動産譲渡担保について、動産譲渡登記を具備していれば、たとえ先行して占有改定による引渡しにより対抗要件を具備した動産譲渡担保が設定されていても、これに優先する効力が認められるか
動産譲渡登記は引渡しと同等の効力を有するにとどまるものであり、たとえ動産譲渡登記を備えても、先行する占有改定による引渡しに優先する効力は認められない。
動産譲渡担保においては、譲渡人が対象動産(機械設備などの個別動産や在庫商品などの集合動産)を自らの直接占有下にとどめおく引渡し方法(占有改定)による場合が多い。
しかし、占有改定は、観念的な占有移転形態にすぎないから、動産譲渡の事実につき公示機能がきわめて乏しい。よって、動産譲渡担保の設定を受ける者は、当該債務者によって、想定外の譲渡担保がすでに他の債権者のために先行して設定され、占有改定によって対抗要件が具備されており、かかる「隠れた譲渡担保」に劣後してしまうのではないか、という疑念を抱くことになる。
これが動産譲渡担保による資金調達の妨げとなっていたものであり、この問題点に可能な範囲において対処することが、動産譲渡登記制度の立法の出発点でもあった。
そこで、動産譲渡登記制度の立法過程においては、かかる「隠れた譲渡担保」に劣後するおそれに対処するため、動産について、先行する占有改定による担保目的の譲渡があっても、その後に担保目的の譲渡につき動産譲渡登記がされた場合には、かかる登記をした譲受人が、占有改定による譲受人に優先するという効力(「登記優先ルール」)を肯定すべきとする立法案が有力に主張された。
しかし、かかる立法案については、①時間的先後とは別個の基準によって対抗要件間に効力上の優劣を設けることの理論的問題性、②担保目的の動産譲渡登記か否かの判別の困難性、③後行者が担保目的の譲渡を仮装して登記を備え、優先的効力を得ようとする濫用の危険性、④「甲から乙への担保目的譲渡につき占有改定による引渡しがなされ、甲から丙への真正譲渡につき占有改定による引渡しがなされ、さらに、甲から丁への担保目的譲渡につき動産譲渡登記がなされた」というケースにおいて、乙は丙に優先し、丙は丁に優先し、丁は乙に優先するという「三すくみ」の事態が生じ、所有権の帰属を確定できないという理論的問題性、⑤先行する占有改定の効力が覆滅されることによる実務上の困難の危険性などの問題点が存する。
このため、登記優先ルール案は採用されず、動産譲渡登記がされたときは、その動産について、民法178条の引渡しがあったものとみなされるにとどまるものとされた(動産・債権譲渡特例法3条1項)。すなわち、動産譲渡登記には、民法178条の引渡しと同等の効力が認められるのみであり、両者間に、理論的な優劣関係は存在しない。
したがって、同一の動産について、動産譲渡登記よりも先に引渡しがなされている場合には、先に引渡しを受けた譲受人が優先するのであり、動産譲渡登記を備えても、先行する引渡しに優先する効力は認められない。
動産譲渡登記に、先行する引渡しに優先する効力が認められないとしても、外形上明確な公示方法である登記は、①占有改定と異なり、その有無または先後をめぐって紛争が生じるおそれが少なくなる、②国の公示制度であり対抗要件の立証が容易となる、③登記を調査していない後行者の無過失を否定する要素となりうる可能性があり、即時取得を成立しにくくさせる、などのメリットがあると指摘されている。もっとも、登記を備えない場合においても、占有改定により引渡しを受けた旨の証書に公証役場で確定日付印を受けておくことにより①、②の点はある程度補うことも可能であるし、占有改定および登記をあわせて備えておくことも有意義な方法である。