I巻 コンプライアンス・取引の相手方・預金・金融商品 編
10013  一般法と特別法

一般法・特別法とは何か。民法と商法の関係、民法と金販法・消費者契約法の関係はどうなっているのか

結論

一般法とは、適用領域が限られている法である特別法に対する概念であり、その適用領域は特別法に比べて広い。特別法は一般法に優先して適用されるのが原則である。銀行の行う行為には、原則として特別法である商法が一般法である民法に優先して適用されることになる。また、金販法や消費者契約法は、一般法である民法の一部の規定に関する特則を設けた法律である。


解説
◆一般法・特別法

一般法は普通法とも呼ばれ、適用領域(人・場所・事柄等)が限られている法である特別法に対する概念であり、その適用領域は特別法に比べて広い。ただし、一般法・特別法は相対的な概念であり、たとえば、商事について定めている商法は、私法の一般法である民法に対しては、特別法であるが、手形法に対しては一般法である。特別法は一般法に優先し、後法優位の原則(同一段階の法規範同士の内容が抵触する場合には、後から成立した法律が優先するとの原則)よりも、特別法優先の原則のほうが優先する。特別法優位の原則や後法優位の原則は、いずれも同一段階の法規範同士の優先関係に関する原則であって、一般法の上位規範(たとえば法律)は、特別法の下位規範(たとえば命令)より原則として優先する。

◆民法と商法の関係

商法は、商人の営業、商行為その他商事について定める法律(商法1条1項)であるのに対し、民法は、広く一般私人の私的利益の調整をするものである。特別法優先の原則により、民法と商法の双方が適用可能な場面においては、商法が優先的に適用されることになる。代表的な例としては、債権の消滅時効(民法167条、商法522条)や法定利率(民法404条、商法514条)がある。ただし、商法に定めのない事項(正確には商慣習法もない事項)については一般法である民法が適用される(商法1条2項)。

商法の適用範囲については、商法は「商人」と「商行為」という二つの概念を使って定めている。

商人とは、「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」(商法4条1項)であり、銀行は商人に該当するので、その行う営業に関しては商法が適用される。一方、判例によると、信用金庫は営利を目的としていないので商人ではないとされていることから(最判昭63.10.18民集42巻8号575頁)、信用金庫の行う業務であるからといって、直ちに商法が適用されるとは限らない。

商法は、商行為に関する定義規定を設け(商法501条ないし503条)、当事者の一方のために商行為となる行為については商法が適用される(同法3条)。

上記の結果、銀行の行う行為には、原則として商法が優先して適用されることになる。

◆金販法・消費者契約法と民法の関係

金販法は民法の不法行為責任の特則であるとされる。すなわち、民法709条(不法行為)に基づき損害賠償請求をするには、①権利侵害(違法性)、②相手方の故意・過失、③権利侵害と損害の因果関係、④損害額、についての請求者による主張・立証が必要であるが、金販法は②についての主張・立証を不要とし(業者の無過失責任)、③、④について推定規定を設けている点において、民法の規定を修正している。よって、上記の観点から金販法は民法の特別法であるといえるものの、金販法は民法の規定の適用を排除していないこと(金販法7条)から、請求者側は、金販法と民法の一方、もしくは、双方に基づき、業者に対して損害賠償請求することが可能である。

消費者契約法は、民法における詐欺、強迫(民法96条)の要件の緩和および抽象的な要件の具体化・客観化等を図るものであることから、民法の特別法であるといえる。消費者契約法11条1項が「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の効力については、この法律の規定によるほか、民法及び商法の規定による」と定めるのは、このことを明らかにしたものである。なお、同項には、①本法に特段の定めがない事項について、補充的に民法および商法の規定が適用されること、および、②本法の規定と民法および商法の規定が競合する場合には、本法が優先的に適用されること、の二つの内容が含まれている(内閣府国民生活局消費者企画課編『逐条解説消費者契約法〔補訂版〕』183、184頁)。