金融グループ機能を最大限発揮し地域課題をワンストップで解決する 日本M&Aセンター◆特別企画◆

〔週刊 金融財政事情 春季合併号掲載〕
※本鼎談は2023年2月9日に実施したものです。

資金繰り支援は当然として、さらにその先の、取引先の経営改善支援に注力する
広島銀行 頭取 清宗 一男 (きよむね かずお)氏
1963年生まれ。86年広島銀行入行。融資企画部融資企画室長、大手町支店長等を経て、2018年執行役員呉支店長、20年取締役常務執行役員、同年ひろぎんホールディングス取締役常務執行役員、22年ひろぎんホールディングス取締役専務執行役員、広島銀行代表取締役頭取。

黒字廃業の岐路に立つ企業を1社でも多く救えるかが、地銀の重要なミッション
株式会社日本M&Aセンターホールディングス 社長 三宅 卓(みやけ すぐる)氏
1952年生まれ。91年日本M&Aセンターの設立に参画。92年取締役、2008年社長に就任。日本M&Aセンターは、07年に東証一部に上場。21年10月純粋持株会社体制に移行し、22年4月より東証プライムに上場。

[コーディネーター]
金融財政事情研究会 理事長 加藤 一浩(かとう かずひろ)
1962年生まれ。86年株式会社きんざい入社。出版部・業務企画部・東京営業本部等を経て2011年取締役出版部長。13年代表取締役社長。17年グループCEO。23年4月経営統合により現職。

