新聞の盲点

一般社団法人金融財政事情研究会創立と同時に創刊された、金融の専門週刊誌『週刊 金融財政事情』に掲載のある記事になります。

2018.08.27.

遠藤新体制の金融庁、始動1カ月で見えてきた姿

これからどのような手腕を発揮するのか(金融庁の遠藤俊英長官)。

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※『新聞の盲点』は、『週刊 金融財政事情』に掲載されている記事です。『週刊 金融財政事情』の詳細はこちらから

3年ぶりの長官交代、大規模な組織再編も実施(いずれも7月17日)されるなど、文字どおり新体制となった金融庁。遠藤俊英新長官のもと1カ月余りが経過したが、早くも金融業界に強い印象を与えているのが総合政策局の際立つ存在感だ。一方、これまで中核的な存在だった監督局の影は薄く、さらには全国の財務局の権限が強化され、その役割が大きくなりつつある。遠藤体制が始動して1カ月。従来以上にオン・オフ一体の組織運営を目指すはずの金融庁に何が起きているのか。

際立つ総合政策局の存在感

トルコリラが急落し、連鎖的にその他の新興国通貨にも売りが波及して世界経済を揺さぶった8月上旬。金融庁は大手行に対して、「トルコショック」が各社の有価証券ポートフォリオや貸出ポートフォリオにどのような影響を与えるのか、緊急調査を実施した。この調査をメインで担当したのは、総合政策局プルーデンス部門の「大手銀行モニタリング室」。ある大手行の幹部は「金融庁に報告する計数の取りまとめに苦労し(新体制の)洗礼を浴びた印象。日々、緊張感がある」と顔を曇らせる。
また、驚愕の不祥事が次々と明るみになっているスルガ銀行事案でも、検査の中心を担っているのは総合政策局。すでに検査は長期化しているが、「スルガ銀行の立入検査に従事しているのは総合政策局の行政官ばかり。監督局の姿が見えない」(関係者)といった声が聞かれる。仮想通貨に関しても、仮想通貨交換業者を所管しているのは監督局の金融会社室だが、総合政策局が担当する場面が多いようだ。さらに、「マネー・ローンダリング」や「顧客本位の業務運営」といった個別の重要テーマも総合政策局が担っている。
金融庁が7月17日の組織再編で、これまでの「総務企画局」「検査局」「監督局」の体制を、「総合政策局」「企画市場局」「監督局」の3局に再編したのは周知のとおり。「金融行政の戦略立案や総合調整の機能の強化」を目的に新設された総合政策局には、旧総務企画局の官房部門約230人が配置されたほか、旧検査局の「マクロ・専門分野別チーム」約270人が合流し、全体で約500人の大所帯となっている。かたや旧総務企画局から官房部門が切り離された企画市場局は200人弱の体制。監督局はというと、旧検査局の「業態別チーム」約120人が合流したが、それでも総勢約430人の陣容だ。担当する業務の注目度に加えて、数のうえでも総合政策局が他局を圧倒している。
目を見張るのは、総合政策局の人の多さだけではない。手厚い布陣となった官房部門も注目に値する。咋事務年度まで、政務・人事・国会対応等の官房業務は旧総務企画局の総括審議官を中心に、官房担当の参事官や総務課長らが担う体制だった。だが、総括審議官は多くのリソースを政策立案に割いていたため、実際に中心となっていたのは参事官と総務課長。それが今事務年度からは、総合政策局の総括審議官の主要業務を官房に絞り、さらには新設された「秘書課」が専担チームとして官房業務を担う体制を敷いている。

監督局は保険業務がメイン?

「総合政策局の存在感が際立つ」。新体制となった金融庁の日常業務や組織図を目の当たりにした金融機関からは、こんな感想が聞こえてくる。今般の組織再編に際して、金融庁が17年8月に発表した「平成30年度 機構・定員、予算要求」では、「立入検査は監督局の業態別の担当者と総合政策局の専門別チームが共同で行う」との方針が示されており、どちらかというと監督局が主体になるものだとみられていた。だが、蓋を開けてみれば、立入検査は総合政策局が主体となって実施しているケースが大半。金融機関からすると、「総合政策局のプルーデンス部門は、かつて巨大な権限を持っていた旧検査局に比類する存在に見える」(大手行幹部)ようだ。
一方、総合政策局と比べて影が薄いのが監督局。前述のとおり、大手行や地銀に対するリアルタイム・モニタリング、立入検査は総合政策局が主体となっており、証券検査においても証券取引等監視委員会の存在が目立つ。
組織内外の多くの関係者から聞かれるのは、「監督局の当面のメインテーマは銀行や証券ではなく、保険業務」という見方。栗田照久監督局長はかつて参事官として保険を担当しており、「保険業界・保険業法に詳しい監督局長として、新監督局を総括するのに適任だった」(関係者)との評価もある。実際、栗田監督局長は7月、就任最初となる主要行との意見交換会で、外貨建て保険・年金の苦情が増えている状況について警鐘を鳴らしている。

権限強化で大きな役割を担う財務局

総合政策局と同様に、足もとでその存在感が高まりつつあるのが全国の財務局だ。ここ数年、地銀・第二地銀のモニタリングは金融庁が担当していたが、今後は財務局に行政権限を委譲したうえで、金融庁と財務局の役割分担を明確化する。具体的には、リスクが複雑な大手地銀および金融機能強化法に基づき公的資金が注入されている金融機関などのモニタリングは、総合政策局のプルーデンス部門や監督局の銀行第二課が担当し、大部分の地域銀行のモニタリングは財務局が担当する。
金融庁では、財務局のモニタリングをサポートしていくチームも発足させている。総合政策局のプルーデンス部門に設置された地域銀行分析室と地域銀行モニタリング室だ。頻繁に地方に出向いて地銀・第二地銀に対してヒアリングを実施し、各地銀について得られた情報を分析して財務局に提供する。その情報をもとに財務局が有効なモニタリングを行っていく循環を目指す。財務局の金融行政を巡っては、地域銀行の頭取・社長に対して実施している定例ヒアリングで「手ぬるい質問ばかりしている」(財務省幹部)など手厳しい評価もある。金融庁は財務局における金融行政の質を向上させるため、今まで以上に財務局に奮起を促す構えだ。
もっとも、遠藤新長官が取り組む施策や姿勢が明確になるのは、昨事務年度の金融行政を総括した金融レポート、並びに新事務年度の金融行政方針が示される9月末以降。ある金融庁幹部は「現段階で局や課の存在感を結論付けたり、遠藤長官の手腕を判断したりするのはナンセンス」と一蹴する。
確かに、組織図(局・課・室)ではなく、特定の担当者にテーマを任せたうえで臨機応変にチームを作り、組織図をバイパスしながら政策を進めていくのが昨今の金融庁の行政運営手法であり、それは今事務年度も変わらないはず。今後、時間が経過していく中でこうした組織運営のあり方が成熟し、局の存在感に変化が見えてきたり、新たな施策が打ち出されたりするだろう。遠藤長官がどのように金融行政の舵を取るのか、金融業界が固唾(かたず)をのんで見守っている。