新聞の盲点

一般社団法人金融財政事情研究会創立と同時に創刊された、金融の専門週刊誌『週刊 金融財政事情』に掲載のある記事になります。

2018.07.30.

「不明瞭な」手数料徴求は東日本銀行だけか

6月に東日本銀行の頭取から取締役会長に退いた石井道遠氏。どのような経営責任を取るのか?

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※『新聞の盲点』は、『週刊 金融財政事情』に掲載されている記事です。『週刊 金融財政事情』の詳細はこちらから

金融庁から不適切融資などを指摘されて業務改善命令を受けた東日本銀行。処分の理由に「不明瞭な手数料徴求」が含まれているが、この点に疑問の声が上がり始めている。預貸利ザヤが低迷する中、手数料ビジネスを強化している金融機関は多く、他行でも多様な名目で手数料を取っている。処分に裁量的な要素があれば、他行の収益構造改革に水を差しかねない。さらに、金融機関で不祥事が相次いで発覚していることから、金融検査のあり方にも疑問の目が向けられている。


4億6,000万円の不明瞭な手数料

 東日本銀行は7月13日、内部管理態勢および経営管理態勢に問題があったとして、銀行法26条1項に基づき、関東財務局から業務改善命令を受けた。業務改善命令の理由は、次の5点である。
 第一に、顧客の利益を害する業務運営。融資に係る手数料において、対価となるサービス内容や算定根拠が不明なものが多数あった。2015年4月から17年9月までの新規融資先のうち、不明瞭な手数料を取っていた支店は全83カ店中69カ店に及び、その金額は997件で約4億6,000万円にのぼった。その中には地方公共団体の制度融資に係るもの(210件、約1,600万円)も含まれており、本来地公体との協定書で手数料徴求が禁止されているケースもあった。また、融資金の一部を定期預金とする「歩積み両建て」も行われていた。
 第二に、不適切な融資。特定の融資先から過剰な接待を受けた池袋支店の副支店長が、15年11月から16年9月にかけて、支店長を欺(あざむ)き不適切な融資を実行して、7億円もの損失を出した。別の3カ店でも支店長が営業エリア内に実態のない営業所を登記させて融資を実行するなどの不適切融資を行い、今年3月末までに約4,500万円の損失を出していた。
 第三に、本部の牽制機能の欠如。監査部は外形的な点検や事務面をチェックするのみで、融資部・営業統括部による支店モニタリングでも不正を発見できなかった。
 第四に、投資信託の販売や途上管理を巡る虚偽報告。同行のルールでは、販売時やアフターフォロー時には担当者と役席者の2名で訪問することになっているが、1名で訪問しても2名で訪問したことにするなどの虚偽記載が横行。こうした虚偽報告が29カ店82名にのぼった。
 第五として、法令等遵守や顧客保護、顧客本位の業務運営に関する役職員の意識が乏しく、経営陣は収益確保やOHR低下を優先し、業務の適切性を確保する内部管理態勢の整備を怠ったことだ。
 東日本銀行は業務改善計画を8月13日までに提出し、大神田智男頭取が会見を開く。経営陣も不祥事に関与したり、把握したりしていたのか、また持株会社のコンコルディア・フィナンシャルグループも含めてどのような経営責任を取るのかが、次の焦点になっている。

多様な名目での手数料徴求は他行も同じ

 一部金融機関からは、今回の業務改善命令に関して疑問の声が聞かれる。その疑問とは、指摘された不明瞭な手数料について。「禁止されている地公体の制度融資で手数料を取るのは『クロ』だが、プロパー融資で顧客から同意書をもらって手数料を徴求していることの何が問題なのか」「どの名目でどの程度までなら手数料を取ってよいのか。当局が明確にしていないことが問題だ」などの疑問が持ち上がっている。他行でも多様な名目で手数料を徴求しているケースは多く、なかには検査の矛先が自行に向くことを懸念している向きもあるようだ。
 例えば一部のメガバンクや地銀では、不動産融資において担保調査手数料の金額をわざと高めたり、規模が大きくない融資案件でもアレンジャーフィーを得るためにシンジケートローンを組成したりといった、「手数料ありき」の取組みはしばしば見られる。自行の複数の融資を一本にまとめるだけで、ストラクチャード・ファイナンス手数料を徴求する事例も聞かれる。
 また、メガバンクなどでは、不動産業者に土地取得資金を融資する場合、金利をダンピングする代わりに、手数料として融資金額の1%程度を実行時に徴求しているケースもある。住宅ローンでも融資実行時の事務手数料を高くする代わりに、毎月の返済額の「見た目」を安くしている銀行もある。
 いずれの手法も、低い金利を補うため、手数料との「抱き合わせ」によって収益性を高める狙いだ。ある地銀関係者は、「手数料のサービス対価や算定根拠などあってないようなもの。低金利環境でかつ肩代わり競争が激しいなか、アップフロントの手数料で収益を確定しておきたいのはどの金融機関も同じ」と話す。
 東日本銀行の融資実行手数料は「一番多いゾーンで(融資金額に対して)0.5%。ほとんど0.5~~1%に収まっており、法外な水準ではない」(東日本銀行の酒井隆常務)といい、融資金利をあわせて利息制限法に抵触しない範囲での徴求であった。こうした見解のもと、制度融資で徴求していた手数料は商事法定利率(年6%)を上乗せして返戻するが、プロパー融資などについては個別に返戻を検討する。

金融検査のあり方に影響も

 金融庁が東日本銀行に立入検査の通告を行ったのは咋年12月上旬。金融庁は、石井道遠頭取(当時)が指揮する同行のガバナンスや特定融資先(てるみくらぶやジャパンライフ等)に対する営業・審査態勢に疑念を抱き、「石井頭取の退任」という“落とし所”を持って検査に臨んだ。
 金融庁の問題意識に基づきガバナンス態勢や融資審査などに関する検査が進んでいったが、今年2~3月にかけて池袋支店などでの深刻な不祥事を把握。これを受けて春先に再度検査に入り、融資の実態を知悉調査した。検査期間は通算すると異例ともいえる約半年間にわたり、当初の問題意識とかけ離れた金融検査へと発展した。
 ある金融庁の関係者は「(東日本銀行の)現場の実態を検査官は何もわかっていなかった。オフサイト中心の検査のあり方について反省しないといけない」と振り返る。近年、金融庁では地域金融機関に対する金融検査のあり方が、事務年度ごとに大きく振れてきた。一昨年はベンチマークや企業ヒアリングを中心施策として、金融仲介機能の発揮に関する検証に力が注がれ、咋事務年度はビジネスモデルの持続可能性に課題がある地銀・第二地銀への検査が中心だった。この間、以前の定例検査で見てきたようなコンプライアンスや個別融資先への資産査定は隅に追いやられ、「本来やるべきことがおざなりにされてきた」(同)。その結果なのかは不明だが、鹿児島相互信用金庫、スルガ銀行などでも驚愕の不祥事が相次いで発覚している。
 金融庁内には「立入検査によるコンプラの検証に少し力を入れただけで、かくも不祥事案が露呈した。金融検査のあり方は見直しが必要」(幹部)との声が少なくないが、「ゴリゴリの検査スタイルに先祖返りするのは論外」(別の幹部)。新長官のもとで新たな船出となる金融庁だが、どこまで揺り戻しの力が働くのかが注目される。