譲渡担保目的物の売却、滅失または損傷等によって生じた金銭債権について、譲渡担保権に基づく物上代位は認められるか。また、物上代位が認められるのはどのような場合か
譲渡担保目的物の売却、滅失または損傷等により、譲渡担保権設定者が売却代金債権、保険金請求権その他の金銭債権を取得した場合には、譲渡担保権者は、当該金銭債権につき払渡しがなされるまでの間、物上代位権を行使して当該金銭債権を差し押さえることができると考えられる。
ただし、集合動産譲渡担保の場合、譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している間は、原則として物上代位権を行使することができないと考えられるため、注意を要する。
譲渡担保権の物上代位の可否については、従前これを否定する学説もあったところであり、信用状取引によって負担する債務の担保のために、取引の対象である輸入商品に設定した譲渡担保に基づく転売代金債権に対する物上代位権に基づく差押えを認めた判例(最決平11.5.17民集53巻5号863頁)もあったが、「右の事実関係の下においては、」という限定を付した事例判断にとどまり、一般的に物上代位権を認めるものではなかった。
しかし、近時、最高裁は、「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権は、譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産(以下「目的動産」という)の価値を担保として把握するものであるから、その効力は、目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当である」と判示し、集合動産譲渡担保権の効力は、その実行の先後を問わず、その目的物の滅失にかかる保険金請求権にも及ぶことを明らかにした(最決平22.12.2民集64巻8号1990頁)。
なお、同決定は、集合物譲渡担保一般に物上代位を肯定したものと解され、また、直接的には集合物譲渡担保についての決定であるが、個別動産譲渡担保についても物上代位を一般的に認めたものと解されている。
もっとも、前掲最決平22.12.2は、集合動産譲渡担保について、目的動産を販売して営業を継続することを前提にするものであることから、通常の営業を継続している間は、直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り、物上代位権を行使することができないとする。
したがって、集合動産譲渡担保の場合には、譲渡担保権設定者がその集合動産を用いた通常の営業を継続している限り、一部の目的動産の売却、滅失または損傷等により、譲渡担保権設定者が売却代金債権、保険金請求権その他の金銭債権を取得した場合であっても、当該金銭債権に対して差押えを行うことができない点には、留意すべきである。