九州M&Aアドバイザーズが切り開く地域の未来«トップ鼎談»

日本M&Aセンター◆特別企画◆トップ鼎談

トップ鼎談肥後銀行

〔週刊 金融財政事情 2025.5.27号〕
※本鼎談は2025年3月12日に実施したものです。

 

~地方銀行・M&A専門会社・外資系企業がタッグを組んでオール九州の課題を解決する~

肥後銀行 頭取 笠原 慶久(かさはらよしひさ)氏
1962年生まれ。84年富士銀行(現みずほ銀行)入行。みずほ銀行熊本支店長、職域営業部長、法人業務部長、みずほ信託銀行常務執行役員等を経て、15年6月、肥後銀行取締役常務執行役員監査部長。18年6月肥後銀行頭取に就任。19年6月九州フィナンシャルグループ代表取締役社長に就任。

株式会社日本M&Aセンターホールディングス 社長 三宅 卓(みやけ すぐる)氏
1952年生まれ。91年日本M&Aセンターの設立に参画。92年取締役、2008年社長、24年会長。日本M&Aセンターは、07年に東証一部に上場。21年10月純粋持株会社体制に移行し、22年4月より東証プライムに上場。

[コーディネーター]
金融財政事情研究会 理事長 加藤 一浩(かとう かずひろ)
1962年生まれ。86年株式会社金融財政入社。出版部・業務企画部・東京営業本部等を経て2011年取締役出版部長。13年社長。17年グループCEO。23年4月より現職。

 肥後銀行、日本M&Aセンターホールディングス(HD)、台湾の玉山ベンチャーキャピタルの3社は、2024年4月、企業のM&Aを支援する専門会社である九州M&Aアドバイザーズを福岡に設立した。
 設立の背景や今後の展望について、肥後銀行笠原頭取と日本M&AセンターHD三宅社長を中心に語ってもらった。

