週刊金融財政事情 2022年2月15日号 ≪特別企画≫ 

〔週刊 金融財政事情 2022年2月15日号掲載〕

 ATMの運用において全国でユニバーサルサービス体制を確立しているSocioFuture株式会社は、2022年1月1日に社名を日本ATM株式会社から変更した。主力事業である金融分野に加え、行政、健康分野への明確な方向性を指し示すためだ。
 SocioFutureは、ATM監視業務や警備連携業務で構築したソリューションを、金融分野だけでなく、行政、健康分野にも展開し、社会的課題の解決に取り組んでいる。その具体的事例を見ていくと、行政分野では、金融機関と行政双方の業務効率化に寄与するサービスとして、預貯金等の照会を電子化するサービス「DAIS」等を提供し、健康分野では、医療機関での診療が必要な重症化予防対象者への健康指導やオンラインによる診療予約業務等を担っている。
 事業領域を拡大させる狙いとグループ全体のビジネスモデルの将来像とは何か。新社名とともに新たな一歩を踏み出す今後の展開を、中野裕代表取締役社長に聞いた

  • 1月1日に「日本ATM」から「SocioFuture」に社名を変更し、経営理念も新たに定義されました。社名を変更した背景や意図について教えてください。
  • 中野 「Socio」には、よりソーシャルな社会に寄り添った事業領域に挑戦する強い意思を、「Future」には、将来に向けた発展を目指すことの決意をそれぞれ込めています。既存の主力事業である金融分野に加え、行政や健康分野等の新しい事業領域にもグループとして本格的に取り組む節目の年として社名を変更しました。
     社名変更に合わせてグループの経営理念や使命も進化させ、「ハイタッチなオペレーションで、もっと優しい社会に。」を掲げました。当社には、24時間365日のコールセンターや警備員によるATMのトラブル対応等で培った「人によるお客様に寄り添ったサービス」のインフラがあります。このインフラをより広い生活分野で活かし、人口減少が著しい地域、高齢者の多い地域でも、"社会にハイタッチ"できるソリューションを提供していきます。

 

  • 事業領域を行政分野や健康分野に広げている狙いについて教えてください。
  • 中野 当社は、1999年に日本NCRからATM事業を分離して創業して以来、ATM監視を中心に多くの金融機関と様々な業務の共同化を進めてきました。キャッシュカードや通帳の紛失対応、インターネットバンキングのヘルプデスク、手形・税公金事務集中業務等を、全国17カ所の拠点で運営しています。
     また、現在69金融機関の勘定系端末をお預かりし、緊急時における口座取引の差し止めオペレーションを担っているほか、ゆうちょ銀行様との協業を通じて約60社の警備会社と連携しており、いざとなれば全国津々浦々まで人によるサービスを届けられるネットワーク力を持っています。
     こうした強みを活かして金融機関の課題解決を支援していくなかで、行政から委託を受けて金融機関が担う業務に「書類と人手」で行われている事務が少なからず残っていることに気付きました。こうした事務をデジタル化し、双方にとって大きなコスト削減を実現したのが預貯金照会サービス「DAIS」です。DAISの応用を含め、まだまだDX推進の余地は大きいと考えています。
     次に、行政が問題意識を持っている課題の1つに、社会保障費の増大があります。健康寿命を延ばすための医療基盤や健康サービスの充実が、医療費の抑制のみならず、安心な老後が期待できるという自治体のブランドとなり、高齢層移住者の増加、さらに医療従事者向けの環境整備による若い世帯の転入増加につながると期待されます。当社は、規制緩和を受けた遠隔診療のインフラ提供や住民の健康サポートサービスを、既存の金融インフラを活用してより安価に提供することで、安心の生活インフラを整備し、地域の活性化に貢献したいと考えています。

 

