地域社会とともに発展する未来予想へ向けて、統合サービス業を目指す 日本M&Aセンター◆特別企画◆

トップ鼎談


地域社会とともに発展する未来予想へ向けて、統合サービス業を目指す 〔週刊 金融財政事情 2021春季合併号掲載〕 ※本鼎談は2021年2月2日に実施したものです。

「地域共創」の思いを核に地域支援を積極化
中国銀行 頭取 加藤 貞則(かとう さだのり)氏
1957年生まれ。81年中国銀行入行。03年鴨方支店長、05年岡南支店長、08年システム部長、13年取締役人事部長、15年常務取締役、17年代表取締役専務。19年より現職。


コロナ禍で重みを増す地方銀行の廃業やM&A支援
株式会社日本M&Aセンター 社長 三宅 卓(みやけ すぐる)氏
1952年生まれ。77年日本オリベッティに入社。91年日本M&Aセンターの設立に参画。92年取締役に就任。以後、数百件のM&A成約に関わる。08年より現職。日本M&Aセンターは06年に東証マザーズ、07年に東証一部に上場。

[コーディネイター]
株式会社きんざい社長 加藤 一浩(かとう かずひろ)
1962年生まれ。86年株式会社金融財政(現株式会社きんざい)入社。出版部・業務企画部・営業統括本部等を経て2011年取締役出版部長。13年より現職。きんざいグループCEO。

楽観できない景況感 起業支援に注力


  • 加藤一 コロナ禍が長期化している。岡山県内の景況感はどうか。

  • 加藤貞 日銀岡山支店が2月1日に金融経済月報の中で、県内景気は新型コロナウイルス感染症の影響による弱さが続いているものの持ち直している、と概況を伝えている。東京を中心に緊急事態宣言が出される前に統計された分析だが、足元、昨年4~5月ごろのような厳しさはないと見ている。
    水島臨海工業地帯で知られるように、岡山県は製造業の比率が高い。融資の比率で見てもそうだ。代表格は自動車関連産業で、岡山には三菱自工の工場やTier1(一次サプライヤー)企業が多数ある。自動車の販売状況を見ると、中古車を含め、堅調に推移している印象だ。コロナ禍で多くの人たちが公共交通機関からマイカー利用に切り替えていて、新車、中古車ともに販売台数が伸びている。一時、自動車産業のサプライチェーン(部品調達網)に混乱が生じたが、現在はほぼ戻っている。消費もこの状況下にしては堅調と言える。自動車のほか、ステイホームの関係で家電製品が売れている。住宅関連も悪くないと聞いている。
    もちろん、飲食業や観光業、生活関連などは厳しい。取引先にもいろいろな経営課題が出てきていて、ご相談をいただく件数もここ1年で増加している。その点については、従来と変わらず、地域密着型金融を通してしっかり支えていきたい。ただ、決して良いとは言えないものの、少しずつ元に戻りつつある、との印象を受けている。

  • 加藤一 実行中の長期経営計画「Vision2027 未来共創プラン」(ちゅうぎん10年戦略)の第二段階に当たる中計「未来共創プランステージⅡ」を推進中だが、手応えは。

  • 加藤貞 地方銀行は、地域経済の活性化を通して地域社会に貢献するべきだと考えている。そこで、地域・お客さま・従業員と豊かな未来を共創するというビジョンを掲げ、(新しい時代の地銀として)こうありたいという想いを長期計画に反映させた。そこに掲げたことを3カ年の前中計と現中計、そして4カ年の次期中計で達成しようと考えている。まもなくステージⅡの1年目を終える。高齢化や人口減少で地元が疲弊してきているという危機感を持ち、「地元の疲弊を食い止めないといけない。そのときに地銀として何ができるのか」ということを宮長雅人前頭取の時代から真剣に考えていた。まだやりたいことが思うようにはできていないし、マイナス金利などの影響で銀行経営が楽観視できないのは確かだが、銀行業界にも規制緩和の波が来ていて、いろいろなことができる時代になってきたという期待感を持っている。

