総資産6兆円の金融グループで多彩で厚い課題解決サービスを提供する 日本M&Aセンター◆特別企画◆
〔週刊 金融財政事情 秋季合併号掲載〕
※本鼎談は2022年7月22日に実施したものです。
銀行員としてのスキルをベースにコンサル能力を発揮すればより地域に貢献できる
青森銀行 頭取 成田 晋 (なりた すすむ)氏
1954年生まれ。78年青森銀行入行。仙台支店長、東京支店長等を経て、2008年執行役員審査部長、11年常務取締役、14年専務取締役、15年から現職。22年、プロクレアホールディングス代表取締役社長。
コロナ禍で不確実性が増す中、統合・合併は地元にとって心強いメッセージとなる
株式会社日本M&Aセンターホールディングス 社長 三宅 卓(みやけ すぐる)氏
1952年生まれ。91年日本M&Aセンターの設立に参画。92年取締役、2008年社長に就任。日本M&Aセンターは、07年に東証一部に上場。21年10月純粋持株会社体制に移行し、22年4月より東証プライムに上場。
[コーディネイター]
株式会社きんざい 社長 加藤 一浩(かとう かずひろ)
1962年生まれ。86年株式会社金融財政(現株式会社きんざい)入社。出版部・業務企画部・東京営業本部等を経て2011年取締役出版部長。13年より現職。きんざいグループCEO。
「第7波」襲来で重要さ増す本業支援
- 加藤 コロナ禍が長期化している上に、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で原材料の仕入価格やエネルギー価格も高騰している。コストアップ要因が続く中で、地元の景況感や取引先企業の状況はどうか。
- 成田 コロナ禍拡大当初は、まず中小企業に対して資金繰りをどう支えるかが課題となった。実質無利子・無担保融資などによって迅速なサポートを行った結果、法人預金も高止まりしてきており、全般的には取引先に資金繰りの手当てが行き届いたのではないか。ただ、コロナ禍に伴うインバウンドの落ち込みや自粛によって、飲食や観光といった業種はいまだに大きな影響を受けている。ようやく感染拡大に落ち着きが見えたと思ったところに「第7波」が襲いかかり、今後どのようなかたちで取引先に影響が及ぶのか、注視していきたい。
加えて、足元の円安やウクライナ情勢の緊迫化によって原材料が高騰している上に、物流も滞りがちだ。例えばコンタクトレンズのような身近な医療品も海外からの輸入品が多く、手に入れづらい種類もあると聞く。われわれが考える以上に、商流の停滞はいろいろな分野で起きている。簡単に解決できることではないが、地域金融機関としての知識・専門性を生かしてサポートしていきたい。
取引先の資金使途として、運転資金だけでなく、設備投資の案件も増えてくると、当行としても支援できるメニューが増えてくるが、足元の環境悪化で一歩踏み出せないのが現状だ。こうした中、取引先がわれわれに最も求めているのは「本業支援」だろう。その期待に応えられなければ地域金融機関としての存在価値はない。できる限り営業のアンテナを高く張って、融資にとどまらない幅広い支援のあり方を探っていきたい。
切磋琢磨してきた2行で地域の未来を共に創る
- 加藤 2022年4月にプロクレアホールディングス(HD)を発足させた。傘下の青森銀行とみちのく銀行は25年1月に合併を予定している。地元2行が合併する意図は。また、プロクレアHDとして3つの経営理念「地域の未来を創る」「お客さまと歩み続ける」「一人ひとりの想いを実現する」を掲げているが、具体的にどのような取組みを進めていくのか。達成への手ごたえは。
- 成田 これまで青森銀行とみちのく銀行は、青森県を中心に切磋琢磨してきた。2行は歴史や企業風土は異なる部分もあるが、地域をより発展させていきたいというゴールは同じだ。そのゴールに向けた最適解が統合・合併であり、持株会社としてのプロクレアHD発足だ。プロクレアという社名は、ラテン語の「挑戦(Provocatio=プローウォカティオ)」と「創造(Creare=クレアーレ)」を合わせた造語だ。地域の可能性に挑戦し、未来を創るという使命と、プロフェッショナルとしてお客さまと共に前進するという思いを込めた。