  • 3つの事業領域のうち、行政分野では主にどのような事業展開を考えていますか。
  • 中野 金融と行政に関連するソリューションとしては、2018年にスタートした預貯金照会サービス「DAIS」があげられます。
     行政機関では、税金の滞納者等の財産調査を行いますが、いまだに書類で金融機関に口座の有無確認を依頼し、金融機関も照会結果を書類で返すという非効率な作業が発生しています。DAISを使えば、電子データベースで照会依頼から口座確認、回答までワンストップで行うことができます。これまで1週間から2カ月かかっていた作業が2日以内で済むようになり、行政・金融機関ともに大幅なコスト削減が実現しました。2021年11月時点で28都道府県の186行政機関(224部署)で採用されています。
     このほか、当社は、日本通信様と共同出資しているmy Fintech社が開発した、新しい電子認証サービス(FPoS)の商用化にも取り組んでいます。スマートフォンのサブSIMに電子証明書を登録し、本人認証ツールとして活用するこの仕組みは、次世代スマートフォンIDとして総務省からも認められ、前橋市の「スーパーシティ構想(国家戦略特区指定)」をはじめ国内外での採用が検討されています。
     例えば、前橋市では、FPoSによりシステム登録されたマイナンバー情報等との本人認証機構を「まえばしID」として普及させ、スマートフォンさえあれば官民問わず様々なサービスを受けられるようにするという構想が動き始めています。当社では、このIDの発行にかかる本人確認・登録業務や各種問合せ対応業務を担当し、個人情報を守りながら、キャッシュレス決済、遠隔医療、自動運転等、日常生活の負担や不便さから住民を解放し、「誰ひとり取り残さないまちづくり」をサポートしたいと考えています。

 

  • 健康分野での取組みについても教えてください。
  • 中野 2017年以降、健康診断の受診勧奨と健診予約システムのサービスを展開しています。2020年からは、一次健康診断の結果にメタボ所見がある人向けの遠隔健康指導や、二次健康診断の勧奨を実施しています。さらに、2021年4月からは、重症化予防のための提携医療機関への送客サービスも開始しました。
     また、大阪府高石市が推進している、郵便局を拠点とした「健幸ポイント事業」の実証実験にも参画し、遠隔で管理栄養士の健康カウンセリングが受けられるサービスを提供しました。この取組みは、ウォーキング等市民の日常的な健康増進活動にポイントを付与し、地域商店街で使える商品券等と交換できるサービスです。タニタヘルスリンク様が提供する健康アプリと郵便局に設置した健康測定機器を連携することで市民の「からだカルテ」を作り、健康増進と生活拠点としての郵便局利活用を促そうとする試みです。2021年4月から7月まで行われた実証実験の結果をもとに、次の取組みの準備が進んでいます。当社も積極的に参画していきます。

 

  • 金融分野での取組みと、行政や健康分野での取組みはどのように連携していくのですか。
  • 中野 金融、行政、健康分野とも、業務としては「窓口受付」「コールセンター」「後方事務」で成り立っています。特にこのなかでも、店舗の「窓口受付」業務は人口減少地域では存続が難しくなるでしょう。
     ATMは、カメラや電話、生体認証も備わっている高機能なパソコンです。監視センターで利用状況を常時確認でき、電話応対も可能であり、何か問題が発生すれば30分以内に警備員を送ることもできます。ICTとしてハイテクノロジーであり、ハイタッチなサービスを提供できるATMインフラがあるのに、銀行業務の入出金だけに使用するのはもったいないと考えていました。行政上の手続や健康診断、さらには選挙投票も、システム的にはATMで実現可能です。加えて、監視センターではお客様のオペレーション内容がリアルタイムに把握でき、センターから電話で呼び掛けることもできます。遠隔でも人の顔を見て、人の気持ちを察しながらサポートできる点において重要なコンタクトポイントになるでしょう。
     もう少し先を展望すれば、ATMの利用履歴データが蓄積され、金融・行政・医療機関等の間で共有されることで、利用者の生活実態に応じたきめ細かなサービスが提供できるようになります。ATMの前に立てば、信頼できる人と相談しながら、安心して決済を含む必要なサービスを受けることができる社会を実現したいと考えています。

