新聞の盲点

一般社団法人金融財政事情研究会創立と同時に創刊された、金融の専門週刊誌『週刊 金融財政事情』に掲載のある記事になります。

2018.09.10.

売手・買手の思惑一致で加速する「仮想通貨交換業者」のM&A

コインチェックの買収を発表するマネックスグループの松本大社長(写真左)。

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※『新聞の盲点』は、『週刊 金融財政事情』に掲載されている記事です。『週刊 金融財政事情』の詳細はこちらから

1月に起きたコインチェックの巨額流出事件以降、度重なる行政処分やみなし仮想通貨交換業者の撤退など、激震が続く仮想通貨業界。そんななか、大手のIT企業が仮想通貨交換業者を飲み込むM&Aが相次いでいる。金融庁の新規登録審査が格段に厳しくなり、規制強化も見通される中で、早期に参入したい大手資本と、早く身売りしたい仮想通貨交換業者の思惑が一致しているためだ。すでに全みなし業者が大手資本に飲み込まれており、登録業者の争奪戦も熱を帯びている。


みなし業者が続々と買収される訳

 楽天は8月31日、みなし仮想通貨交換業者(みなし業者)のみんなのビットコインを買収することを発表した。10月1日に、みんなのビットコインの親会社であるトレイダーズインベストメントから、2億6,500万円で全株式を取得する。楽天は、ネット通販や実店舗での決済などにおいて仮想通貨を用いることを見込む。
 コインチェックの巨額流出事件以来、金融庁による立入検査や行政処分を経て16社あったみなし業者は次々と撤退。現時点で、みなし業者はコインチェック、みんなのビットコイン、ラストルーツの3社のみとなった。コインチェックは4月にマネックスグループが36億円で全株式を取得して完全子会社化している。ラストルーツは、8月にSBIグループが追加出資と役員を派遣し経営支援に乗り出している。楽天によるみんなのビットコイン買収によって、みなし業者全社が大手資本の傘下となった。
 仮想通貨交換業者の新規登録申請を行う企業は百数十社にのぼると伝えられているが、ここには電話での問合せなどもカウントに含まれているため、「実際に登録を目指しているのは半数以下」(金融庁関係者)という。それでも50社程度が新規登録の列をなしている。後述のとおり、金融庁の新規登録審査が格段に厳しくなる中で、登録の可否判断が優先して行われるみなし業者を買収すれば、長蛇の「順番待ち」を一気に追い抜くことが可能になる。しかも、行政処分の指摘事項によって態勢不備の箇所が明らかになっているため、正規登録業者(登録業者)に向けて「何を改善すればよいか」も明確になっている。つまり資本力のある大手企業にとり、みなし業者は「時間をお金で買える存在」というわけだ。

登録業者にも「身売り」の事情

 大手資本が狙うのは、みなし業者だけではない。登録業者のビットアルゴ取引所東京は4月にヤフー子会社の出資を受けて、ヤフーグループ傘下となっている。ビットアルゴはまだ営業を開始しておらず、顧客も存在していない「ハコ業者」。それにもかかわらず、ヤフーは40%の株式を20億円超の金額で取得したと見られる。登録業者としてライセンスを取得していることへのプレミアムといえるが、業界ではこの取得実績が「買収によるライセンス取得価額の目安」(仮想通貨交換業者幹部)と考えられているようだ。登録業者の中には、以前から身売りを模索しているものの、「あまりの高値をふっかけていて買い手がつかない業者もある」(業界関係者)という。
 みなし業者のラストルーツに出資するSBIには、グループ傘下にSBIバーチャル・カレンシーズという登録業者が存在する。ある仮想通貨交換業者幹部は「ラストルーツもグループ傘下に収めるというよりは投資目的」と推測し、「経営支援を行って登録業者になれば、高く売り抜けることが十分可能」と話す。登録業者の買収に関心を示している中国企業もあるという。
 大手資本が登録業者を買収してまで早期参入に意欲を見せるのは、その収益性の高さにある。マネックスグループの2018年3月期決算では、子会社となったコインチェックの業績も明らかになり、売上高626億円、営業利益537億円という高収益ビジネスが白日のもとにさらされた。今後、手数料率が低下していくことで仮想通貨交換業者の収益性は低下すると見られるが、それでも巨額の利益を稼げるチャンスは魅力だ。
 他方で、登録業者にも“身売り”したい事情がある。金融庁は3月に、仮想通貨に対する規制や法制度の問題点を議論する有識者会議を設置。さらには今後、厳格な自主規制も導入される見通しで、仮想通貨交換業者をとりまく規制は大幅に厳しくなることが予想される。今後導入される自主規制を遵守するには、「相応のコストがかかる」(仮想通貨交換業者幹部)のは不可避。自主規制は「証券とFXの間くらいの厳しさになる見通しで、数億円程度のIT投資では済まない」(同)とみられ、「資本的に体力のない登録業者は身の振り方を考えなければならない」。
 自主規制を策定している日本仮想通貨交換業協会は8月2日、金融庁に対して自主規制団体の認定申請を行った。現在審査中だが、「必要な人員を半分ほどしかそろえられておらず、体制が整っていない」(業界関係者)状況という。認定の条件は「すぐに稼働できる状況にあること」(金融庁関係者)。足もとでも人材確保に難航しているため、認定はもうしばらく先になりそうだが、認定されれば、すぐに自主規制が発動されるとみられる。自主規制の導入が近づくにつれ、登録業者の身売りが一段と活発化する可能性がある。

厳格化される新規登録審査

 金融庁は、コインチェックの巨額流出事件を受けて行ったみなし業者、登録業者に対する立入検査の結果を8月10日に発表した。検査が一段落したことで、金融庁では立入検査に割かれていた大規模なリソースを新規登録の審査にあてることができるようになったが、すぐに新規登録業者が現われることはなさそうだ。
 審査にあたっては、所定の申請書類のほかに、事務ガイドラインの項目を補足する「質問票」への回答が求められる。仮想通貨交換業者のガバナンス態勢の不備を重く見た金融庁は、新規登録の審査を本格化するにあたり質問票の項目を刷新。特にガバナンス、経営管理、システムリスク管理、マネー・ローンダリング対策に関する項目を充実させ、質問項目は従来の4倍となる約400に増加した。新規登録に向けて、すでに従来の質問票の回答を提出していた事業者もあらためて回答が求められる。
 この質問票への回答づくりに時間を要するほか、金融庁による回答内容のチェックやオンサイトで直接現場を見る確認作業などもあるため、「従来よりも審査時間が大幅にかかる」(金融庁関係者)ことは言わずもがな。そのうえ、同じ轍を踏みたくない金融庁は「質問をして、返答を聞くだけでは不十分。仮想通貨交換業者の言うことを信用していたが、一つひとつ証拠を取る必要がある」(関係者)として、審査にあたって入念な確認作業を行う構えだ。
 新規登録申請を行う事業者の中には、「規制が強化される前に参入して短期間でも構わないので自分たちもひと儲けできればと考えているところもある」(金融庁関係者)という。だが、収益面だけを期待して入念な準備を欠く事業者には、高いハードルが待ち受けていることは間違いない。