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2018.10.01.

景気最優先で積極財政へ、アベノミクス最後の戦い

任期中にデフレ脱却宣言を唱えることはできるか

安倍晋三首相は自民党総裁選で石破茂元幹事長を破り、3選を果たした。ただ、石破氏の思わぬ善戦は自民党員にも「安倍一強」への反発が広がっていることを浮き彫りにし、首相の求心力にも影が差す。危機感を強めた安倍首相は来年の参院選や消費税増税を乗り切り、悲願の憲法改正に必要な内閣支持率を上昇させるため、当面は積極財政による景気浮揚を目指す。一方、待ったなしといわれて久しい財政再建や社会保障改革への本格着手は先送りが濃厚だ。

石破善戦、揺らぐ挙党一致

 「麻生さん、大臣辞めるのかな?」。石破氏の追い上げで安倍首相の楽勝ムードが一変した9月中旬、ある財務省OBは心配そうだった。一部とはいえ、党内では世論の批判を受けた森友問題のけじめが必要だと訴える声があり、副総理として閣内に残るものの財務・金融相は交代するといった憶測が飛び交っていた。
 「安倍晋三君553票、石破茂君254票」。9月20日午後、自民党本部で総裁選の開票結果が読み上げられた瞬間、両陣営の明暗は分かれた。善戦のメルクマールとされた200票を大幅に上回り笑みを浮かべる石破陣営とは対照的に、安倍陣営の甘利明選対事務総長は苦虫をつぶしたような表情を見せた。
 党員・党友票による地方票で石破氏は45%を取り、「安倍一強」への反発は自民党員にも広がっていることが浮き彫りになった。政策論争の少なさに加え、森友・加計問題で十分に説明責任を果たさなかったことが響いたとの分析もある。総裁選後、安倍首相は麻生氏を副総理兼財務・金融相として続投させる意向と伝えられているが、党内の不満は総裁選後もくすぶり続けている。

積極的な財政出動に舵

「秋の臨時国会に補正予算案を提出する」「来年は思い切って財政出動も含めて(消費税増税)対策をやっていきたい」。3選後の首相は記者会見や報道各社とのインタビューで早速、積極財政を宣言した。かつて2度先送りした消費税率10%については「予定どおり(2019年10月に)引き上げる」と明言する一方で、増税後の需要減が懸念される住宅や自動車など耐久財の消費テコ入れに向けた減税にも意欲を示している。
 災害が相次いだことも積極財政の口実になる。9月上旬、台風21号の直撃で関西国際空港が使用できなくなったほか、北海道胆振東部地震で道全域が停電するブラックアウトも発生した。インフラの脆弱性が露呈したかたちで、総裁選の期間中、安倍首相は何度も「国土強靱化」という言葉を口にした。補正予算案はその第一弾となる可能性が高い。
 すでにプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標は20年度から25年度に先送りしており、積極財政を阻む制約はない。消費税増税で得られる財源については財政再建に回すぶんを減らして、そのぶんを教育予算などに充当することも決めた。最大の公約である「デフレ脱却」を総裁任期中に宣言したい安倍政権にとって、タイムリミットは残り3年。景気の腰を折った14年4月の消費税増税と同じ轍てつを踏まないためにも、「消費税増税の影響を相殺できる規模の積極財政に打って出るのでは」と見る市場関係者は多い。
 会田卓司ソシエテ・ジェネラル証券チーフエコノミストは「総裁選の最も重要なインプリケーションは財政政策の緩和方向への動きが強くなること」と指摘する。そのうえで「来年の統一地方選と参院選の勝利のためには、景気拡大の実感を国民に早く感じてもらう必要がある。総裁選の地方票で石破氏に追い上げられたことを考えても結果を出すことが急務」とみて、教育投資や生産性向上、インフラ対策、少子化対策など、総合的な財政政策が実施されると予想する。
 一方で、少子高齢化時代の社会保障改革も急務だ。治療や入院で医療機関に支払われた医療費は17年度に42兆2316億円(速報値)と過去最高を更新した。25年には団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、医療費は一気に膨張する。すでに日本の債務残高の対GDP比は240%と、先進7カ国(G7)で最悪の水準。国の一般会計予算の約3分の1を占める社会保障関係費の抑制は財政再建にも直結する。
 経済界からは医療や介護サービスを受ける高齢者の自己負担増を求める声や消費税率を10%からさらに引き上げるべきだといった意見もある。小手先の改革ではなく、負担と給付のあり方を含めた持続可能な社会保障制度の構築に向けた大方針を打ち出すことはまさに喫緊の課題だ。
 総裁選で、社会保障改革を問われた安倍首相は、「3年間で社会保障制度のあり方について、人生100年時代に備えてしっかり改革を行う」と表明。一例として、65歳を過ぎても継続雇用される仕組みや、年金受給開始年齢を70歳以降も選べるようにする制度作りに意欲を示した。
 だが、改革の具体策に乏しく、社会保障改革や財政再建への本格着手は先送りが濃厚。アベノミクス第1の矢である金融政策が限界に達するなか、2%物価目標の達成に向けて、第2の矢である積極財政での景気浮揚を最優先するとみられる。

8月CPIは1.3%に上昇も今後の物価見通しは不透明

この記事の続きは『週刊 金融財政事情 2018年10月1日号(3279号)』に掲載されております。『週刊 金融財政事情』の詳細はこちらから