III巻 貸出・管理・保証 編
30662限定承認と回収上の注意点

債務者死亡により相続人が限定承認した場合、回収上どのような注意をすればよいか

結論

① 債務者が死亡して、相続人全員で限定承認をした場合は、まず、限定承認の有効性、特に法定単純承認事由の存否について検討する。

② 有効性が確認できれば、その通知または公告のあった期間内に債権の届出をする。ただし、限定承認があると、被相続人の財産以外に相続人の固有財産からは回収が受けられなくなる。

③ 担保権や保証は、限定承認があっても、その権利に影響を生じないから、直ちに担保権の実行をすることができるし、保証人に対して履行請求することもできる。


解説
◆限定承認

限定承認とは、相続財産が債務超過のおそれがあるような場合に、相続人が相続によって得た財産を限度としてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済することを条件として相続を承認することをいう(民法922条)。

限定承認は、相続人が数人あるときは、相続の放棄をした者を除き、その全員が共同してのみ行うことができるが、限定承認を行うためには、相続人は相続開始を知った時から3カ月以内に財産目録を調製して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述し(民法923条・924条)、受理(効力発生要件)されれば、その後5日以内にすべての債権者に対して限定承認をしたことおよび一定の期間内に(2カ月を下ることはできない)債権を申し出るよう公告し、知れたる債権者に対しては、この旨を通知しなければならない(同法927条)。

◆限定承認の有効性の確認

限定承認がなされると相続債権者は回収方法に制限を受けるので、まず、限定承認の効力の有無を調べる。

すなわち、相続人のうちのだれかが民法921条の法定単純承認に該当する行為を行うと限定承認の効力は失われるので、財産目録の閲覧により財産の変動の有無を注視する必要がある。

さらに、不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができないとの判例(最判平10.2.13民集52巻1号38頁)もあるので、被相続人の所有資産調査を行っておくべきである。

以下は、限定承認の効力がある場合についての記述である。

◆債権の届出

債権者は、公告または通知によって限定承認が行われたことを知ったときは、定められた期間内に債権の申出をしなければならないが、債権申出の様式については別段の定めがないので、破産、更生手続などにおける債権届出の様式に準じて作成してさしつかえない。実務では届出書を持参し、その写しに受領印を徴求し確定日付をとっておくか、または配達証明付内容証明郵便にて届出をしておくべきである。

また、債権申出にあたっては、利息、損害金の金額を加算して申し出ることはもちろんのこと、期限未到来の債権についても債権全額の申出をする必要がある(民法930条)。もし、公告所定の期間内に債権を申し出ない場合には、期間内に申し出た者と知れたる債権者とに分配してなお残りがあったときだけに弁済を受けることになるから注意を要する(同法935条)。

限定承認者は公告所定の期間満了前は債権の弁済を拒絶することができ、この期間内に事情を知って不当に弁済を受けると、他の弁済を受けることができなくなった債権者から求償されることになっている(民法928条・934条)。

申出期間満了後は、相続財産を競売その他法律に定める換価方法によって換価し、申出をした債権者と知れたる債権者に債権額に按分して弁済されることになる(民法929条・932条)。

◆担保権等に及ぼす影響

もっとも、限定承認は相殺権や担保権ならびに保証の効力には影響を及ぼさないから、債権届出期間中でも相殺ができるし、担保権者は担保物の換価代金について優先弁済を受けることができる。さらに、保証人に対して保証履行を請求することもできる。また、申出期間内における債権の申出のいかんにかかわらず、自ら担保権の実行をして債権の弁済に充当することができる(民法929条ただし書・935条ただし書)。ただし、その担保権は第三者対抗要件を備えているものであることを要する。さらにこの担保権の実行は、申出期間満了前であっても、また弁済期前の債権についても直ちにできると解されているが、限定承認をする者以外の第三者の所有物件に対しては弁済期後でなければ担保権実行はできない。

なお、担保物について債権者の任意処分を認める特約も限定承認によって影響を受けないと解されるが、普通の場合より処分価格の当不当が問題となることが多いと思われるから、取引所の相場があるものは別として、なるべく任意処分を避けて競売手続によるのが無難といえよう。

なお、限定承認における換価方法等については、あわせて【30663】を参照されたい。