  • 加藤一 「未来共創プランステージⅡ」は、①地方創生、SDGsの取組み強化、②お客さま本位の営業の「深化」、③組織の活性化、④デジタル戦略の強化、⑤持続可能な成長モデルの確立、の五本柱だ。今後の展望については。

  • 加藤貞 このステージⅡでは思い切って「地方創生、SDGsの取組み強化」を五本柱の筆頭に挙げている。イメージとしては、まず当行の経営理念や長期ビジョンがあり、次に地方創生やSDGsの取組みがある。そこを意識できるようになると「お客さま本位の営業の深化」などにもつながっていく。もちろん、地方創生やSDGsというのは役職員一人ひとりが本気にならないと実現できない。「SDGsと言っても具体的に何をすればいいんだろう」と悩んでいる行員もいるが、お客さまから「自分たちの技術を何とか活かしたい」といった話を聞いたときに「それはSDGsにつながる技術なので、私たちのこのお客さまと結びましょう」と行動していくことが大切だ。そうした行動がいろいろなものにつながっていく。実際そういう動きが増えてきているので、手応えを感じている。

「行内対話」を活発化


  • 加藤一 行員への意識付けや経営理念の浸透には現場の行員とのコミュニケーションが欠かせない。

  • 加藤貞 以前から、経営幹部や執行役員が営業店に直接足を運び、現場の行員と語り合うという場を設けている。そのときどきのテーマに沿って現場の行員に語り掛け、質問を受ける。プライベートな質問や相談も受け付けているので、彼らとのコミュニケーションは1時間半にも及ぶ。役員で手分けして行っていて、私は8カ店を受け持っている。先日その1つである大規模店に訪問したが、そこでは中計への想いや若手時代の経験について話した。「未来」という言葉をよく使っているせいか、「頭取は若いころ、銀行員として将来どうあろうと思って仕事をしていたのですか」と聞かれた。実を言うと当時は目先の業務に一生懸命で、そこまで考える余裕はなかった。しかし、日々業務に一生懸命取組むうちに自分に自信が持てるようになり、得意分野が分かってきた。自分がそうだったので、質問をしてくれた若手には「一生懸命頑張っていたら、こんな仕事をしたい、こんな銀行にしたい、というのが5年後10年後に出てきますよ」と励ました。地方創生やSDGsも同じで、「具体的に何をしていけばいいのか」という部分は徐々に見えてくるものだ。その意味で言うと、いまいろいろものが出てきているので、将来が楽しみだ。

  • 三宅 中国銀行さんの未来共創プランは素晴らしいと思う。地銀を取り巻く環境が非常に厳しいので、地銀の就職人気が下がったり退職者が増えたりしている。2040年には岡山県の企業が30%近く消滅するというデータもある。中国銀行さんはそれを認めた上で「地銀としてこうやるんだ」「自分たちはこういう業務を展開して収益力を高めていくんだ」というビジョンを明確に描いている。

  • 加藤貞 ありがたいことに、長期ビジョンや中計をご覧いただいた他地域の方々から、中国銀行は変わってきたね、という評価をいただいている。近隣の地銀に勤めていた人が中途で入ってくるというケースも最近あった。中国銀行の考え方に共感してくれる人がいたことが嬉しい。残念ながらその一方で、プロパーの若手が3年もたたないうちに辞めていくケースもある。そこは課題だと認識していて、いまもいろいろなことを考えているが、長期ビジョンや中計がその状況を変えるきっかけになるかもしれない。

県内企業経営者の6割以上が事業承継を課題として認識


  • 加藤一 地方創生を推進する上で事業承継やM&Aは必須だ。20年3月期は680件の相談に応じられており、21年3月期は700件以上に増える見込み。かなり力を入れているという印象だが。

  • 加藤貞 事業承継はコンサルティング業務の中でも優先的に対応する必要がある分野だと思っている。岡山県の企業経営者の61~62%が事業承継を課題の一つに挙げているので、数年前に立ち上げたソリューション営業部の中で人材を固めながら対応している。今回のコロナ禍では最初に資金面でのサポートをしたが、話を聞いてみると、事業承継やM&Aにつながる案件が多かった。その傾向はここ1年で強くなっている。来期、再来期にはもっと増えるのではないかと見ている。