25年の合併に向けて、両行の実務担当者が打ち合わせているが、やはり考え方の違いなどは出てくる。ただ、目指すところが同じであれば、その達成手段は複数の中から選び抜いた方がいい。経営理念の達成のために意見を戦わせることは合併行ならではの強みになるはずで、そうなるよう運営していかねばならないと思っている。
また、両行の取引先の重複は2割強に過ぎず、意外にすみ分けができていた。業種や規模の違いで結果的にそうなっていたのだろう。今後は、お互いリーチできていなかった営業先が増えることになる。取扱商品も広がるので、両行の強みを生かしてシナジーを発揮させていきたい。 - 三宅 銀行目線でいえば統合・合併は地銀の生き残り戦略の一環だが、地元からすると非常にタイムリーで、希望を与える経営判断でもあると思う。構造的な課題として少子高齢化やそれに伴う事業承継問題がある中で、コロナ禍に加え円安に伴う輸入原材料やエネルギーの高騰が相まって、地域経済の閉塞感は強まっている。こうしたときに、「青森の未来のために2行が一緒になってお客さまをよりしっかり支えていこう」というのは、地元にとっては心強い。
- 成田 同じエリアで同レベルの規模を持つ銀行が競合するよりも、地域のために共存共栄を目指す方がいい。合併によって総資産は約6兆円となる。規模ありきというわけではないが、東北有数の金融グループとなることで提供できるサービスの幅も広がるはずだ。これまで両行の「切磋琢磨」の中には、経営体力を削り合う金利競争など必ずしも合理的とはいえないものもあった。そうしたことではなく、お客さまの真の課題解決につながる金融・非金融のサービスを提供していく決意だ。
コロナ禍対応や経営効率化のため、内部的にもデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めているが、お客さまにもデジタル化のご提案をしていかねばならない。他方で、相対でないと手厚いフォローができない分野もある。例えばウェブ会議は便利なツールだが、相手の機微に触れるような場面では、コミュニケーションが取りづらい部分がある。そこは対面の力が求められる。
その典型が事業承継だろう。そうした分野に戦力を振り向けるには、ある程度経験を積んで銀行員的な考え方がしっかりできた上で、プラスアルファの専門知識を備えた人材が必要だ。日本M&Aセンターにトレーニーとして青森銀行の行員を出向させているのもその一環で、行内の高度人材をどんどん増やし、お客さまに対するアドバイスやコンサルティング機能を発揮させていきたい。
銀行ならではのコンサル機能を提供する
- 加藤 プロクレアHDの第1次中期経営計画(22年4月~25年3月)では、「コンサルティング機能の強化」「伴走型コンサルティングの強化」を掲げている。銀行員としてコンサル能力を発揮する秘訣は何か。
- 成田 先ほども申し上げたように、ベースは銀行員としてのものの考え方だ。それが「単なるコンサル」との違いではないかと思う。われわれはお客さまから「ファーストコール」をいただく存在にならねばならない。法人のお客さまが事業のアイディアを思い付いたら、まずわれわれの営業担当に話をしてみよう、という存在になるということだ。
そうしたアイディアの具現化をお客さまと一緒に考えていくためには、やはり金融の知識が欠かせない。そこに銀行員をバックグラウンドとするコンサルの強みがある。専業のコンサルに相談するのもいいが、その場合、事業構想を固めた後から融資を申し込むといった段階を踏むことになる。われわれにご相談いただければ、課題解決とファイナンスを一気通貫で提供できる。 - 三宅 地方において、高度な知識を備えた人材が集まり、組織的に地域の課題解決を担えるのは地銀だ。地方には専門コンサルタントの数も少なく、メガバンクの支店も中心部にしかない。地銀の支店長や営業担当者がいちばん地域のことを知っている。財務も経営も業界動向もわかる優秀な相談員だ。事業承継やM&Aであれば、彼らが地元のお客さまからファーストコールを受け、本部につなぐ。もし、本部で解決できないようなことがあれば、当社のような専門家に相談してくださってもよい。地域の課題解決のハブとして、地銀には非常に重要な機能がある。
