IV巻 担保 編
40714  譲渡担保権設定者による不当な物件処分に対する対応策

譲渡担保権設定者が譲渡担保権設定契約において認められた権限を越えて物件処分等を行おうとしているとき、譲渡担保権者の対応策としてどのようなことが考えられるか

結論

譲渡担保権設定者が設定契約によって認められる利用、処分権限を越えて対象資産の処分等をしようとしていることを察知した場合には、譲渡担保権に対する侵害行為および契約違反行為であることを理由として、当該行為を直ちに中止するよう申し入れる。

任意の中止申入れに応ずることがまったく期待できないような場合や中止申入れ等を行ったにもかかわらず、これに応じないような場合には、契約違反行為によって期限の利益喪失事由が生じたものとして、譲渡担保権を実行し、対象資産の引渡しを請求する。


解説
◆譲渡担保権設定者に認められる対象物件の利用、管理権限

動産譲渡担保においては、担保権設定という物権変動の対抗要件である「引渡し」(民法178条)を占有改定あるいは動産譲渡登記によって行い、譲渡担保権設定後も設定者(債務者または物上保証人)が対象資産を利用、管理するのが通常である。

すなわち、譲渡担保権設定契約において、譲渡担保権設定者は、被担保債権の弁済期徒過などの一定の事由が生じない(期限の利益を喪失しない)限り、対象資産を引き続き利用する権限が認められるが、他方において譲渡担保権者のために対象資産を管理する義務(善管注意義務)を負担する旨が定められるのが一般的である。また、集合動産譲渡担保の場合には、譲渡担保権設定契約において、譲渡担保権設定者に「集合体」を構成する個々の要素(個別動産)を「通常の営業の範囲内」で処分(売却)できる権限が付与され、譲渡担保権設定者は処分代金を自らの営業に利用することが認められ、個々の構成要素の処分等により「集合体」の価値が減少する場合にはそれと同等の価値を有する構成要素を補充して、「集合体」の価値を維持すべき義務を負担すると定められることがほとんどである。

◆譲渡担保権設定者が不当な物件処分を行った場合における譲渡担保権設定者と譲渡担保権者

譲渡担保権設定者が設定契約によって認められる利用権限を越えて、対象資産を処分したり、毀滅したような場合には、譲渡担保権設定者は譲渡担保権者に対して、債務不履行または所有権侵害もしくは担保権侵害の不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになる。

集合動産譲渡担保の場合であっても、譲渡担保権設定者が通常の営業の範囲を超えて個々の構成要素を処分し、十分な補充をしないといった場合には、設定契約において定められる「集合体の価値を維持すべき義務(構成要素である個別動産を処分したときは同等の価値を有するものを補充すべき義務)」に違反することとなり、また、譲渡担保権の目的である「集合体」に対する侵害を行ったと考えることもできるから、譲渡担保権設定者には債務不履行または所有権侵害もしくは担保権侵害の不法行為に基づく損害賠償責任が生じることになるものと考えられる(東京地判平6.3.28判時1503号95頁)。なお、集合動産譲渡担保については、「通常の営業の範囲」を超える処分がなされ、「譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合」には、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得する可能性があることを示唆した判例がある(最判平18.7.20民集60巻6号2499頁)。また、譲渡担保権設定者が譲渡担保権設定契約によって認められる権限を越えて物件処分等を行うことは、設定契約に違反する行為であるから、期限の利益喪失事由に該当することがほとんどであろう。

◆譲渡担保権者の対応策

譲渡担保権設定者が設定契約によって認められる利用、処分権限を越えて対象資産の処分等をしようとしていることを察知した場合には、譲渡担保権者としては、譲渡担保権に対する侵害行為および契約違反行為であることを理由として、当該行為を直ちに中止するよう申入れを行うことが考えられる。また、すでに対象資産の不当な処分等がなされているような場合には、譲渡担保権設定者に対して、当該行為の即時中止とともに、増担保(追加担保、代担保)や「集合体の価値を維持(補充)すべき」ことを求めることが考えられる。

任意の中止申入れに応じることがまったく期待できないような場合や中止申入れ等を行ったにもかかわらず、これに応じないような場合には、譲渡担保権者としては、契約違反行為によって期限の利益喪失事由(当然喪失事由か請求喪失事由かは契約内容によって異なるであろう)が生じたものとして、譲渡担保権を実行し、対象資産の引渡しを請求することになろう。ただし、譲渡担保権設定者が対象資産の引渡しに任意に応じない場合には、法的手続によらざるをえないこととなる(【40743】参照)。

なお、対象資産が売却処分されたが、売却代金の支払がなされていない場合には、譲渡担保権に基づいた売却代金債権に対する物上代位の可否が問題となる。この点については【40707】を参照されたい。