原材料価格の高騰で重要性を増す経営改善支援
  • 加藤 コロナ禍の長期化に加え、ロシアのウクライナ侵攻や円安等の影響でエネルギー・原材料価格が高騰している。県内の景況感、取引先の業況はどうか。また、業績に不安を抱える取引先に対し、どのような支援策を講じているか。
  • 清宗 非製造業から見てみると、中核にあるサービス業がコロナ前の水準まで回復してきた。最近は、国内観光客のみならず、海外観光客の人流が増えており、ホテルや飲食業等これまで業況が悪化していた取引先に活力が出始めている。広島県には、広島平和記念公園や、日本三景の一つである宮島等の観光名所があり、来訪していただく方も多く日々賑わいを増している。直近では、2022年10月にヒルトンホテル系列のヒルトン広島がオープンしたことも、広島県の観光業にとって大きなプラスに働くと考えている。
     一方、懸念しているのが、広島県の経済基盤である製造業だ。製造業が盤石であれば、県内は活性化していく。しかし、周知のとおり、ロシアのウクライナ侵攻や円安等の影響で、原材料価格や資材価格が高止まりし、製造業に対しマイナスの影響を及ぼしている。当行も取引先と一緒に汗を流し、支えていく必要があると考えている。
     具体的な支援策として、資金繰り支援をしていくのは当然とし、さらに踏み込んで、経営改善支援にまで積極的に乗り出している。現在当行には、経営改善支援チームがあり、10名のメンバーが所属している。そのメンバーが取引先と一緒に経営改善計画を策定し、課題を一緒に解決させていただく。
     本業支援の一環として、事業再構築補助金にも注力している。現在までで、310件余りの結果が出ており、こうした形での地域支援もできるのではないかと考えている。
事業承継とM&A 二つの機能を一つに集約
  • 加藤 「中期計画2020」では、事業承継関連業務の強化を標榜されている。グループ一体となった課題解決ビジネスを展開するため、具体的にどのような取組みを行っているのか。
  • 清宗 法人営業部や個人営業部(現法人ソリューション室、個人ソリューション室)が中心となり、事業承継に積極的に取り組んできている。事業承継という観点からは、親族に承継するか、従業員に承継するか、あるいはM&Aに委ねるかと、大きく分けて三つの選択肢がある。取引先の潜在的ニーズまで把握し、正確に判断していくことが必要だ。
     その観点で、当行は20年4月から、M&Aチームと親族内の事業承継チームを統合し、取引先からの情報やニーズをいかに正しくタイムリーに把握するかをテーマに取り組んでいる。
  • 三宅 M&Aというのは一つの手法であって、根本は経営の承継をどうしていくかということが重要となる。親族承継で子供に会社を継がせる場合、事前に将来的な成長戦略を策定しなければ、「継がす不幸」になってしまう。その成長戦略を金融機関と一緒になって考え、いかに実現していくかが肝要だ。反対に、親族承継が不可能な会社では、M&Aを検討する必要がある。したがって、広島銀行が、事業承継チームとM&Aチームを一つにまとめたというのは、取引先と地域にとっては頼もしい取組みだ。
  • 清宗 M&Aチームと事業承継チームの統合とともに、21年10月から、案件発掘を担当するチームと、ファンドの活用等エクイティビジネスチームも一つに統合することで、情報を一元的に集約する体制を構築した。
     本部と営業店の連携強化にも注力している。各営業エリアに本部担当者を配置することで、営業店担当者が案件をキャッチした際に、スムーズにコミュニケーションが図れる体制を整備した。
  • 加藤 たしかに、案件を発掘してきても、誰にどうつなぐのかがわからなければ、スピード感のある取引先の課題解決に結び付かない。
  • 清宗 本部機能の一体化や営業店との垣根を取り払うことで、事業承継案件の相談件数は着実に増している。取引先のニーズは、当行の営業エリアや取引先同士でマッチングすれば成就できるものと、全国規模での選択肢が必要なものに二極化している。当行のエリア内で解決する案件と、日本M&Aセンターも含め外部と連携しながら取引先のニーズに対応する案件の両輪でうまく対応していきたい。
高いアンテナと周知活動で黒字廃業600社を救う
  • 加藤 中小企業の廃業に歯止めがかからない。要因の一つに、事業承継やM&Aに対する誤解や知識不足が挙げられる。県内の事業者向けの事業承継・M&Aに対する周知活動として、どのようなことを行っているか。
  • 清宗 カンファレンスやセミナーを開催している。
     21年11月、日本M&Aセンターと連携して「事業承継 M&A Conference 2021」を開催し、1800名を超える事業者にご参加いただいた。
     22年11月には、広島市と共催で自動車関連企業向けの事業承継セミナーを開催した。広島県は自動車産業が非常に活発であり、特にサプライヤーの取引先の将来や事業承継は今後特に課題となることから、セミナーを開催し、64名にご参加いただいた。一次サプライヤーである「Tier1」クラスも名前を連ねており、事業承継に対する関心の高さを感じた。
     広島県内においては休廃業の会社が年間約1200社と高止まりしている。このうち600社を超える先が黒字廃業しているというのは、非常に残念な状況だ。黒字廃業を救うためにも、当行としてできる事業承継サービスを積極的に発信していきたい。
  • 三宅 地元の黒字廃業の岐路に立つ企業を1社でも多く救えるかは、地方銀行に求められる重要なミッションだ。私は、黒字廃業を救う手立ては大きく二つあると考えている。
     一つ目は、営業店の担当者が、常に事業承継に関する高いアンテナと意識を持つことだ。地域を最前線で支える営業店の担当者に、事業承継に関する興味がなければ、対応できるものもできない。そういった意味では、広島銀行では、支店長から担当者まで、熱心に勉強会をしている。当社でも広島銀行の勉強会に参加する等して、定期的に情報交換をしている。
     二つ目は、地方銀行が事業承継に関する相談相手であることを、企業に周知することだ。地元企業は、地方銀行が事業承継の仕事をしていることを意外と知らないものだ。銀行は一生懸命に事業承継の説明をするが、企業経営者は、喫緊に事業承継の必要性に迫られていなければ話を聞かず、馬耳東風になっている。経営者が病気を患ったり、事業後継者と目していた子供が地元に帰ってこないとわかったりしたときに初めて、「事業承継を誰に相談しようか」と思うわけだ。それを防止するために、最低でも1年か2年に1回程度は、広島銀行のように、カンファレンスやセミナーを開催し、銀行が事業承継やM&Aに注力しており、高い提案力を持っていることを訴えていく必要がある。
潜在的ニーズを掘り起こし取引先に最適解を提供する
  • 加藤 22年に開催された「第10回M&Aバンクオブザイヤー」では、地域に最も貢献した地方銀行に贈られる「地域貢献大賞」と、案件規模・地域への貢献度、スキーム等の観点で優良な事例に与えられる「ディールオブザイヤー」のダブル受賞を果たした。
  • 清宗 賞をいただいた事案は、前述の日本M&Aセンターとのカンファレンスから出てきたものだ。このカンファレンスには、様々なテーマの講演が用意されており、取引先がどのテーマの講演を見ているかで、当行が気付いていない潜在的なニーズを探ることができた。その潜在的ニーズを掘り起こし、最終的に案件の成約に至ったことが評価され、賞の受賞につながった。
  • 三宅 セミナーやカンファレンスで多くのテーマを掲げることは非常に重要だ。事業承継やM&Aをこちらから押しつけるのではなく、取引先に対し様々なメニューを提供し、考え、悩んでもらう。そのためにも、最低でも10くらいのテーマが必要だ。21年のカンファレンスでは30のテーマを掲げ、自由に選んでいただいた。取引先は自分が悩んでいることを聞きたいから、何を選んでいただいたかによって取引先の悩みが的確にわかる。それをベースに相談を聞いて、ソリューションの提案をしていけば、的確なM&Aができる。
  • 清宗 当行としても、取引先の関心がどこにあるのかがわからなければ、的を射た提案はできない。そうした意味では、案件の成約にもつながり、非常に有意義なカンファレンスだった。
  • 三宅 昔は支店の中で、M&Aに感度の高い支店長が情報を取ってきたり、本部にもM&A職人のような人がいたりした。しかし、600社超が毎年黒字廃業していく現在は、広島銀行のように本部と支店とで一致団結した組織対応が必要な時代になっている。裏を返せば、それだけソリューションビジネスが本業化してきたということもできる。ソリューションビジネスは、もはや付随業務やサービス業務という位置付けではなく、地方銀行の本業になってきた。広島銀行はいち早くホールディングス化をしたが、事業承継やM&Aといったソリューションビジネスを本業として捉えている現れだ。
広島銀行が取り組む本気の脱炭素支援
  • 加藤 SDGsやカーボンニュートラルへの対応が待ったなしの状況にある。とりわけ自動車産業のウェイトが高い広島・中四国エリアを主要営業基盤とする広島銀行において、どのような支援策・取組みをされているのか。
  • 清宗 広島県内は自動車産業をはじめとした製造業のウェイトが高いため、全国的にもCO2の年間排出量が多い地域だ。当行として、いかに地域と連携しながらカーボンニュートラル、あるいはSDGsに対して、取組みを強化していくかが一つの大きなポイントであり、課題だと認識している。そうした取組み強化に向け、21年11月に、サステナビリティ統括室を新設した。サステナビリティ統括室では、地元電力会社をはじめ、地域の中核企業、行政とも連携しながら、地域のカーボンニュートラルをどう支援していくかを定期的に議論している。
     取引先に向けて、SDGsに対する取組みを可視化できるサービス「〈ひろぎん〉SDGs取組支援サービス」も提供している。このサービスでは、取引先ごとにSDGsに対する取組みや強みをフィードバックシートで還元することに加え、SDGs宣言を作成し、ホームページ掲載等に使用可能なPDFファイルを提供している。
     さらに高度なSDGsを実現したい取引先については、経営計画等にSDGs戦略を盛り込む経営支援サービスも提供している。その中で、資金調達のニーズがあれば、サステナビリティ・リンク・ローンやグリーンローンを実行している。
  • 加藤 取引先の多くが、DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応した業務展開に悩んでいるとの声も聞かれるが。
  • 清宗 DX関連では、ひろぎんホールディングスのグループ企業「ひろぎんITソリューションズ」が、営業店からのトスアップを受け、DXを通じた経営の効率化を提案する体制が軌道に乗ってきた。同じくグループ企業の「ひろぎんリース」がタイアップし、取引先がDXツールを導入する際に、リースを提供するという連携も少しずつできてきた。
  • 加藤 通年採用の実施等で、デジタル人材・理系人材の採用に力を入れている。 
  • 清宗 22年4月から、「IT・デジタル人財採用コース」を新設し、IT・デジタル人材の獲得に努めている。さらに、「キャリア採用」と呼んでいるが、中途入社でキャリアを変えて当行を選択してくれる人も少しずつ増えてきている。今後も多様な人材を継続的に確保したいと考えている。