- 加藤 20年6月のM&Aバンクオブザイヤーで、「情報開発大賞」を受賞した。最も多くのM&A新規協働受託件数があった提携行に授与される賞だが、事業承継・M&Aを成功に導く要諦とグループ総合力を発揮するための戦略は。
- 成田 これが決め手、というようなものはない。M&Aは数年前よりは身近な話題になったとはいえ、経営者自身の将来を左右するテーマだ。一般論としては気軽に話せても、いざ自社のこととなれば、非常にデリケートな問題だ。そうした機微に触れる話を聞き出すためにはコミュニケーション力が不可欠だ。同時に、金融財政事情研究会が手がける事業承継・M&Aに係る資格試験の取得を奨励し、知識を身に付けていく必要もあると感じている。
情報開発大賞の受賞は私も驚いているが、昨年お客さまから事業承継・M&Aの相談を受けた数は200数十件に上っている。現場の若手がこうした分野の勉強をして、お客さまの信頼を得て営業ができている証左だと思う。
地元のスター企業を生み出すサポートも重要
- 加藤 第1次中計では「人材力の強化」もうたっている。事業承継・M&Aの人材育成策については、どのように考えているか。
- 成田 これからの銀行員にとって、事業承継・M&Aの知識は必須だ。取引先の持続可能性を見定める意味でも事業承継の知識は役立つし、将来的な発展を見据えた選択肢としてM&Aの考え方も不可欠だろう。融資を本業とすれば、その呼び水となるのも事業承継・M&Aだ。
- 三宅 事業承継とM&Aは地域課題を解決する車の両輪だ。中小企業が後継者不在に悩んでいるなら絶対救うべきだが、この層だけ救えば青森が元気になるわけではない。より規模が大きい中堅企業の成長戦略を支援して地域経済を活性化させなければならない。当社も例えば、「M&Aで仙台に進出する」とか、「青森の高品質な農作物を作っている会社がeコマースの企業を買収して販路を全国に広げていく」とか、そうしたことをお手伝いしていきたい。
最近、当社が力を入れているサービスは、東京証券取引所が運営するプロ向けの株式市場「TOKYO PRO Market」への上場支援だ。地元のスター企業を生み出すために、地銀と地元経済界、県庁も含め総力で地元企業の上場を応援していくべきではないか。TOKYO PRO Marketは、東証の一般市場よりも上場基準が柔軟でありつつ、資金調達の多様化など上場企業のメリットを享受できる制度だ。地銀としては上場を目指す中堅企業・優良企業を発掘し、サポートすることが地域活性化のためにも大切だと思う。
「ワンバンク」で新分野のサービスに挑む
- 加藤 第1次中計では、「新分野への挑戦としての領域拡大」として、「主体的M&A」「アグリ事業」「健康事業」「地域商社」なども挙げている。具体的な取組みは。
- 成田 これまで青森銀行とみちのく銀行は、それぞれ個別に広く金融サービスを展開していたが、おのおの総資産3兆円規模の地銀の戦略は似たり寄ったりだった。プロクレアHDを設立し、ワンバンクを目指していく中で、中身の濃いサービスを提供しながら、中計で掲げた「地域共創」の一環としてアグリ事業や健康事業、地域商社といった新分野に挑みたい。
ただ、青森県は国内でも地域経済力が大きいとはいえず、これらの分野すべてを独立した会社として事業運営できるかは走りながら考える。もちろん、両行の知見が合わされば、新しい地方創生のアプローチも見つかるかもしれない。
