動産譲渡担保が設定されている物について、動産売買先取特権を主張する者がいる場合、譲渡担保権者との優劣は、どのようになるか
動産売買先取特権の目的物が、引渡しまたは動産譲渡登記の備えられた(集合)動産譲渡担保の対象となった場合、その目的物について、動産売買先取特権を行使することはできなくなる。
動産を売って引き渡したが代金の支払を受けていない売主は、その代金・利息を被担保債権として、売買目的物である動産の上に、動産売買先取特権を有する(民法311条5号・321条)。先取特権とは、法律に定める一定の特殊な被担保債権を有する者が、債務者の総財産(一般先取特権の場合)、特定の動産(動産先取特権の場合)または不動産(不動産先取特権の場合)につき、他の債権者に優先してその債権の弁済を受けうる法定担保物権である。動産売買先取特権の場合、目的物たる動産の競売手続により、法律の定める優先順位に従って優先弁済を受けることができる。
売主が買主に引き渡したが、代金をまだ受け取っていない動産(先取特権の目的となっている動産)について、買主が第三者に転売して当該第三者が現実の引渡しを受けたり、当該動産が占有改定や動産譲渡登記を備えた集合物譲渡担保権者の担保目的物となった場合(譲渡担保権の対象となる集合物の保管場所に搬入された場合)、先取特権者と当該動産の譲受人や譲渡担保権者との関係が問題となる。
債務者が、動産売買先取特権の目的物である動産を「第三取得者」に「引き渡した」後は、当該動産について先取特権を行使することができない(民法333条)。これは、動産売買先取特権は、なんらの公示方法を具備することなく、当然に第三者に対抗することができる権利であり、その対抗力を無制限に認めると、動産取引の安全が害されることになるからである。
「第三取得者」とは、目的物である動産の所有権を取得した者を意味し、買主からの転売を受けた第三者や、買主から動産譲渡担保の設定を受けた者(最判昭62.11.10民集41巻8号1559頁。集合物譲渡担保の事案)も、この「第三取得者」に含まれる。また、「引き渡した」とは、現実の引渡し、簡易の引渡し、指図による占有移転のほか、占有改定(前掲最判昭62.11.10)や動産譲渡登記の具備も含まれるものと解されている。
すなわち、判例は、債権者と債務者との間で「集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によってその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至ったものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがって、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法333条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもって、右動産競売の不許を求めることができる」と述べている(前掲最判昭62.11.10)。
したがって、動産の第三取得者(転買人や譲渡担保権者)が、先取特権の目的である動産につき引渡しや動産譲渡登記を具備すれば、売主は、もはや当該動産につき先取特権を行使することができない。