 

勘定系システム移行で参加行との協業を見込む
  • 三宅 広島県の中核産業である自動車産業は、「EV化」、「自動化」、「コネクティッド化」等の流れを受け、まさに100年に1度の大変革期にある。そうした時代の変わり目において、ひろぎんホールディングスのグループ会社「ひろぎんキャピタルパートナーズ」が手掛ける事業承継ファンドが、自動車産業の変革に寄与するのではないか。
     例えば、自動車産業において、今のレシプロエンジンでは必要な技術や部品が、EV化に最適化された新部品や新技術が開発されれば必要なくなるといった懸念もある。そういった高い技術や部品は、医療関連、航空関連、宇宙関連に使っていく等、様々な応用が利くはずだ。そうした高い技術力がある取引先に、事業承継ファンドを活用することで、産業変革の荒波に立ち向かう一つのきっかけとなるはずだ。
  • 清宗 ひろぎんキャピタルパートナーズでは、20億円の事業承継ファンドを立ち上げた。現在、ファンドの活用状況は3割弱だが、自動車産業の大変革期にある今、枠はすぐに埋まっていくと考える。今後、自動車産業を中心とした旺盛な資金需要が見込まれることから、そうしたニーズに対して、クイックに対応できる仕組みづくりや施策を講じていきたい。
  • 加藤 日本IBMの勘定系システム「Flight21」からNTTデータの「MEJAR」(メジャー)への移行を表明された。システム移行の決め手は。 
  • 清宗 移行の決め手はまず、MEJARのクラウド化に向けた道筋が明確であったこと、それから基幹系システムの運用コストを現状と比べて4割削減できることだ。それに加え、メジャー参加5行(横浜銀行、北海道銀行、北陸銀行、七十七銀行、東日本銀行)の営業エリアがそれぞれ異なることから、様々な観点での連携や協業が見込めると考えたためだ。
     システム面に限らず、当行は今後も常に変革を続け、取引先に必要とされ続ける企業にならなければいけない。引き続き、取引先に寄り添った伴走支援に愚直に取り組んでいく。