債が残る場合で、事業継続性があれば、仕入れができなくなった段階で、コミッション商売へ切り替えていく方法もあり、債権者(貸手)としては債権の回収を継続していくのか、償却を検討するのかの判断が求められる。
次に、事業の継続性がなく、債務者(借手)の協力が得られない場合=債務者(借手)との交渉ができない状況であって、担保物件の占有が確保できない場合は、法的手段に訴えなければならない。