  • 三宅 昨年、「第8回M&Aバンクオブザイヤー」の地域貢献大賞(中・四国ブロック)を贈呈させていただいた。中・四国地区のトップランナーとして走り続けているのは本当に素晴らしい。

  • 加藤貞 現場の行員が、事業承継やM&Aなど取引先の課題に接したとき、銀行全体として、それに応える動きをしていく必要がある。その意味では人材の育成が重要になる。当行では、営業店から所管の部署に数日間研修に来てもらい、取引先でキャッチしたことを所管部に相談するなり情報を流すなりといった動きがスムーズにできるよう、訓練している。研修を通して、若い行員が経験を積んでくれたらいいなと思っている。また、本部行員の育成も重要視していて、他社に出向してもらう、地元の弁護士や会計士らいわゆる士業の人たちの仕事に参画してもらうなど、いろいろな取組みを進めている。
    今後については、中途採用にも力を入れたい。東京などの大都市で仕事をしていた人たちが、さまざまな理由で採用の相談に来られる。その人たちも含め、中国銀行のマンパワーをもう一段高めていきたい。中からも外からも、いろいろなことを考えていく必要がある。

  • 三宅 人材育成は政府の議論でも大きなテーマになっている。経産省の調べによれば、現在、経営者が60歳以上という企業は245万社ある。その245万社の経営者は、2025年には70歳以上になる。そのうちの127万社では後継者がおらず、廃業する見通しだ。さらに言うと、そのうちの60万社が黒字廃業だ。黒字でいられるのは、優れたサービスや技術を持っている、おいしい食べ物を提供している、地元の歴史や文化を担っているなど、地元で必要とされているからだ。最低でもこの60万社は救いたいところだが、事業承継やM&Aの実務に精通する人材が不足している現実がある。仮に地銀62行に専門人材が10人ずついたとしても、620人にしかならない。当社単独で350人くらい。つまり、その2倍にも満たない。しかも実際には各行に10人ずついる訳ではない。そう考えると人材育成は喫緊の課題と言える。
    当社では、出向のかたちで、地銀の優秀な人材を常時30人くらいお預かりしている。当社に来ていただいた人たちには、最初に檄を飛ばすようにしている。岡山県を取り巻く環境は厳しい。先ほど触れたように、40年には県内企業の30%近くが廃業すると言われている。岡山は昔から教育熱心な県で、偏差値60以上の進学校が数多くあり、多くの人が大都市圏の名門大学などに進むが、大学卒業後に地元に戻ってくる率は28%くらいだ。出向してきた人たちに対しては「この状況、地銀としてどう考えているの?」「どうやってUターン率を上げるの?」「どうやって廃業を減らすの?」という厳しい問い掛けからスタートする。
    その後で、いまを生きる地銀として何を学ばなければいけないのかを一緒に考え、事業承継やM&Aの必要性や重要性を説く。地銀はこれからコンサル業務が大きな収益の一つになっていくので、人材育成は本当に大事だ。

  • 加藤貞 当行では、行員育成のほか、起業家の種を発掘して育成・支援する「岡山イノベーションプロジェクト」などにも取組んでいる。今年で4年目を迎えるが、イノベーションスクールという学校で起業ノウハウなどについて1年間講義を行い、イノベーションコンテストを実施し、高い評価が付いた案件については資金面で支援する、という流れになっている。当行がこのプロジェクトで関わっている起業家は決して多くなく、万単位の企業が消滅していくという現実の前では小さい取組みに見えるかもしれないが、それでも「無から有を生む」ことに精いっぱい取組んでいきたい。
    それと同時に「有を無にしない」よう「つなぐ」取組みを継続していきたい。具体的に言えば、事業承継やM&A、ビジネスマッチングを通して企業や事業を別の会社につなぐということになる。岡山に寄ってきてもらいたいというのが本音だが、場合によっては遠い地域に引き継いでもらうこともあり得る。「自分のところで」「岡山だけで」と考えるのではなく、「全体としてどうしていくのが最適なのか」という考え方で進めていくべきだ。お客さま同士を最適なかたちで結び付けたり、事業承継などのノウハウを共有したりする目的で、19年10月にはトマト銀行、日本政策金融公庫岡山支店と「地方創生に関する連携協定書~おかやま共創パートナーシップ~」を締結した。同一都道府県に本店を置く金融機関の連携で、かつ公的金融機関が加わるパターンは珍しい。営業の最前線ではライバル関係になるし、3金融機関のお客さまがまったく重なっていない訳ではないが、連携はうまくいっている。