 

  • 既存の金融分野では、金融機関を取り巻く経営環境が激変し、多様な課題に直面しています。そのなかで、どのようなソリューションを提案していきますか
  • 中野 金融業界は、デジタル化、DX推進による経営効率改善がいっそう強く求められています。当社は、これまで以上に事務やシステムの共通化、エリア単位での共同運営、DX推進等の視点で多様なソリューションを追求していきます。
     金融業界の従来のビジネスモデルは、マイナス金利になった時点ですでに崩れています。とはいえ、地域において最も豊富な人材、情報、資金、インフラを持ち、そして信頼を得ているのは金融機関です。自治体のDXを推進するには、金融機関が自治体同士や地元の企業をつなぐハブとしての役割を担う必要があります。
     しかし、自治体と金融機関だけでは、事務の合理化はできても、事務の「高度化」が難しい場合があります。「DAIS」のように、当社が間に入ることで双方がメリットを享受できる仕組みを提供できる可能性があります。
     このほか、近年では、マネー・ロンダリング対策の強化も金融機関にとってコスト増の要因となっています。当社には、インターネットバンキング取引における不正取引監視やフィッシングサイトの閉鎖対応等の受託実績があるほか、オンラインによる本人確認(eKYC)業務のノウハウも蓄積されつつあります。こうした業務は、金融機関の戦略的サービスではなく、複数機関の共同運営により費用対効果を上げることが可能です。当社が最も得意とする事業領域です。

 

  • 様々な企業が行政や健康分野に狙いを定めるなかで、SocioFutureが目指すビジネスモデルの将来像はどのようなものですか。取組みや強み、特殊性などを教えてください。
  • 中野 ハイタッチなインフラを提供できることは当社の強みです。全国に展開する24時間365日のクレーム処理、緊急対応中心のコールセンターと津々浦々をサポートする警備会社とのネットワークのインフラ、そして多くの金融機関より勘定系端末をお預かりしている当社の信頼は大きな強みです。
     ただ、当社は機器メーカーではありませんし、先進的なアプリを開発するソフトウェア企業でもありません。そうした先進的な技術力を持つ企業と有機的な連携を図ることで、当社の強みを活かしつつ、先進的なサービスを世に送り出したいと考えています。遠隔診療のトップベンチャーであるMICIN様や「健康づくり」企業のタニタ様との協業推進等がこの典型例で す。高齢化が一段と進むなかで、すべての利用者が最先端のICTを使いこなせるわけではありません。最先端のICTを日常生活のなかで安心して使ってもらえるよう、利用者に寄り添ったサポートを真心込めて提供する、それが当社の目指す「ハイタッチなオペレーション」です。
     最後に、海外での事業展開について。2022年からタイ・バンコクでコールセンター業務を開始します。日本国内でのセンター運営コストの大半が人件費ですので、この低減とお客様へのメリット還元が主な目的ですが、災害大国である日本での業務継続リスクへの対応という面も強く意識しています。タイには日本語の教育機関が数多く存在し、日本語を話せる人が多いこともあり、将来の主力センターに育てていきたいと考えています。
     さらに、当社のバンコクセンターで勤務して日本語やビジネスマナーの教育を受けた社員を日本に迎え入れ、金融機関や医療・介護の現場で高度なスキルを身に付けて活躍していただくことも考えています。労働力人口が減少する日本で、貴重な戦力になってほしいと思います。仮にタイに戻られるとしても、日本で習得した先進的なスキルで、タイの医療・介護の現場をリードする人材として活躍されることも期待できます。バンコクセンターは、アジアと日本の様々な事業分野でSocioFuture流のハイタッチなオペレーションが定着することを通して、「もっと優しい社会」を世界に広げていきたいという壮大な夢への第一歩なのです。
     SocioFutureグループは、これまでに培ったノウハウと信用、新たなことに挑戦するベンチャー精神をフルに動員し、世界に向けて「もっと優しい社会」の実現を目指します。