個別の分野より大きい話だが、観光資源の掘り起こしとして、青森銀行の子会社「あおもり創生パートナーズ」が、今年1月に弘前市内の歴史的な建造物や文化を紹介するポータルサイト「HIROSAKIHeritage」を開設した。これは文化庁の21年度「ウィズコロナに対応した文化資源の高付加価値化促進事業」として採択され、制作したウェブサイトだ。こうした取組みについても手ごたえを感じ始めているところで、これからそれにどのような肉付けをして事業として確立できるかを考えている。地域商社の設立に向けたヒントになる部分もあるだろう。
県内産の食材を冷凍食品として流通させる取組みも進めている。青森県は優れた食材のある土地で、生ものだけでなく、加工食品も潜在的な商品力は高い。事業化にはもう少し長い目で見る必要はあるが、こうした取組みも地域商社を実現させるためのアイディアになるだろう。
地方創生の取組みで地元の若者に夢を
- 三宅 地方創生につながる取組みは、若い行員のやりがいにつながるはずだ。先日ある銀行のトップと会談した際、その銀行が地域振興の会社を設立した話題になった。その社員を行内で公募したところ、20~30代の若手行員約80人が応募してきたと言っていた。若手の層ではかなりの割合だそうだ。今までなら、子会社への出向といえば「ラインから外れる」という意味合いが強かったが、最近の若手は「地元のため」とか「新しい事業」といったものに対する挑戦心にあふれている。幅広い課題解決機能を持つことで、地元の優秀な人材が東京や仙台などに流出することなく、青森銀行やみちのく銀行に就職するなら、地銀と地元学生はウィンウィンだ。
- 成田 若者にとっても魅力ある地域創生の取組みを推し進めることは、Uターンの呼び込みにもつながる。また、廃業も増える中で、東京など他地域に地元の事業を承継させるマッチングにも力を入れたい。
- 三宅 当社と日本政策投資銀行が出資して設立したサーチファンドも、地方創生につながるマッチングの取組みだ。サーチファンドとは、都市部などでキャリアを積んだ経営者を目指す個人(サーチャー)を地方に派遣して、自ら事業承継したい会社を探し、株式を買い取る費用などを支援する投資会社だ。今年1月には、この仕組みで山梨県の事業承継案件が成立し、山梨中央銀行からの融資も受けた。本件はサーチャー自身が山梨県出身で、Uターン案件でもある。こうしたスキームも青森の活性化につながるのではないか。
- 成田 県外に出た若者の中には「本当は地元で働きたい」という気持ちがある者もいるが、帰ってきても仕事がない。地方創生に取り組む中で、そうした潜在的な地元の働き手を結び付けることができればと感じている。
- 加藤 取引先経営者に対する事業承継・M&Aの周知活動やニーズの喚起はどのように行っているか。
- 成田 身近で切実な問題なので、セールスありきでなく、お客さまと理解し合った上で話題にしていくことが何より大切だ。事業承継・M&Aの必要性がないお客さまでも、その方のお取引先がそうした課題を抱えていることもある。「青森銀行と話をすると事業承継・M&Aの話になるんだよね」といったふうに、お客さまを通じた相談が増えるかもしれない。
- 三宅 周知という意味ではウェブが有効な手段となってきている。広域な青森県で事業承継セミナーをやってもなかなか人が集まりにくい。ウェブセミナーは距離的な制約なく学ぶことができ、参加者はリアルとは桁違いで、5000人、1万人といった単位で集まる。そういった点も銀行のDXの取組みだと思う。
- 加藤 DXやコンサルを通じて、「プロクレア」という名称を地域にどんどん浸透させていく様々な取組みに大いに期待したい。
- 成田 コンサルやDXといったメニューの提案だけでなく、コミュニケーション力を含めて、事業承継・M&Aなどお客さまの埋もれたニーズを掘り起こし、ソリューションを提案できるよう、われわれも高度化しなければならない。簡単ではないが、合併を契機により勉強を重ね、お客さまからのファーストコールに真摯に向かい合い、同時に地域の課題をリアルに受け止められるよう、現場の声もしっかり拾っていく。