コロナで喫緊の課題となった 事業承継の相談


  • 加藤一 デジタル戦略の強化やDXについてお聞きしたい。2月1日からmeet in(ミートイン)社のコミュニケーションツールを活用した「オンラインご相談サービス」の取扱いを始めるなど、活発な動きを見せている。

  • 加藤貞 DXは、中計の五本柱の四つ目に挙げている。このデジタル時代においてDXの重要性は言うまでもないが、この分野で進んでいるとは思っていない。むしろ危機感を持っているので、プロジェクトチームをつくり、現在、いろいろと揉んでいるところだ。当行の内側に向けたDXはもちろん、取引先のDXのお役に立つ必要もある。総務省が昨年12月、地方自治体向けに「自治体デジタル・トランスフォーメーション推進計画」を示したように、今後は企業でも自治体でもDXが加速していくと考えられるので、私たちを頼っていただけるよう頑張っていきたい。

  • 三宅 こういう時代だからこそ、地銀の役割が幾何級数的に上がっている。実を言うと、いままで中小企業は事業承継を先送りにしてきた。中小企業の経営者というのはバリバリの営業マンや技術者で、目の前の問題解決には熱心だが、事業承継やM&Aは面倒くさいと後回しにしてきた。「銀行の言うことは分かるが、いまは忙しいから3年後に考えます」という感じだった。それが今回のコロナで高齢の経営者は気持ちが折れてしまい、事業承継の検討が前倒しになっている。実際、当社への相談件数もすごく増えている。「都市部で仕事を失った息子が、地元に帰って家業を継ぎたいと言っているので、ちゃんとした会社にするために買収を検討したい」といった相談もある。
    もう一つコロナの絡みで言うと、企業間格差が拡大したという印象がある。工夫に工夫を重ねてイノベーションを推進している企業もあれば、年齢的にもイノベーションが難しくなって、世の中の流れから取り残される企業もある。飲食店でもそうだ。連続的にイノベーションを起こしている飲食店と、通販も宅配もせずにじっと耐えている飲食店とで、大きな差が生まれている。後れを取った飲食店は、いま資金繰りが厳しくなっている。傷を深めるリスクを抱えながらさらにお金を借りるのがいいのか、傷が浅いうちに廃業やM&Aを検討すべきか、という決断を迫られている経営者は少なくない。こうした課題に適切な助言ができるのは、目利き力を持ち、事業性評価を得意とする地銀だ。地銀の役割はコロナ禍で、より重くなっている。

  • 加藤貞 先日、ある著名な脳科学者の講演を聞いた。世界の歴史を振り返ると、感染症のパンデミックが起きた後にはルネッサンスが生まれる、という話が印象深かった。パンデミックの時に「何がいいのか」「何が正しいのか」と本質を見極めるから、新しいものが生まれる。いままで引きずってきたことをやめるから、次のことができるようになる。そうしてルネッサンスが生まれる。オンラインやリモートで仕事をするという新しいかたちは、その一例だ。過去の銀行業界には不要不急な取組みがあったように思うが、今回のコロナでかなりスリムになった。一刻も早いコロナの終息を願うが、悪いことばかりではない。世の中で大切なもの、地域の大切なものを未来につないでいけるよう、時代の動きをしっかりと読み、スピーディーに動いていきたい。