新聞の盲点

一般社団法人金融財政事情研究会創立と同時に創刊された、金融の専門週刊誌『週刊 金融財政事情』に掲載のある記事になります。

2018.07.23.

金商法の適用まで浮上した仮想通貨を巡る規制の行方

4月に発足した日本仮想通貨交換業協会。「自主規制」によって業界の再起が目指される。

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※『新聞の盲点』は、『週刊 金融財政事情』に掲載されている記事です。『週刊 金融財政事情』の詳細はこちらから

 ずさんな管理態勢が明らかとなった仮想通貨業界。決済手段としての普及を見込んでいた当初の想定と異なり、仮想通貨が「投機」の手段として根づき出しているため、その制度的対応も焦眉の急となっている。一部メディアで「金商法の適用を検討」と報じられているが、法改正には相応の時間を要するため、まずは自主規制での対応が求められる。ただ、仮想通貨の性質や技術のさらなる進展を見込むと、金商法の適用を含むその後の制度的な見直しは一筋縄ではいかなそうだ。


仮想通貨の実態は投機手段

 7月初旬、一部メディアにおいて金融庁が仮想通貨交換業への規制を現在の資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移行する検討を開始したことが報じられた。金融庁は「現時点で具体的な検討が始まっているわけではない」(関係者)とするが、現状の規制では仮想通貨取引をカバーしきれない問題が生じていることは紛れもない事実である。
 金融庁は仮想通貨取引に関する制度整備について幅広く議論するため、4月10日に「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置した。1月に起きたコインチェックの不正流出事件や、事件をきっかけに露呈した仮想通貨交換業者やみなし仮想通貨交換業者のずさんな管理態勢、さらに法制定時には想定されていなかった「投機手段」として広まっている状況や仮想通貨を用いた資金調達(ICO)が広まっていることなどに対しての制度的対応を検討している。
 初回会合では、仮想通貨取引の実態が初めて統計として示された。みなし仮想通貨交換業者を含めた国内17社における、ビットコイン、イーサリアム、リップル、ビットコインキャッシュ、ライトコインの五つの主要な仮想通貨の取引量は、2014年度に現物取引が24億円、証拠金・信用・先物取引が2億円だった。これに対し、17年度は現物取引が12兆7140億円、証拠金・信用・先物取引については56兆4325億円にまで拡大しているという。17年度の取引のうち、8割超を証拠金・信用・先物取引が占めており、仮想通貨が「投機手段」として根づいている姿が明らかとなった。

肝となる自主規制

 このように現状の仮想通貨取引はFXに近い取引実態であるにもかかわらず、もともと決済手段としての普及・拡大を見込んでいたことから、仮想通貨交換業者には投機手段としての規制が何もない。そのため、投資家保護への対応が不十分であることが問題視されている。
 例えば、仮想通貨交換業者に対しては、現在のところ金商法のようなインサイダー取引や相場操縦に関する規制が存在しない。一般に、新しい仮想通貨を取引所で取り扱うと価格が上がる傾向にあるが、事前に取扱い開始の情報を入手していれば、簡単に大きな利益を得ることもできる。こうした懸念や問題意識などが、「金融庁の相談窓口に苦情として寄せられている」(金融庁関係者)という。
 このような状況から、今年4月に設立された日本仮想通貨交換業協会では、投資家保護のためインサイダー取引や相場操縦、空売りの禁止などを含めた業界の自主規制の策定作業を進めている。証拠金取引などでは「25倍などの高い倍率がかけられることが多い」(業界関係者)ため、そのリスクの高さから自主規制においてレバレッジ規制の導入についても検討が行われている。
 また、投機的利用の拡大には、仮想通貨交換業者が大々的な広告を展開し、顧客を集めていたことも少なからず影響していたと考えられる。すでに広告表示に関する一定の基準が示されており、策定中の自主規制においてもリスク表示のあり方などを規定する広告規制を盛り込む方針だ。
 そもそも仮想通貨交換業に関する規制は、技術的進歩に柔軟に対応する狙いなどから自主規制による規律を前提としており、法令では詳細なルールを定めなかった。ところが、自主規制はおろか、業界内部の意見調整が進まず、自主規制団体となりうる受け皿さえなかなか発足しなかった。仮想通貨交換業者を規制する改正資金決済法が施行されたのは17年4月。それから1年以上が経過した今月中をメドに、ようやく自主規制の策定が完了する見通しだ。「法改正での対応となると、どんなに急いでも1年はかかる。まずは自主規制でスピード感をもって対応する必要がある」(金融庁関係者)という面もあり、顕在化している多くの課題に対して、まずは自主規制による早急な対応が求められている。
 併せて、金商法の適用についても議論が進む可能性があるが、決済手段としての発展をどう見据えるかによって見解は異なり、業界として統一的な意思形成はできていない。仮想通貨を金商法の規制対象にすると当局がお墨付きを与えた印象になってしまうことから、金融庁内においても金商法を適用することについては慎重な声もある。また、「仮想通貨は期待のみで価格が上昇し、根拠となる価値はない。そうしたものを金商法のほかの規制対象商品と同列に扱うことが適切なのか」(業界関係者)といった疑問の声も多く、金商法適用の可能性については予断を許さない状況だ。

発展途上における規制の難しさ

 他方で、当初目指されていた決済手段としての利用可能性もなくなったわけではない。仮想通貨はまだ発展の途上にあり、「今の技術と使われ方だけを見て将来起こりうる問題や活用可能性を見極めることはできない」(業界関係者)。そのため、「規制のあり方は長期的な目線を持って検討していく必要がある」(同)との意見はもっともだ。
 例えば、業容拡大により仮想通貨交換業者が多額の顧客資産を預かっている状況は大きなリスクであり、業界では資産管理を専門の第三者に任せるといった考え方も出始めている。実際、米コインベースが7月2日から機関投資家向けにカストディサービスを開始したほか、日本でも5月に野村ホールディングスが海外事業者と組んでカストディサービスの提供に向けて研究を行うと発表している。他方で、「分散型取引所」と呼ばれる仮想通貨交換業者を介すことなく、プログラムにより自動的に個人間でマッチングして仮想通貨取引を行う形態も出現している。カストディなど、仮想通貨関連のビジネスを機能別に分解して規制を設けることも考えられるが、分散型取引所が主流となった場合、従来の規制の考え方ではふたたび対応しきれなくなってしまう。
 今後、仮想通貨に関する技術がどのように進展し、どのようなビジネスが人々に浸透するかによって、規制のあり方も変化する。投機手段への対応など顕在化する問題への制度的対応は必要だが、法整備の見直しにあたっては先々を見通した検討が肝要だ。