債務者または根抵当権者が合併した場合、設定者が保証人であるときでも根抵当権の元本の確定請求をすることができるか
根抵当権設定者は確定請求をすることができる。
根抵当取引において、根抵当権者あるいは債務者について合併があったときは、根抵当権は合併の時に存する債権のほか、合併後存続する法人または合併によって設立した法人が合併後に取得しあるいは負担する債権・債務を担保するものとされている(民法398条の9第1項・2項)が、一方、根抵当権設定者はこのような場合には元本の確定を請求することができることとされている(同条3項本文)。
これは、根抵当権者あるいは債務者の合併によって根抵当取引が当然に合併後存続する法人または合併によって設立した法人に引き継がれることを明確にするとともに、根抵当権設定者を保護すべき手続として、もし根抵当権設定者がこのような結果を承認することができないときには、根抵当権によって担保される元本の確定を請求することができるものとしたのである。そして、この請求があったときには担保すべき元本は合併の時に確定(注)したものとみなされる(同条4項)。
これは、債務者が自らの意思によって合併をしておきながら、根抵当権設定者の立場から根抵当権の元本の確定請求をすることは不適切であり、保護する必要がないからである。
債務者の合併は根抵当権者の意思に関係なく行われるのであって、これはいわば債務者側の事情である。このような事情に基づいて債務者が同時に根抵当権設定者である立場を利用して根抵当権の元本の確定請求をすることを許した場合には、根抵当権者の意思はまったく無視されてしまう。しかし、債務者の合併が根抵当権設定者たる債務者の意思に基づかないような場合には確定請求をすることができる。たとえば、根抵当取引における債務者が数人存在しそのうちの1人が根抵当権設定者であるというような場合、根抵当権設定者でない他の債務者について合併が行われた場合には、根抵当権設定者として確定請求をすることができると解されている(清水湛「新根抵当法の逐条解説(中)」金法619号12頁)。
前記のように
なお、根抵当権者について合併が行われる場合には、根抵当権設定者が同時に債務者であろうと保証人であろうと確定請求ができることにかわりはない。
根抵当権者の合併、根抵当権者の会社分割の書式については小林明彦=藤本忠久編集代表『担保書式便覧〔不動産編〕』No.60、61、債務者の合併、債務者の会社分割の書式については前掲『担保書式便覧〔不動産編〕』No.68、69を参照。