オール九州で経済を振興させる
  • 加藤 24年1月に、肥後銀行等九州・沖縄の地方銀行11行が参加し、「九州・沖縄地銀連携協定」(Q-BASS)が発足しました(現在は九州・沖縄・山口の13行が参加)。競争関係にあった金融機関が連携協定を結んだ背景には何がありますか。
  • 笠原 金融機関は、これまで、限られたパイを奪い合うような競争の時代にありました。私はこれを「過当競争の時代」と呼んでいます。しかし、今は協力してパイを大きくしていく時代に変わったと考えています。健全な競争と協調により、パイを大きくしていくということに、金融機関は対応していく必要があります。
     Q-BASSが締結される前には、九州経済連合会と九州地方知事会をベースとする九州地域戦略会議においても、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県進出もあり、「新生シリコンアイランドをオール九州で創りあげよう」という声が上がるなど、九州全体で一つになって経済を振興させようという機運が高まっていました。
     そこで、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の五島久社長と「金融機関もオール九州で取り組んでいくべきなのではないか」と話をしまして、Q-BASSが誕生しました。
  • 加藤 Q-BASSにおいて、肥後銀行はどのような役割を担っているのでしょうか。
  • 笠原 経済規模では、福岡のある九州北部が大きいのですが、オール九州の観点から、南部や中部も発展していかなければなりません。当行は地理的に九州のちょうど中央に位置しており、北部と南部をつなぐ結節点の役割を果たさなければならないと考えています。すでに、当行が主導する形で、Q-BASSの締結行と協調融資を実行した案件も出てきています。今後はさらに様々な案件が展開していくと思います。
九州M&Aアドバイザーズの強みは信頼性の高さ
  • 三宅 TSMCの熊本進出もあり、オール九州の機運が高まる一方で、九州では廃業件数が深刻な状況にあります。件数ベースでは、24年で福岡県は2005件、熊本県では863件の廃業がありました。注意したいのが廃業の増加率です。熊本県は廃業が前年比で51%増えていますし、宮崎県が28%、鹿児島県も29%増加しています。
     倒産件数は金融機関の支援もあり減ってきていますが、問題なのは、倒産件数と廃業件数の比率です。例えば、熊本県では24年の倒産件数77件に対して前述の通り863件の廃業があり、廃業件数は倒産件数の11倍となっています。倒産件数に対する廃業件数の倍率は、大分県で8倍、佐賀県、長崎県、宮崎県、鹿児島県でいずれも12倍と、九州全体で廃業の嵐が吹き荒れています(帝国データバンク調べ)。
  • 加藤 九州M&Aアドバイザーズ設立の背景には、九州全体として廃業が増加基調にある、ということがあったのでしょうか。
  • 笠原 問題意識としてはその通りです。後継者不足の企業は九州全体、さらには日本全体でも50%を超えています。この問題を放置すると、国内企業の半分がなくなるわけです。
     当行は長年、日本M&AセンターHDと、M&Aや事業承継分野で案件を共有し、信頼関係を構築してきました。日本M&AセンターHDが、十六フィナンシャルグループと事業承継を支援する「NOBUNAGAサクセション」を設立して成功していることも聞いていました。三宅社長から、「廃業問題をオール九州で解決するためにも一緒にやりませんか」とお声掛けをいただき、共同出資の形で九州M&Aアドバイザーズを設立しました。
  • 加藤 M&A会社を自前で設立する地方銀行もありますが、九州M&Aアドバイザーズの役割や強みはどの点にありますか。
  • 笠原 九州M&Aアドバイザーズが有するネットワークにあると思います。中小企業の場合、自社のネットワークで後継者を見つけることは難しいので、それを当行と日本M&AセンターHDのネットワークで解決できる点に強みがあります。ただし、後継者が見つかるなら誰でもいいということではありません。最近は事業承継ニーズにつけ込んだ悪質なM&A仲介会社も出てきています。単にM&Aや事業承継ができればいいのではなく、いかにその後会社が成長していけるかも考えて、質の高い情報を提供するのが、九州M&Aアドバイザーズの役割です。
  • 三宅 悪質なM&A仲介会社の増加もあり、お客さまがどの会社にも相談できないことも問題となっています。仮に悪質なM&A仲介会社に引っかかった場合、最悪、自己破産となり会社は消滅してしまいます。地元で信用があって、地域の課題に真正面から取り組んでいる地方銀行に事業承継の相談をすることが一番安心です。九州M&Aアドバイザーズは、地方銀行と当社のような専門会社がタッグを組んで運営していることから、信頼性の高さが大きな強みといえます。
     また、当社はPMI(買収後の統合プロセス)に関して、業界内で最も進んでいると自負しています。10年前からPMIの必要性を感じ、日本PMIコンサルティングを設立しました。その他、買手企業に対して表明保証保険を作ったほか、譲渡企業の社長の資産運用や財産承継に対応するためのネクストナビという会社を設立しました。
     M&Aに関する総合的なサービスを提供することで、金融庁が目指している地元の相続と発展のための成功するM&Aや、M&Aの活性化に対する期待にも応えられるのではないかと思っています。
台湾企業も参画しクロスボーダー案件を掴む
  • 笠原 後継者不在に対応したM&Aは増えていますが、M&Aニーズはそれだけではありません。円安による物価高や人手不足等の課題を解決していくためにM&Aを行うこともあります。成長戦略を描いていくためのM&Aもあります。
  • 三宅 物価高と人手不足に加えて、DX化の波に乗れない企業も増えています。これまでのDXといえば、ITの活用がメインでしたが、今後はAI活用も必須の時代となります。パラダイムが大きく変わる波が押し寄せています。そういうことに対する手助けも九州M&Aアドバイザーズでしていけるのではないかと考えています。
     少し前までは中小・中堅企業のM&Aニーズは事業承継と成長戦略だけでしたが、今はこうした物価高や人手不足、DX化を解決するためにM&Aを選択するケースも増えています。
  • 加藤 九州M&Aアドバイザーズは、台湾の玉山ベンチャーキャピタルと共同で設立した点が、他の金融機関系のM&A関連会社とは異なります。なぜ、外資系企業と共同設立したのでしょうか。
