譲渡担保権者が担保目的物を搬出する行為は不法行為になるか
譲渡担保権者が、優先弁済権を実行するために、担保目的物を換価処分する以外に方法がなく、かつ搬出について債務者が異議を唱えない場合は、換価処分の前提としてこれを搬出する行為は不法行為とはいえない。債権者は搬出する場合、譲渡担保権設定者にも手伝わせ、その写真をとっておくなどの配慮をすべきである。
本問は処分清算型譲渡担保の場合、譲渡担保権者がその目的物件を換価処分するため搬出する行為は、債権者その他の権利者との関係で不法行為を構成しないかという問題である。
処分清算型譲渡担保とは、被担保債権の債務不履行の際、担保目的物を処分してその換価代金によって債務の弁済に充当し、過不足があればこれを清算する譲渡担保である。当該譲渡担保権に基づく優先弁済権を行使するためには、担保目的物を換価処分することが必要であり、譲渡担保権者はそのための権能として担保目的物の引渡請求権を有しているわけである。すなわち、優先的弁済を受けるという目的のため担保目的物の所有権を取得し、その限度内で譲渡担保権者は排他的支配権をもっていると考えるべきである。
(1) 処分清算型譲渡担保の目的物に、さらに工場抵当権が設定されている場合、譲渡担保権者がその目的物を換価処分のため搬出したケースにつき、最高裁は「処分清算型の譲渡担保権者が優先弁済権を実行するためには、目的物を換価するため処分する以外に方法がないのであるから、その前提として目的物を搬出する行為は、同人の権利を実行するための必須行為であって、不法行為とはいえない」とし、その合法性を認めた(最判昭43.3.8金法512号39頁)。
(2) さらに、弁済期以前でも設定者の倒産・行方不明等により担保目的物の保管につき善管義務が尽くしえない状態にある場合、譲渡担保権者が目的物件を債務者の所から無断で搬出し、弁済期日まで保管したケースにつき「その搬出取戻しが債務者の抵抗を実力で排除してなされたとか、債務者側で目的物を適正に占有管理していた等、特段の事情のない限り、不法行為に当らない」とし、不法行為責任を負わない旨判示した(最判昭53.6.23金法870号58頁)。債権者は搬出する場合、譲渡担保権設定者にも手伝わせ、その写真をとっておくなどの配慮をすべきである。
(1) 担保目的物の搬出は債権回収の最終の権利であり、ほかに方法がなくやむをえない場合であることが要求され、たとえば、弁済期後であっても、ほかから弁済の提供のある場合は、これを拒絶してまで担保目的物の換価処分を強行することはできない。万一強行した場合は、過剰行為としてその違法性を追及されることとなろう。
(2) また、本問はあくまで他の権利者との関係で不法行為が問題となる場合であって、債務者自身が引渡しに応じない場合はもちろん別である。譲渡担保権者が担保目的物の引渡請求権を有することは、判例・学説ともに認めるところである(大判大4.2.22民録21輯174頁、我妻榮『新訂担保物権法』607頁)が、それでも債務者の反対を押して担保目的物の搬出を強行することは、自力救済として不法行為法上の違法性を問われる。また、譲渡担保権者が、譲渡担保の目的物件を債務者に無断で運び去ったケースにつき、窃盗罪(刑法235条)に該当すると判断した判例(最判昭35.4.26刑集14巻6号748頁)もあり、刑事責任も問われうることになる。したがって、債務者自身が引渡しに応じない場合は本訴により引渡請求をなす必要がある。