  • 笠原 TSMCが進出してきたことによって、九州も急速に国際化が進んでいることが理由として挙げられます。九州フィナンシャルグループ(FG)傘下の当行と鹿児島銀行は、22年に玉山ベンチャーキャピタルと同じグループの玉山銀行と業務提携をしました。三宅社長からも、事業承継の課題に向き合うのであれば、「M&Aに関するクロスボーダー案件も含めて取り組んだらいいのでは」という提案をいただき、快くお受けしました。
  • 三宅 玉山ベンチャーキャピタルが九州M&Aアドバイザーズに参画したことで、取引先企業に提供できる情報やメニューも格段に向上しました。今後はクロスボーダー案件が間違いなく増えていきますから、九州M&Aアドバイザーズの存在価値はさらに高まるでしょう。
  • 笠原 福岡市も「国際金融都市構想」を掲げています。玉山銀行は日本国内の支店を東京に次いで福岡に置いたばかりでした。TSMCに続いて、近年は台湾企業も多く日本に進出してきています。
     一方で、台湾では今まであまりM&Aが盛んには行われてきていませんでした。玉山ベンチャーキャピタルにおいては、九州M&Aアドバイザーズに参画することで、日本M&AセンターHDや我々地方銀行のM&Aのノウハウを吸収していきたいという想いが強いように感じられます。台湾の企業が資本参加等で九州に進出したいということがあれば、クロスボーダー案件として進めていきたいと考えています。
  • 加藤 台湾企業には、自国だけではなく日系企業に対するM&Aニーズもあるのでしょうか。
  • 笠原 私が台湾企業と接している限り、「日系企業を買いたい」というニーズはあまり聞かれません。それよりも「日系企業と協業したい」というニーズを強く感じます。九州M&Aアドバイザーズは、国内企業と海外企業をつなぐ役割も果たす必要があります。
  • 加藤 玉山ベンチャーキャピタルが九州M&Aアドバイザーズを選択した要因はどこにあるとお考えですか。
  • 笠原 九州FGが掲げるパーパスと玉山ベンチャーキャピタルの考えがシンクロした点が大きいと思います。九州FGのパーパスとSDGsの取組みについて共感いただき、「是非一緒にやりたい」と言っていただきました。
設立1年目でM&A案件を成約
  • 加藤 九州M&Aアドバイザーズは、今年1月、第1号となるM&A案件を成約しました。
  • 笠原 当初は、買収や譲渡等、様々な案件やニーズをいただきながら、設立2年目以降に成約第1号が出ればいいかなと考えていましたが、まさか設立1年目で成約に至るとは思いませんでした。当行と日本M&AセンターHDが共同設立したことで、両社の良さがかみ合って、化学反応が起きた結果ではないかと思っています。
  • 三宅 確かに、良い化学反応が起こっていると思います。今回の第1号案件でも、買手側の企業の反応はとても良好でした。肥後銀行の情報の精度の高さや地に足を着けてやっていく地道さに加え、当社のように分析・営業が得意なところがうまく融合した結果です。買手側の企業は、肥後銀行東京支店の取引先でしたね。
  • 笠原 東証グロースに上場するIT企業のBlueMemeです。BlueMemeの松岡真功社長が言うには、日々、M&A案件が持ち込まれるけれども、持ち込まれた案件の内容と、実際に話を聞いたときの会社の状況とが大きく異なっていることが多いそうです。今回、九州M&AアドバイザーズからBlueMemeに持ち込んだ話は、きわめて正確で信頼に足るもので、こういう案件はとても珍しいと驚かれました。売手側の企業で、福岡市に本拠を置くソフトウェア開発会社のマイクロコートも素晴らしい会社ですから、かなりスピーディーに案件がまとまった印象です。
  • 加藤 設立から1年で成約案件が出たということは、九州M&Aアドバイザーズの社員も高い専門性を有しているといえますね。
  • 笠原 現在、九州M&Aアドバイザーズには10人の社員が在籍しています。当行からの出向者が4人、日本M&Aセンターからは6人となっています。
  • 三宅 この1年間、私は研修の講師として何度か九州M&Aアドバイザーズに赴きました。出向者たちは、「銀行や日本M&Aセンターから出向してきてどうなるんだろう」という不安な気持ちからスタートしましたが、仕事に対する情熱や会社への愛情はぐんぐん高まってきています。九州M&Aアドバイザーズへの出向者はこの1年で3年分の成長を遂げたのではないかと思います。
  • 笠原 今後は、当行と日本M&AセンターHDが、両社のネットワークを駆使して全面的に地域を応援していかなければならないと思っています。先ほどQ-BASSの話が出ましたが、M&A案件も健全な競争とパイを大きくしていくために必要だと思います。九州の中で協調しながら、お客さまにとって良い案件が出てきて、地域が成長すればそれでいいわけですから、今後も協調を継続していきたいです。
「意志のある未来」を実現させる
  • 加藤 順調に船出した九州M&Aアドバイザーズですが、今後の抱負を教えてください。
  • 三宅 日本や地方が弱体化していく中で、企業はお客さまにソリューションを提供することで、地域の疲弊を食い止め、むしろ活性化していくようにもっていくという役割を担っています。
     九州M&Aアドバイザーズは、非常に先進的で面白い取組みだと思いますので、絶対に成功させます。その覚悟でやっていますので、是非、期待をしていただけたらと思います。
  • 笠原 私は、「未来は予測するものではありません」と言っています。「未来はどうなりますか」と聞かれることがありますが、私は、「未来が『どうなるか』ではなく、未来を『どうするか』という質問の間違いではないですか」と言います。環境は予測できます。人口が大きく減れば人手不足は予測できますが、例えばAIを使う等、様々な努力をすることで、人口減少の中でも未来を切り開いていくことができます。
     そうした未来を創造できる会社が、九州M&Aアドバイザーズだと考えています。私は、「予測する未来」は「なりゆきの未来」であり、「切り開く未来」は「意志のある未来」であると思います。「意志のある未来」を九州M&Aアドバイザーズで実現していきます。
     パートナーを信頼するということ、あるいは信頼できるということがどれほど素晴らしいことなのか、九州M&Aアドバイザーズを設立したことでよくわかりました。信頼できる日本M&AセンターHDと組めていることが、素晴らしいことだと実感しています。共に「意志のある未来」を歩んでいきたいと思います。